パリ20区歩き ―14区―

14区位置

 
パリに行ったことはなくても、モンパルナスという地名は聞いたことがある人は多いかも。20世紀初めに芸術家たちが住み着いたエリアで、それがこの14区。

14区には、いつも乗り換えに使っているダンフェール=ロシュロー駅がある。だからここは個人的にとてもなじみのある地区。この駅はいつも通過するだけで降りることはほとんどないのだけど、レトロでかわいらしい駅舎だった。14区歩きはここからスタート。

 ダンフェール=ロシュロー駅

 
駅からすぐのところにあるのがカタコンブ(地下墓所)。元々は採石場だった場所に、18世紀ごろ地上の墓地が不足したことから埋葬が始まったそうで、地下約18メートルに600万にも及ぶ人骨が納められているとのこと。現在は人気の観光スポットになっているようで、このときもすごい行列。

 カタコンブ前

 
持ってきたガイドブックにはあまり詳しく書かれていなかったのだけど、調べてみるとここは地下墓所として世界最大ともいわれる規模らしく、迷宮のようになっているみたい。かつては潜ったまま帰ってこず、遺体となって発見された人もいるとか。入ってみたいような、怖いような、でもほかにはなかなかない場所であることは間違いない。

 カタコンブ内
画像引用元:フランス・パリの地下深く600万人が眠る世界最大の地下墓地「カタコンブ・ド・パリ」

 
カタコンブのすぐ側にはライオンの像が堂々と座っている。春学期の作文の授業で読んだ小説にこの像が出てきたのだけど、やっと出会えた。普仏戦争でベルフォールの街を防衛した英雄ダンフェール=ロシュロー大佐の栄誉を称えているとのこと。駅名はこの人の名前だったのか。

 ライオン像

 
北に少し上がると、カルティエ現代美術館が見えてくる。カルティエとはもちろんあの高級ジュエリーブランド。ガラス張りのモダンな建物は周囲の木々と調和するように設計したらしい。確かに、透明ガラスに緑がよく映えている。こういう文化的な活動をする企業っていいなあ。

 カルティエ現代美術館

 
さらに北に向かい、ラスパイユ駅を過ぎたところにあるのがカンパーニュ・プルミエール通り。かつて多くの芸術家たちが暮らし創作活動を行った、歴史的な約100メートル。まあ、こうやって見たかんじは別に普通なのだけど。通りの入り口にあるレストランが素敵。
 

 
まずは31番地、マン・レイが長年にわたって利用したというアール・デコの建物。パリに多い無表情な建物とは違う、凝った装飾。中から子供たちが出てきたから、今もここで生活している人がいるのだ。こうやって古いものを受け継いでいくのがヨーロッパの文化。
 

 
エリック・サティなどが滞在したホテル・イステリアは29番地。

 29番地ホテル

 
1階右側、白っぽい入り口の上に、藤田嗣治の住んでいた「23」番地の数字が。当時とは変わっているだろうけど、こんなところで暮らしていたんだなあ。彼の絵はすごく好きで何度も展覧会に行っているから、感じるものも大きい。

 23番地

 
このカンパーニュ・プルミエール通りは『勝手にしやがれ』で、撃たれたジャン=ポール・ベルモンドがふらふらと走っていくラストシーンが撮影された場所でもある。歩いてきたのとは逆に、彼はレストランの方に向かってよろめきながら進み、ラスパイユ大通りに出てすぐのところで倒れた。

 勝手にしやがれ勝手にしやがれのロケ場所

 
そう聞くと、ここで撮影が行われていた場面が思い浮かびそうなぐらい、今でも独特の静けさがある。11番地は当時、ゴダールの友人のアトリエだったとのこと。

 11番地

 
通りにあるほかの建物も、確かにちょっとアーティスティックなものが多い。同じように芸術家たちが好んだモンマルトルの雰囲気にも少し似ている。
 

 
つづいて、多くの著名人が眠るモンパルナス墓地へ。パリには大きな墓地がいくつかあるけれど、ここは2番目の広さだそう。個性的なお墓もあって、ゆっくり見ていくと楽しめるかも。
 

 
まずは2010年に亡くなったエリック・ロメールにごあいさつ。好きな映画監督はたくさんいるけれど、やっぱり彼は別格。監督を1人挙げろと言われたら、もうずっと前からこの人だ。ただ、シンプルなこのお墓、探すのにかなり時間がかかった。大きな墓地では入口に地図があって、有名人が眠っている場所には印がつけてあるのだけど、それでも一つひとつアルファベットを確認しながら探し当てるのはなかなか困難。

 エリック・ロメールのお墓

 
映画好きならお参りしたい人たちはほかにも。これはジーン・セバーグ。それこそ『勝手にしやがれ』で忘れられないミューズを演じた。
 

 
ジャック・ドゥミ。何度見ても美しい『シェルブールの雨傘』や、たまたまこの直前に映画の授業で再見した『ロシュフォールの恋人たち』の監督。

 ジャック・ドゥミのお墓

 
そしてこの人も外せない。フランスのスター、セルジュ・ゲンスブール。今も世界中で愛される伝説的歌手。かつては日本でもかなりの人気だったはず。

 セルジュ・ゲンスブールのお墓

 
墓地をあとにしてモンパルナス大通りに出ると、歴史のあるカフェが並んでいる。顧客であったモディリアーニの絵が飾られているラ・ロトンド、ヘミングウェイがここの牡蠣を好んでいたというル・ドーム、ピカソや藤田らが愛用したル・セレクト・・・。こういうカフェは、今でも著名人が通っているというから、きっと雰囲気も当時のまま変わっていないんだろうな。
 

 
モンパルナス駅に向かってモンパルナス大通りを歩いていく。途中、モンパルナス通りに折れると、クレープのお店がたくさん。クレープは元々ブルターニュ地方の郷土料理で、モンパルナス駅からブルターニュ行きの列車が出ているため、駅から近いこの辺りにクレープ屋が密集しているんだそう。これらのクレープがどういう味なのかは分からないけど、日本のようにデザートという感覚ではないと思う。
 

 
駅に近づいていくと、空に向かってそびえるモンパルナスタワーが。高さ210メートルとのことで、6区にある学校の近くからでもよく見える。最上階には展望台があるらしいから、そのうち上ってみよう。

 モンパルナスタワー

 
この辺りの雰囲気は、庶民的で親しみやすい。地元の人が通っていそうなカフェやレストランがあり、アート市のようなものもやっている。観光客相手じゃない場所って落ち着いていていい。
 

 
ようやくモンパルナス駅に到着。4月にラ・ロシェルへ行ったとき、ここから乗ったのだけど、よく見ると近代的な駅だ。モンパルナスっていう響きから想像するのとはだいぶ違う。

 モンパルナス駅

 
実はこの辺りにはよく来る。というのも、映画館ゴーモン・パルナスがあるから。まあここは普通のシネコンなのだけど、周辺に分館みたいなのもいくつかあって上映作品が多い。学校の帰りに寄れるから便利だし。ただ、私はカードを使えるけれど、学生料金でも10ユーロ以上とかなり高い。パリは映画館によって料金がぜんぜん違うのだ。

 ゴーモン・パルナス

 
ここからは線路に沿ってずっと南へ下っていく。途中、公園がたくさんあって、大人も子供も外へ出て遊んでいる。健康的な風景。それにしても、本当にパリって公園が多い。
 

 
どんどん歩いていくと、見たことのある景色。パリに来たばかりの去年9月、ヴァンヴの蚤の市に一度訪れた場所だ。ここでトラムを降りたんだっけ。この住宅街も見覚えがある。あれからもう1年近くたってしまった。
 

 
今度はトラムに沿ってさらに歩き、郊外鉄道RERのシテ・ユニベルシテール駅に到着。ここもいつも通る駅だけど、外側から見るのは初めて。シテ・ユニベルシテールというのは大学都市、大学が集まっているところという意味だから、きっとこの辺の建物は大学なんだろうと思う。外国人を含むたくさんの学生たちがこの駅で乗り降りしているし。
 

 
そして駅の周辺にはまた公園。このモンスリ公園は『5時から7時までのクレオ』などの舞台にもなっているそう。映画はぜんぜん覚えていないけど、ここもまた地元の人がのんびり過ごす気持ちのいいスポット。
 

 
 
14区は意外にみどころが多くて、なかなか大変だった。芸術家たちが集った痕跡があちこちにある一方で、今を生きる人たちの暮らしぶりも感じられ、大きいけれど親しみのある雰囲気。アーティストたちが気に入った理由も分かる気がする。観光客であふれる中心部を少し離れただけの落ち着いたパリ、古い歴史や文化とともにある庶民的なパリが見られるのが14区なのかな。

 

花屋
カタコンブ近くで見かけた花屋

 

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