パリの映画館めぐり⑧

今回も、5区の学生街カルチエ・ラタンにある小さな映画館。ソルボンヌ大学近くの人通りが多い場所に立つ「ル・シャンポ」は、数あるパリの名画座の中でも象徴的な存在で、日本のメディアでも写真を見かけたりする。パリに住んでいれば、入ったことはなくても前を通ったことはあるかも。ちなみに、写真右奥に向かって細い通りを少し行くと、映画館めぐり④の「ラ・フィルモテーク」があり、ここに着くまでにさらに1つ、ミニシアターが隠れている。
 

外観

 
この映画館もロビーにはチケット売り場があるだけで待合スペースはないから、上映前には毎回、外に列ができることになる。上映室は2つあり、プログラムによって列の場所が指定されているので、小さな立札で目当てのプログラムを確認してから最後尾につく。これを間違えると、別の列に並び直さないといけないため要注意。あとから来た人が並んでいる人に、何の作品を待っているのか聞いていることも多く、私もよく聞かれる。こちらの人は外国人にも気にせず話しかけるので、その辺の意識が日本人とぜんぜん違うなと感じる。
 

列
去年1月、黒澤明特集に並ぶ人たち

 
開館は1938年。多くのシネフィルに愛され、ゴダールやトリュフォーはもちろん、ルネ・クレール、ルイ・マル、クロード・シャブロル、クロード・ルルーシュ、アニエス・ヴァルダといった、後に名だたる監督になる人たちも通っていたそう。90年代の終わりには閉鎖の危機にあったけれど、映画関係者や一般のファンによる署名によって存続が決まり、今も個性的な映画館として存在感を示している。というのはホームページの情報。古い分、歴史も詰まっていそう。

「ル・シャンポ」の特徴は、何といってもプログラムの多彩さ。まあどの名画座も独自のプログラムを組んでいるのだけど、ここもまたかなりユニーク。ヒッチコックやフリッツ・ラング、ビリー・ワイルダーといった、他でもよくやっている“分かりやすい”特集ももちろんあるのだけど、どちらかというとベルイマンとかパゾリーニとかブレッソンとか、本物の映画好きでなければ気軽には見に行けないようなコアな企画が多い。こういうのになってくると、さすがになかなか足が向かない。残念ながら、面白いというより苦痛になってしまう可能性が高いからだ。でも逆に、メルヴィルやクルーゾーなど、場合によっては名前さえ知らなかった監督の作品を発見できることもある。日本ではあまり見る機会がなかった黒澤作品もここでかなり知った。それと、この映画館はオールナイト上映もやっていて、なんと最後に朝食も出るらしい。
 

いずれもホームページより引用

 
場所柄もあり、かつては学生が多かったみたいだから、そのユニークなプログラムが人気だったようなのだけど、今は断然、年配の観客が多い。土日は若い人もいると思うけれど、せっかく学生街にあるし、いつの時代も映画好きの学生は一定数存在しているはずなのに、こういう現象は本当に残念。そのうち、スマホで映画を見るのが普通になるんだろうか。

もう一つの特徴は、ユーモラスなキャラクター。ひょろりとしたシルエットはそう、ユロ伯父さんこと、あの愛すべきジャック・タチ。上映室へ向かう途中にも、見覚えのある立ち姿で迎えてくれる。この人、大好き。ただ、なぜこの映画館が彼に捧げられているのかは、ホームページを読んでもよく分からなかった。頻繁に特集をやっているわけでもないし。
 

ジャック・タチ_上映室への階段ジャック・タチ_チケットの裏

 
ところで、フランス人は映画館で声を上げてよく笑う。日本ではあまりない現象だし、されるとイラッとしそうだと思っていたけれど、意外になかなか楽しい。ここで見たのではないのだけど、ロメール『恋の秋』は印象的で、笑いどころも多くみんな最後まで大ウケだった。でも寂しいのは、みんな笑っているのに何がおかしいのか分からない場合が多いこと。まだまだセリフを聞き取るまでには至らない。ただ、作品によって理解度はぜんぜん違い、60%ぐらい分かるものもあれば、未だに10%も聞き取れなくて激しく落ち込むこともある。あまり古いものだと音質がよくないから、そのせいもあるのは確かなのだけど、映画を見ることが必ずしも聞き取りの上達に結びつくわけではないことを実感してもいる・・・。

 

フライヤー
ゴダール特集のときのフライヤー

 

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