パリ20区歩き ―17区―

17区地図

 
パリは狭いようで、実際にはなかなか広い。端から端まで歩いてみると、有名な観光スポットがなく、ガイドブックに載っていないパリがたくさんある。この17区は、全20区の中で一番、何もない区。何もないと言っても、もちろん人は住んでいて、街並みは間違いなくパリなのだけど、いつも観光客にあふれている場所とはここもまたぜんぜん違う。

8区、16区との境にある凱旋門からスタートし、北東に伸びるワグラム通りを歩く。ここで見たかったのは「サル・ワグラム」。『ラスト・タンゴ・イン・パリ』で、マーロン・ブランドとマリア・シュナイダーがタンゴを踊った場所だそうなのだけど、まあこうやって見てもぜんぜん分からない。今はコンサートやファッションショーなどに使われているそう。
 

サル・ワグラム

 
西側のマク・マホン通りに移ってまた凱旋門近くへ戻ると、ここにあるのは映画館「マク・マホン」。1度だけ入ったことがあるのだけど、スクリーンの前にちょっとした舞台があって、変わったつくりだなと思っていたら、伴奏つき無声映画の上映があるんだそう。映画にしろバレエにしろ、生演奏で楽しめるっていうのは素敵。ここもかなり年季の入った映画館らしく、かつてゴダールも熱心に通っていたとか。
 

マク・マホン

 
凱旋門といえば、ガイドブックなんかに載っている写真は必ずシャンゼリゼ通り側から撮っているけれど、実は裏に回っても同じ景色がある。ただ、雰囲気はぜんぜん違い、こちらはただの大通り。やっぱりシャンゼリゼに比べると、華やかさに欠ける。
 

 
17区は地図で見ても分かる通り、パリの外側に面している区なので、一番端まで来るとなかなか興味深い景色が見られる。パリ市内は厳しい景観条例の下、オスマン建築の建物が立ち並ぶ気品ある街並みが保たれているけれど、そこから一歩出た郊外は一転、高層ビルがどんどん建設されて、どこの大都市とも似たようなモダンな雰囲気。こうやって見ると、100年以上も変わらない景色を持つパリは本当に特別なんだということがよく分かる。
 

郊外との境目

 
もちろん郊外には出ずに、ここから北東へ向かって歩く。17区は、全体的には落ち着いた高級住宅街という印象で、観光客に煩わされずにパリらしい暮らしが満喫できそうな雰囲気がある。奥深くまで入っていくと、パリらしからぬ派手な色の建物も。
 

 
鉄道が通っている場所までやって来た。こうやって広い場所から電車を眺めるのは、鉄道好きじゃなくても楽しい。ただ、線路なんかを見ていると、日本とは違ってやっぱりだいぶ汚いのが残念なところ。
 

線路

 
そしてこの辺まで来て、なんと雨。家を出たときはけっこういい天気だったのに、パリの青空は長続きしない。まあそれでも、せっかく来たんだし行けるところまで行ってみよう。18区に近づくにつれて、モンマルトルのサクレ・クール寺院がちらちらと現れだす。
 

サクレ・クールへ向かう道

 
徐々に南に下り、8区、9区、18区との境にあるクリシー広場に到着。特に何があるっていうわけでもないのだけど、割と大きな広場で人も多い。活気がある場所はやっぱり楽しい。
 

クリシー広場

 
ここからすぐ近くにあるのが、映画館「シネマ・デ・シネアスト」。あまり目立たない外観で、探すのに苦労した。19世紀にはキャバレーだったそうで、シネフィルの好奇心を刺激する名前は女優ファニー・アルダンによるものだそう。この人は今でもテレビに出ていたりするけれど、私が好きな60年代に活躍した俳優の中で唯一、見た目があまり変わっていないかも。
 

シネマ・デ・シネアスト

 
ちなみに、通りを挟んだこの映画館のすぐ正面には大手シネコンがあり、こっちの方はすぐに分かった。
 

シネコン

 
ここからまた住宅街の中を探検してみよう。日曜でほとんどのお店が閉まっていたとはいえ、楽しそうなショップというのは、別に観光客がいなくてもどこにでもある。地元の人が普通にショッピングしてそうなところほど、いいものがありそうな気がするし。
 

 
ただ、あまりにも目印になるようなスポットがないので、歩いている人を観察。小さな子供を連れたお母さん、花束を持った素敵なお父さん、犬を連れたマダムなど、普通に生活している人に注目してみるのも、なかなか面白い。
 

 
17区は広くて、とりとめがなくて、1回行っただけでは何があるのかあまりつかめない感じ。観光客どころかアジア人さえあまりおらず、本当にパリジャン、パリジェンヌしか住んでいないような、そんな印象のエリア。ただ、学生用アパートの募集がけっこう多いのもこの区で、同じ学校に通っていて17区に住んでいる子もいる。私の行動エリアからはちょっと遠いので、個人的には不便そうだなと思っているのだけど、また歩いてみてここに隠れている秘密を探ってみたい、そんな風に感じさせるまだまだ謎の残る地区といったところかな。

 

子供たち
こんなかわいらしい姿も

 

その他の区はこちら。
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滞在許可証の更新⑥

去年6月から始まったこの長い物語にも、ついに終わりがきた。やっと手に入れたのだ、新しい滞在許可証!最初の許可証はパスポートに貼る簡易なシール型だったのに対し、2年目からはちゃんとしたカード。見た目は安っぽいけど、触ってみると硬くてしっかりしている。やっと手にすることができた。考えてみれば、この手続きに9カ月もずっと煩わされてきたのだ。うわさには聞いていたけれど、覚悟していた以上の大変さだった。
 

滞在許可証

 
前回⑤は、この滞在許可証ができる前に、その代替となるレセピセの有効期限まで切れてしまい、2通目のレセピセを申請したという話。このころからさすがに心配で夢にも出てくるぐらいだったのだけど、その申請書を投函してから約10日後、新しい滞在許可証ができたという連絡が、なんとSMSで来た。切手付きの封筒を渡していたし、てっきり郵便で呼び出し状が送られてくるのだと思って毎日郵便受けを気にしていたからびっくり。確かに郵便は事故も多いし、SMSの方が確実だけど、じゃあ最初からそう言えよー。切手代払ったのに・・・。この辺の要領がなんとも悪いのだ、フランスの行政。

SMSに受け取り日時は指定されていなかったので、メッセージのリンクから警察署のホームページへ。ちゃんと予約ができるようになっている!これまで、このページが自分ではなかなか見つけられず毎回数時間並んでいたけれど、ここで予約すればよかったんだ。まあ、今さらすぎるけど。しかも、滞在許可証受け取りのための時間はガラ空きで、2、3日後にすぐ予約が取れる状態。レセピセの期限が切れているのが心配で、もしかしたら許可証を取りに行くまでに2通目が郵便で届くかもしれないと思い、予約日を少し先にしようかなと考えたものの、やっぱり早い方がいいと思い直して近い日をチョイス。タイミング的に、向こうで2通目のレセピセを作成する前に滞在許可証ができているかどうか確認した可能性が高いし、もうレセピセは来ないと考えた方がいい。大体、レセピセが2枚もらえるなら、滞在許可証の有効期間1年間(学生の場合)をカバーできることになるから、許可証の意味ないし。

ところで、滞在許可証の更新はタダじゃない。大して高くないとはいえ、専用の切手を指定金額分買わなければ発行してもらえないのだ。金額は許可証の種類や地域によって異なるのだけど、最初にもらった必要書類リストには「購入証明書」という記載があったものの、いくらなのかが書かれていなかった。仕方ないので自分で調べてみたところ学生は79ユーロということだったから、ネットで購入し証明書を持参。ところが実際に書類を提出したときには、いらないと返されてしまったので、最終的にこれがどうなるのか謎だった。でもここでSMSのメッセージに「49ユーロ」と金額指定が。なるほど、そういう仕組みか。値段は郊外だとパリより少し安いのかも。まあこういうことがあるからか、ネットで買った分は1年間払い戻しできるようになっているので、さっそく手続きした後、あらためて49ユーロ分を購入。損害はなかったとはいえ、こういう部分も分かりにくいし二度手間。

3月も後半に入ったというのに、寒の戻りで雪が積もった今朝、もう何度も通った警察署までの道をまた歩く。半年ほどの間に7回・・・。なんでこんなにスムーズにいかないんだろう。でも、雪の郊外というのはなかなかよくて、景色を眺めながら歩くのは意外にもけっこう楽しかった。
 

 
真冬のような寒さでも、警察署の前にはいつも通り行列ができている。夏に来たときより人数はだいぶ少なめだけど。でも、予約があればここに並ば必要はなく、さっと入れてもらえる。今日はこれまでと違うロビーで待つように言われ、1人ずつ順番に窓口に呼ばれるのを眺めながら自分の名前を聞き逃さないように少し緊張して待機。ほぼ予約時間通りの9時15分に呼ばれると、窓口にはやさしそうなお兄さんが。パスポート、期限切れのレセピセ、そして切手の購入証明書を出すと、あっさり滞在許可証を渡してくれた。心配していたレセピセも有効期限の確認さえなく、罰金を払わされることもなかった。一応、少し多めに現金を持っていっていたのだけど(といっても5000円ぐらい)、まったくの杞憂だった。滞在許可証の更新申請さえしていれば、レセピセが必要どうかはこっちの都合で、向こうにとっては別にどうでもいいみたい・・・。とりあえずほっとして警察署を出る。滞在時間わずか20分。
 

警察署

 
家に帰って最初にしたことは、アロカ(住宅手当)受給のためのデータ送付。もらったばかりの滞在許可証の写真を撮って、自分専用のページにアップすればOK。これがないと補助金は振り込まれないので、去年の10月から半年も止まったままだったのだ。でもこれでようやく、次回から復活。止まっていた半年分もまとめて振り込まれるはず。いろいろな手続きを進めるためにはやっぱり、正式な手続きを経て発行された正式な滞在許可証が必要になってくる。

はー、それにしてもやっと終わった。安心したー。でも、せっかく手に入れたこの滞在許可証、去年9月から今年9月までが有効期間なので、もうすでにあと半年を切っている。9月以降どうするかは考え中だけど、もし再更新するならそろそろ準備を始めないと・・・。

 
滞在許可証の更新①はこちら
滞在許可証の更新②はこちら
滞在許可証の更新③はこちら
滞在許可証の更新④はこちら
滞在許可証の更新⑤はこちら

 

雪のエッフェル
雪にかすむエッフェル塔も美しい

パリの映画館めぐり⑧

今回も、5区の学生街カルチエ・ラタンにある小さな映画館。ソルボンヌ大学近くの人通りが多い場所に立つ「ル・シャンポ」は、数あるパリの名画座の中でも象徴的な存在で、日本のメディアでも写真を見かけたりする。パリに住んでいれば、入ったことはなくても前を通ったことはあるかも。ちなみに、写真右奥に向かって細い通りを少し行くと、映画館めぐり④の「ラ・フィルモテーク」があり、ここに着くまでにさらに1つ、ミニシアターが隠れている。
 

外観

 
この映画館もロビーにはチケット売り場があるだけで待合スペースはないから、上映前には毎回、外に列ができることになる。上映室は2つあり、プログラムによって列の場所が指定されているので、小さな立札で目当てのプログラムを確認してから最後尾につく。これを間違えると、別の列に並び直さないといけないため要注意。あとから来た人が並んでいる人に、何の作品を待っているのか聞いていることも多く、私もよく聞かれる。こちらの人は外国人にも気にせず話しかけるので、その辺の意識が日本人とぜんぜん違うなと感じる。
 

列
去年1月、黒澤明特集に並ぶ人たち

 
開館は1938年。多くのシネフィルに愛され、ゴダールやトリュフォーはもちろん、ルネ・クレール、ルイ・マル、クロード・シャブロル、クロード・ルルーシュ、アニエス・ヴァルダといった、後に名だたる監督になる人たちも通っていたそう。90年代の終わりには閉鎖の危機にあったけれど、映画関係者や一般のファンによる署名によって存続が決まり、今も個性的な映画館として存在感を示している。というのはホームページの情報。古い分、歴史も詰まっていそう。

「ル・シャンポ」の特徴は、何といってもプログラムの多彩さ。まあどの名画座も独自のプログラムを組んでいるのだけど、ここもまたかなりユニーク。ヒッチコックやフリッツ・ラング、ビリー・ワイルダーといった、他でもよくやっている“分かりやすい”特集ももちろんあるのだけど、どちらかというとベルイマンとかパゾリーニとかブレッソンとか、本物の映画好きでなければ気軽には見に行けないようなコアな企画が多い。こういうのになってくると、さすがになかなか足が向かない。残念ながら、面白いというより苦痛になってしまう可能性が高いからだ。でも逆に、メルヴィルやクルーゾーなど、場合によっては名前さえ知らなかった監督の作品を発見できることもある。日本ではあまり見る機会がなかった黒澤作品もここでかなり知った。それと、この映画館はオールナイト上映もやっていて、なんと最後に朝食も出るらしい。
 

いずれもホームページより引用

 
場所柄もあり、かつては学生が多かったみたいだから、そのユニークなプログラムが人気だったようなのだけど、今は断然、年配の観客が多い。土日は若い人もいると思うけれど、せっかく学生街にあるし、いつの時代も映画好きの学生は一定数存在しているはずなのに、こういう現象は本当に残念。そのうち、スマホで映画を見るのが普通になるんだろうか。

もう一つの特徴は、ユーモラスなキャラクター。ひょろりとしたシルエットはそう、ユロ伯父さんこと、あの愛すべきジャック・タチ。上映室へ向かう途中にも、見覚えのある立ち姿で迎えてくれる。この人、大好き。ただ、なぜこの映画館が彼に捧げられているのかは、ホームページを読んでもよく分からなかった。頻繁に特集をやっているわけでもないし。
 

ジャック・タチ_上映室への階段ジャック・タチ_チケットの裏

 
ところで、フランス人は映画館で声を上げてよく笑う。日本ではあまりない現象だし、されるとイラッとしそうだと思っていたけれど、意外になかなか楽しい。ここで見たのではないのだけど、ロメール『恋の秋』は印象的で、笑いどころも多くみんな最後まで大ウケだった。でも寂しいのは、みんな笑っているのに何がおかしいのか分からない場合が多いこと。まだまだセリフを聞き取るまでには至らない。ただ、作品によって理解度はぜんぜん違い、60%ぐらい分かるものもあれば、未だに10%も聞き取れなくて激しく落ち込むこともある。あまり古いものだと音質がよくないから、そのせいもあるのは確かなのだけど、映画を見ることが必ずしも聞き取りの上達に結びつくわけではないことを実感してもいる・・・。

 

フライヤー
ゴダール特集のときのフライヤー

 

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