パリから帰国②

こんな時期に国際線の便を利用する人もあまりいないだろうから、出国・入国の様子についても触れておこう。エールフランスに乗ったのだけど、ちゃんと搭乗できるかどうか不安で、あらかじめ出国関連情報をフランス語で確認。それでもやっぱりハプニングはあった。
 

機内からの夜明け
機内から見えた中東辺りの夜明け

 
まず6月、チケットを予約した翌日にフライトがキャンセルになったとのメールが届く。ネット上では変更や払い戻しの手続きができず、どうしようかと思っていたところ、数時間後に「先ほどのメールは間違いでした」とのメールを受信。不安に思いながらも、とにかく1席確保した。

次に、搭乗2週間ほど前になって予約情報を確認すると、昼すぎのはずだった出発時間が深夜に変わっている。こういうときこそ個別にメールで連絡してほしいのに。たまたま見たからよかったものの、一般の航空券予約サイトやシャルル・ド・ゴール空港のホームページでフライト検索し、本当に変更になったのか確かめずにはいられない心境。滞在許可証の期限までには少し余裕があるとはいえ、それまでには絶対にフランスを出なければいけないので、だいぶ気をもんだ。

そして当日。どんな風に搭乗までの手続きが行われるのかまったく予想がつかなかったので、通常よりは少し早めに到着。結局、流れ自体は同じだったものの、エールフランスのカウンターでチェックイン手続きをした際に担当スタッフから衝撃の一言。

「最近3日以内に受けたコロナ検査の結果がないと乗れません」

そんなはずない。というのも、これについてはフランス人の友達も調べてくれたし、自分でもエールフランスのホームページを見てみた結果、とにかくマスク必須という記載しかなく、テストについては一切触れられていなかったのだ。ただ、この地上職員のお姉さんもすごく同情的。すでに住居を含むすべてを整理し日本に帰ることを伝えた上で「検査のことなんてどこにも書かれていないですよね」と言ってみると、「調べてみますね」とパソコンの画面を眺め、「日本に到着後テストを受けて14日間外出を控えるならOK」とのこと。

これで分かったのは、少なくともフランスを出国する場合、検査は国や航空会社が求めるのではなく、渡航先の国によって必要かどうかが決まるということ。フランスでは、EU外から到着した人に対しては空港で検査をしているみたいだけど、出発する人にはしていない……というか、してくれないよう。まあ、出て行く人に無関心なのは当たり前か。国際線を利用するなら、各自でしっかり調べて準備しろということ。

そんなわけで、ちゃんと飛行機には乗れたのだけど、日本に行くなら検査を受けなければいけないというのも真偽は怪しい。というのも、日本に着くとテストについて聞かれることもなく、乗客は国籍にかかわらず全員問答無用で検査場に案内されたからだ。機内でも乗務員さんたちとこの話になり、フランス人スタッフは「搭乗前検査はフランス人だけでいい」と言うなど、乗務員の間でも認識は分かれているよう。ちなみに、機内はガラガラだった。
 

罫線

 
到着した関西空港でのテストは、その場で唾液を提出し短時間で結果が出るもの。フランスでは鼻での検査しか見たことがなかったし、判定を待つため初日は国が用意したホテルに泊まるものだと勝手に思っていたから、かなりの見込み違いだった。結果は1時間ぐらいで出て、幸いにも陰性。ただ、陰性でも公共交通機関の利用は禁止で、14日間は外出するなとのこと。これは事前に知ってはいたものの、実際に私みたいな状況で帰国した人にとっては厳しい。

普段は日本に住んでいて、ちょっと数日、海外に出ていたというのなら納得もできるのだけど、コロナのずっと以前からフランスにいて向こうでも何ともなかったのに、日本の外にいたというだけで一律に疑われるのは正直、あまりいい気はしない。ちょうど帰国のタイミングで感染する可能性もないとはいえないけれど、確率としては低いだろうし。今はこういう対応が必要なのは理解できるものの、少し前まで日本は在留許可を持っている外国人の入国まで拒否していたから、どうしても排他的なイメージを持ってしまう。これって逆に考えれば、荷物も生活の拠点もすべてフランスにある私が、外国人であるためにフランスに戻れないということ。これがどんなに不寛容で閉鎖的なのかは、経験した人間にしか分からないのだろうか。もちろん、その間にも家賃をはじめとする費用は発生するというのに。

それにしても、空港では検査場までの経路に加え、検査が終わった人が出口に向かう経路にもあちこちに誘導の職員が立っていて、親切というか、大げさというか……。最終的に、検査に関係するスタッフは大勢いて、その数は明らかに乗客より多かった。その割にテストの説明なんかは全部日本語だったから、外国人はかなり不満だったんじゃないかと思う。

その後、2日ぐらい空いて、自治体の保健所から自宅に電話がかかってきた。健康状態のチェックということで14日目まで毎日電話があったのだけど、ずっと平熱で体調も特に変わりないから、それを伝えるだけで終わり。そして、ついにその14日間も終了し、今は晴れて自由の身だ。
 

罫線

 
ところで、こんなにパリが好きなのになぜ帰ってきたかというと、答えは簡単で、単に仕事がないから。正確には、きちんと稼げてやりたいことができる仕事がないということ。パリで日本人が働き口を探すのは実はそれほど難しくなく、日本人向けのレストランやカフェ、食料品店なんかだとしょっちゅう求人が出ている。フランス語もそこまで高いレベルは求められないから、とにかくパリに住むことが第一で仕事は何でもいいというのであれば、こういう職に就くという選択肢もありだと思う。特に、フランス人と結婚してパリに住んでいる日本人女性は、日系のお店で働いている人がけっこう多い。

ただ、それ以外の仕事を見つけるとなるとハードルは一気に上がる。実際に求人情報は頻繁に見ていたのだけど、やっぱり言葉の問題が大きい。言葉といっても、フランス語ではなくて英語。少しぐらいフランス語ができるからといって、フランス人と同じように電話を取ったり、資料を作ったり、会議に出たりできるわけはないからフランス企業はまず無理で、日系か外資ということになるのだけど、たとえ日系企業でも求められるのはまず英語。フランス勤務とはいえ、フランス語はあくまで付加価値としている企業がほとんど。これはフランスに限らず、英語圏以外の国ならどこでも共通することのようだし、もっといえば日本のフランス企業で働く場合も同じなんだろうと思う。結局、どこまでいっても最終的には英語力が物を言うのだ。

そんな状況と自分の希望を照らし合わせてこれからの道を考えたとき、残念だけどここでいったん日本に戻るのが一番いいような気がした。もちろんビザの問題もあるけれど、フランスの場合はそこまで難しくはなく、残ろうと思えば残ることもできた。でも、今の状態でパリに住み続けることに自分でも納得がいかなかったのだ。将来またパリで暮らすのか、それとも日本でもっと心惹かれるものが見つかるのかは分からないけれど、とにかくフランス語だけは忘れないよう意識しなければ。そして、このブログももう少しだけ続ける予定。

 

パリの街角
こんな何気ないパリの景色が恋しい

4件のコメント

  1. こんばんは。ワーホリで渡仏し、来年学生ビザで行こうとしているアラサーです。
    たまたま見つけたこちらのブログですが、文章がとても綺麗で読みやすく、ほぼ全てをあっという間に読んでしまいました。
    なかなかこのような文章のブログは見ないので、思わず一人で感動していました。
    お仕事柄、文章と向き合う時間が長いのかと思いますが、どのようなことに気をつけて、或いは考えて文章を書いているのか興味があります。また、文章力(読みやすさ)を伸ばすにはどのようなことをすればいいですか?(読書量を増やす以外で…)
    もし、お時間あれば、ブログのネタや個別に返信などをしていただけると、とても嬉しいです。

    1. メッセージありがとうございます。
      そんな風に言っていただけると、とてもうれしいです。このような質問をいただくとは思っていませんでした(笑)。
      確かに仕事を通して自然に身についたものはあると思いますが、個人的には客観的な視点を忘れないようにしています。内容にもよりますが、基本的にこのブログはパリを知らない人にも興味を持ってもらえるようにと思って書いているので、パリに住んでいる人や自分にとっては当たり前のことでも、誰もが理解できるようできるだけ丁寧に説明することを心がけています。よく使われるテクニックとして、具体的な一人の人に向けて書くというのはいいと思いますよ。
      あとはやはり読書量になるのですが、いいなと思う文章に出会ったらなぜいいと感じるのかを分析し、それを繰り返していくうちに自分なりの表現をつくっていけると思います。
      私ももちろんまだまだ勉強中なのですが、文章力というのは一朝一夕に身につくものではなく、これまでの蓄積だと思うので、たくさん読んで書くことが結局は一番の近道なのではないでしょうか。
      きっと語学も同じですね。
      来年はコロナが落ち着くといいですね。パリ生活はあっという間です。思い切り楽しんでくださいね。

      1. すらすらと、難しい言葉を使うことなく分かりやすくて優しい文章で、小説を読んでいるみたいでした。母親にも見せたら、「この人は読書をたくさんしているんだろうねぇ」と。
        読み書きに関して専門ではありませんが、読んでいて心地良い文章は、ブログではなかなか見かけません。漢字や小難しい言葉ばかりを並べて、いかにも自分のブログは読みやすいだろうと感じるものばかりで、退屈に感じていたところでした。
        質問にもありがとうございます。
        ぜひ、これからも無理のない程度に更新を続けていただけたら嬉しいです。

        1. 読んでいて心地良いというのは、まさに私の目指すところです。最高の誉め言葉をありがとうございます。
          今はフランス渡航に向けて準備中でしょうか。これから行かれるとはうらやましいです。何か面白いことがあれば、ぜひまた遠慮なくメッセージくださいね。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください