滞在許可証の更新③

書類を誤って管轄違いのVal-de-Marneの警察署に送ってしまい、また最初からやり直すハメになった、というのが前回の話。更新手続き自体はまあいったん放っておいてOKなのだけど、取り急ぎ、新しい滞在許可証ができるまでの間、合法的にフランスにいることを証明してくれるレセピセをもらいにいかなければいけない。もう朝から並ぶのはうんざりだし、今の滞在許可証の期限が切れる9月3日までにあればいいのだから、最初は8月の夏期講習が終わってからにしようかなと思っていた。ただ、この国のことなので何があるか分からないし、やっぱりこういうのは早い方がいい。というわけで、5時間並んだ日の3日後にいやいやながらもう一度行くことを決心。前回、授業を休むという連絡をせず先生に怒られたから、今度は前日に口頭でちゃんと知らせたのだけど、先生の反応が笑えた。「ああ、恥ずかしいわ。あなたの警察署はちゃんとしている?」って!自国の役所仕事がぜんぜん機能せず、生徒たちが大変な思いをしていることをちゃんと分かっているのだ。この学校の先生たちを見ている限り、フランス人が適当でいい加減で仕事嫌いだという国民性を持つことが信じられないのだけど。

レセピセをもらうためには、3カ月分の家賃支払い証明書または電気、ガスなどの請求書が必要。前回、あまりにも疲れたので帰ってきてから何も準備していなかったのだけど、家賃支払い証明書はアパートの管理事務所ですぐにもらえるから、まあ問題ない。それよりも、写真を用意しなければ。Val-de-Marneの警察署に4枚も送ってしまい、それらはおそらく処分されたから、もう日本から持ってきた写真がなくなってしまったのだ。まったく、信じられない対応。ただ、フランスにも日本と同じような証明写真ボックスがあり、どうやら簡単に使えるらしい。数も多く、たいていの駅に設置してあるので、学校帰りにさっそく寄ってみた。

 証明写真ボックス

 
説明は全部フランス語だけど、たぶん言葉が分からなくても使える。日本のものとは違い、撮り直しもできるところが便利。ただ、おつりが出なくて、きっちり5ユーロ払わなければいけないのはやっぱりフランス。そんな都合よくぴったりの金額なんて持ってないって。

写真は無事にできたので、次は管理事務所へ。家賃支払い証明書は、本来ならば毎月、家賃を支払う度にもらえるものなのだけど、これまでは業者を通して払っていたため自分の手元にない。でも、最初にVal-de-Marneの警察署に送る書類を準備していたとき、滞在許可証の更新手続きには必要だからといってすぐに印刷してくれたので、何も心配していなかった。ところが、事務所にいくといつもの女の人がいない。どうやらバカンス中だったようで、代わりに対応してくれたのがこのアパートの責任者である神父さん。神父さんだけあってすごく親切なのだけど、書類のことはよく知らない。まずは、念のため持っていこうと思っていた住居証明書をお願いしたところ、ひな型の保存場所が分からないらしく、5分ぐらいMACのデスクトップを探し回った挙句、結局みつからなかったようで、まさか今日中にもらえないんかなー、明日の朝早く出ないといけないのになーと不安に思っていたら、神父さんの前の画面上に白紙のワードが。なんと、印刷されたフォーマットを見ながら、一から文字を打っている!うーん、その手があったか。

どうも神父さんは、部分的に文字を大きくしたり色を変えたりする方法を知らないようで、仕上がりがフォーマットとは多少違ったのだけど、まあ別にそんなのどうでもいい。それによく見ると、ひな型にはない「賃借人は毎月、家賃を支払っていることを証明する」との一文を追加してくれていた!というのも、肝心の家賃支払い証明書もどこにあるのかまったく知らないようで、結局もらえなかったのだ。確かに、今までの手続きはすべてこの住居証明書のみで済んでいるから、これがあれば十分なのかもしれない。でも、とはいえやっぱり不安。たった数枚の書類のために何度も行く事態だけは避けたい。どうしよう、と考えた末、そういえば電気代の請求書は1年分まとめてきていたから、それを持っていけばいいのだと思い当たる。これで書類は大丈夫。

準備万端で、再び早朝に出発。前回より20分遅い7時20分に到着すると、きっちり20人ぐらい並んでいる人が多くなっている。ただこの日は最終テストの前日で、また会話のテストで話すネタと文章を考えなければいけなかったから、前よりずいぶん時間が過ぎるのは速かった。9時ちょっと前、また職員が出てきて整理券を配布し始める。前回の若いお姉さんとは違い、見るからにキツそうなおばさん。でもまあ、入れればなんでもいい。と思っていたのだけど・・・。

 警察署入り口

 
10時ごろ、ようやく入り口前にたどり着き、レセピセをもらいに来たことを伝えておばさんに書類を見せると「ああ、あなた今日じゃないわよ。滞在許可証は9月3日まで有効なんでしょ?9月3日に来て」。は?でもこの前、担当の人に、9月3日より前に来るよう言われたんですけど。「とにかく今日じゃないから。今日は入れないわよ。はい、終わり。次の人」って簡単に言うなよ。もう2時間半待ってるんだけど!こっちも頭に来て食ってかかるけれど、ぜんぜん折れない。「もう終わり!もう終わりって言ってるでしょ!次の人!」。後ろの人がおそるおそる用件を切り出すものの、そうはさせない。悪いけど割って入る。いや、あんたらが来いって言ったんだろーが!だから授業休んでわざわざ来たのに、どうしてくれんのよ!じゃあ最初から9月3日に来るように言えよー!!って、心の中では叫んでいるけれど、言葉がすぐに出てこないってつらい。こっちが話し終わる前に向こうがまくしたてるから、言いたいことがぜんぜん伝わらない。結局、3分ぐらいの押し問答の末、「じゃあ9月3日に来ればいいってこと!?間違いない!?あーそう、ご親切にどうも!」と捨て台詞を残して立ち去る結果に。後ろに並んでいる人たちみんなが見ていたけれど、まったく気にならなかった。きっと誰もが同情してくれていたと思う。こういうのは日常茶飯事だから、外国人ならみんな同じ気持ちなのだ。それにしてもああ、もう悲しすぎる。どうしてくれるんだ、この無駄な時間!!

どうしようもなくイライラするけれども、またまた別の日に出直さなければいけない。この2週間で5回か。カレンダーを見ると9月3日は日曜だったので、1日の金曜に行くことにする。もし今度何か言われたら、4日に飛行機に乗らないといけないから、とでも言って、何としても入れてもらうつもりだった。実際、旅行や帰省のために今すぐレセピセをもらいたいという人はたくさんいるはずなのだ。
 

道路
バスもあるけど路線がよく分からないので20分歩く

 
5回目。朝7時半すぎと到着がまた少し遅くなったのだけど、週末だからなのか列にいる人がこれまでより少ない。とはいえ、待つのは長い。9時前、同じように職員の女性が整理券を配り始める。この前のおばさんじゃない!よかったー。しかも今度の人は、レセピセをもらいに来たと言うと滞在許可証の日付も確認せず「じゃああっちの列に並んで」だけ。ああ、前回この人だったら、すんなり入れてもらえたのに。担当者によって言うことが違う、それがフランス。ついてなかったとあきらめるにはあまりにも腹立たしいのだけど、これがこの国では普通なのだ。どんなことが起きてもそれが人生、ありのまま受け止めよう、というフランス人の考え方が、日本では賞賛や憧れの対象になったりするけれど、万事がこんな調子で進んでいくのなら、そう思うのが自然というかそうするしかないんだろうなあ。フランス人にとっては極めて普通の思考なんだろうけれど、何もかもがスムーズな日本では逆に新鮮な価値観なのかも。

とにかく中に入れて一息ついたものの、何と終わったのは午後4時半だった。9時間待ち・・・。昼からは座れたのだけど、何もすることがない。スマホも単語帳もいい加減飽きたし、もちろんお昼も食べないまま。しかも、どういう仕組みになっているのか、私より明らかにあとから来た人たちが先にどんどん呼ばれていくのだ。最後には仕事の終わった職員までが、待っている私たちに向かって「さようなら。よい週末を」と言い残し帰っていくっていう、日本では絶対にない光景も。日本なら“お客さん”がいる限り、自分の仕事が終わっても残って手伝うのが、少なくともそうしないといけないと思うのが一般的だけど、それをやると結局、どんどん残業が増えていくわけで、そういう風にやってきたことのマイナス面も今、大きくなってきている。フランスは日本より残業は少ないだろうけど、その分、サービスを受ける側に回ったときは我慢しなければいけないことも増える。だから、どちらの社会がいいかは人によるし、どちらがいいと一概には言えないのかもしれない。なんとなくそんなことを考えてしまったのだけど、ここで9時間も待たなければいけないのは、フランス人が残業しないことが原因じゃないはず。

そんなわけで、なんだかものすごく苦労してやっと手にしたレセピセ。もらってみると普通の紙だったのだけど、ひとまずこれで合法的に滞在が許可されたことになり、引き続きここにいることができる。なお、レセピセの有効期間は6カ月のようだから、それまでにちゃんと滞在許可証をつくってもらわないと。

 レセピセ

 
さて、やっと一つ終わったとはいえ、また1月に新しい滞在許可証をもらうための書類を提出しにいかなければいけないのが恐怖。というのも、一応予約はしているのだけど、これがあれば並ばなくてもいいのかどうかがよく分からないのだ。入り口前の看板にある青の項目「Etrangers avec convocation」は「呼び出し状を持っている外国人」という意味なのだけど、「convocation(呼び出し状)」に「rendez-vous(予約)」が含まれるのかは不明。まあこれも、当日の担当者によって解釈が分かれるんだろうけど、8月と1月では訳が違う。また2時間以上、外で待たなければいけないとしたら、考えただけでつらすぎる。

 列の看板

 
書類提出後は長い書類審査があるはずだから、実際に滞在許可証がもらえるのは3月ぐらいかな。学生の場合の更新は最大1年で、それ以降はまた1年ごとに更新が必要になるから、仮に再延長する場合、許可証をもらったと思ったらもう次の更新手続きに入らなければいけないことになる。逆に、今回のタイミングで数カ月だけ延長して年内いっぱいで帰るつもりだったとしたら、正式な手続きが始まる前にレセピセのまま出国することになる。なんて適当な制度。

ところで、心配なことがもう1点あった。今もらっている住宅手当アロカ=アロカシオンを管理するCAFから、新しい滞在許可証をもらったらすぐコピーを送るようにとの手紙が2カ月ほど前に来ていたのだ。これを送らないと、帰国したと思われて支給が打ち切られ、また面倒な手続きをしなければいけないのかと不安になり、取り急ぎCAFにメールで事情を説明。レセピセをもらったらすぐにコピーを送ると書いたものの、それに対する返信(なんと次の日に返ってきた!)は「滞在許可証がない間は支給を一時停止します」。結局そうなの?じゃあレセピセのコピーは送らなくていいや。あとでよく調べてみると、アロカを止めるにはそのための手続きが必要で、それをしない限り支給自体が勝手に打ち切られることはないよう。よかった。

それと、もう一つラッキーなことが。このアロカ、入居の翌月から受給権利があるのだけど、私は手続きが遅れてしまったために、3カ月分受け取り損ねたと思っていた。でも、アロカは毎月、前月分の家賃に対して支払われているみたいで、もしそうなら3カ月分ではなく2カ月分だったことになる。損したことに変わりはないけれど、それでもだいぶ救われた。悪い面があればいい面もある。腹立たしく悩ましく、不愉快にさせられることも多いけれど、一方で刺激と魅力に満ちあふれた国。奇妙で美しい、ここフランスで、2年目の暮らしが始まる。

 
滞在許可証の更新①はこちら
滞在許可証の更新②はこちら
滞在許可証の更新④はこちら

 

オランジュリー美術館前
こういう景色を見るとパリにいることを実感

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