パリ20区歩き ―16区―

16区位置

 
今住んでいる場所からはセーヌ川を越えてエッフェル塔や凱旋門の向こう側(西側)に位置する16区は、未知の領域。でもここにも、歴史的に重要な建物や映画によく出てくる景色が広がっていた。隣接する7区や8区とともにシックといわれる16区、日本人駐在員も多く住むというその落ち着いた雰囲気を歩きながら確かめてみよう。
 

川沿いの景色
対岸の15区から眺めた16区の景色

 
まずは、セーヌ川に面した美術館パレ・ド・トーキョー。現代アートを展示していて、夜中の12時まで開館しているとのこと。なぜトーキョーなのかと不思議に思っていたのだけど、現在はニューヨーク通りと呼ばれている美術館前の通りが、かつてはトーキョー通りという名称だったためだそう。別に日本の作品ばかりを展示しているわけではなかった。ただ、個人的に現代美術には興味がないから、ここに入ることはたぶんない。

 パレ・ド・トーキョー

 
ここから少し歩いたところにあるのが、ギメ東洋美術館。この美術館はすごく面白い。常設展示では日本のほか中国やインドなどアジアのあらゆる国の美術品が鑑賞できて、作品数も膨大。一度入ったときは、広重の東海道五十三次や北斎の富嶽三十六景を中心とした「日本の風景」展が目的だったものの、第一日曜だったから全部無料で全館見てしまった。パリ滞在1年になろうとしていたのに、第一日曜を活用したのはこのときが初めて。もったいない。
 

 
ギメ美術館が立っているのがイエナ広場で、ここからは地下鉄のイエナ駅とイエナ通りにアクセスできるのだけど、このイエナという名称が前から気になっていた。なぜかというと、大好きな日本のファッションブランドIÉNAが、たぶんこの場所をイメージしているから。どんなところなのか、ぜひ見てみたい。
 

 
イエナ通りを歩いてみると、うん、なるほど。高級すぎず、庶民的すぎない、品のいい建物が続いている。自立して自由に、でもきちんと生活している30代ぐらいの女性が住んでいそう。まさにブランドのイメージにぴったり。こういう場所が似合うようになりたいもの。
 

 
さて、このイエナ通りを南へ下っていくと、気持ちのよいトロカデロ広場とそこに立つシャイヨー宮が目の前に。シャイヨー宮は1937年のパリ万博に合わせて建てられたとのことで、中には博物館が入っているそう。

 シャイヨー宮

 
でも、それよりもここは、雑誌などの写真撮影にも使われる絶景スポットとして人気。エッフェル塔を背景に、なんともパリらしい景色をカメラに捉えることができる。

 トロカデロ広場とエッフェル塔

 
観光客でにぎわうテラスを背に、広場を通って建物の一番端まで歩いていく。ここにあるのは、あの旧シネマテーク・フランセーズ。12区に移転する2005年までこの場所に存在していたものが、当時のままの姿で残っているのだ。今は閉鎖されている地下の入口は、フランソワ・トリュフォーの『夜霧の恋人たち』、ベルナルド・ベルトルッチの『ドリーマーズ』などで見覚えがあるし、特にヌーヴェル・ヴァーグの監督たちが毎日のように通っていたということも知っているから、とても感慨深い。ここにフランス映画史の一端が詰まっている。
 

 
セーヌ川に沿ってまた少し南に進むと次に現れるのは、この16区と向こう岸の15区とを結んでいるビル・アケム橋。道路の上をメトロが通る構造はエクトール・ギマールの設計によるもので、橋そのものはもちろん、ここから眺めるセーヌ川の景色も見事。映画にもよく登場するのだけど、これについてはまた15区の記事で。
 

 
それにしても、歩いていると周りには高級そうなアパートばかりで、瀟洒という形容がぴったり。静かで落ち着いているし、いかにもお金持ちが住んでいそうなかんじ。
 

 
続いてやって来たのは、これもギマールが設計したアール・ヌーヴォー建築のカステル・ベランジェ。細かい装飾がなかなか楽しい。直線的で灰色の建物が多いパリのところどころにあるこういう遊び心いっぱいの建築物、なんだか新鮮で不思議と街並みになじんでいる。ここの住人らしき人が何人か出入りしていたから、今も普通に住宅として使われているんだなあ。歴史的なものを受け継いで普段の暮らしに取り入れているのは、ヨーロッパの素敵なところ。
 

 
ここから南西に向かってしばらく歩き、ル・コルビュジエが設計したラ・ロッシュ邸にも寄り道。建物だけでなく、彼が描いた絵画やデザインした椅子なども見られるそうなので、ここはまた時間をつくってゆっくり訪れる予定。近くには、コルビュジエ自身が住んでいたアパートもあるらしいから、まだまだ見なければいけないところがいっぱいだ。

 ラ・ロッシュ邸

 
周辺にある家もジブリのアニメに出てきそうなレトロな雰囲気で、この小さなエリア一帯がおとぎ話の中みたい。
 

 
16区の西側にはブーローニュの森が広がっていて、想像通りゆったりとした時間が流れている。森の中には競馬場なんかもあって、日本とはやっぱりちょっと違うイメージ。
 

 
ただ、このブーローニュや12区の東側に広がるヴァンセンヌの森は暗くなると危険だと言われている。実際に歩いてみて、確かに夜は何かあっても誰にも分からないだろうなと実感。夜道の一人歩きを避けなければいけないのは、日本にいても同じだけど。

 ブーローニュの森6

 
時間をかけて森の中を散策し北側へ出ると、存在感たっぷりのルイ・ヴィトン財団美術館が現れる。3年前にオープンしたばかりだそうで、モダンな建物がそれだけで興味を引くのだけど、どんな作品が展示されているのかも気になるところ。

 ルイ・ヴィトン財団美術館

 
幻想的な森を抜けて、最後にマルモッタン美術館へ。閑静な住宅街にひっそりと佇む美術館は、モネの作品所蔵数が世界一だそう。以前、学校の聞き取りテストの問題で出てきて知ったのだけど、パリにはなんと150もの美術館があるらしい。毎月、第一日曜を使ったとしても、仮住まいの身で全部回るのは到底無理だ。行きたいところを厳選しなければいけないのだけど、その前に、どんな美術館がどこにあるのかを調べるだけでもかなり大変。

 マルモッタン美術館

 
 
パリを代表する圧倒的な景色に、バラエティー豊かな美術館や建築物、そして地元の人が休日を過ごすブーローニュの森と、いろいろな楽しみ方ができる16区。洗練された地区といわれるだけあって、どこを歩いても上品な雰囲気。中心部から離れていくにつれてだんだん庶民的なイメージになっていく他の区とは違い、自然だけれど粋な、多くの人が憧れる“パリらしい”暮らしを見ることができる。エッフェル塔とセーヌ川が近いということで、住む場所として個人的にもポイントが高いのだけど、身分不相応でちょっと居心地が悪いかも・・・。

 

アパート
こんなモダンなアパートも

 

記事のタイトルまたは日付をクリックすると、コメントしていただけます。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください