再びのパリカト

6月の後半からずっと青空が続いているパリは、7月に入ってかなり蒸し暑くなり、シャワーを浴びても汗が出てくるあの日本の夏のような不快感を久しぶりに味わった。でも、それも1週間ほどでうそのように終わり、今はカラリとしたヨーロッパの陽気が戻っている。朝はひんやりと寒いぐらいで少し寂しいのだけど、やっぱりこれぐらいが楽。元々、夏は体調がよく、今はさらにエネルギーに満ちあふれている。一方で、日本の大雨のニュースはこちらでもけっこうやっていて、毎日やりきれない思いで見ていた。こういうときはものすごく距離を感じる。

さて、ほとんど学校に行かずマイペースで過ごしていた5月からの生活も一転、今月は去年通っていたパリ・カトリック学院付属語学学校、通称パリカトの夏期講習に通っている。6月まで在籍していた少人数制の学校は、やっぱりクラス自体のレベルがなかなか上がらず飽きてしまったし、最後に担当だった先生があまり好きじゃなかったので、またこっちに戻りたくなってしまったのだ。去年は、一刻も早くこのスパルタの環境から抜け出したいって思っていたのだけど、やっぱりどっちに行っても一長一短で、語学学校を選ぶのって本当に難しい。でも、久しぶりのパリカト、やっぱりこういうアカデミックな雰囲気が好きだなと感じる。
 

パリカト外観

 
元生徒とはいえ、いったん出ると外部生と同じ扱いになるようで、レベル分けのテストを受けなければいけなかった。これが、申し込んで何週間か経ったあとにいきなりメールで連絡がきて、48時間以内にやれとのこと。ちょうどそのとき、いろいろあってバタバタしていたし、事前に聞いていなかったから心の準備もできていなかったのだけど、仕方なく時間をつくってテスト用のサイトに接続。でも、なんだか自分のPCではうまくいかず、説明を読んでいたら制限時間までのカウントダウンが始まっていたり、聞き取り用の音声を再生すると強制的に画面が切り替わったりして、かなり時間をロスしてしまい、ぜんぜんできなかったなという印象。

そして7月に入って最初の月曜に、このテスト結果をもとにした口頭面接へ。案の定、出来は悪く、なんとB1-2だった・・・。同じパリカトで受けた去年8月の夏期講習では、1つ上のB2-1のクラスにいたのに。先生の手元にあったテストの採点表をちらっと見ると、作文とあと1つか2つの項目はB2-1だったのだけど、総合ではB1-2。4月に受けたTCFでもギリギリB2だったから、まあ点数的にはおそらくあまり変わらないとはいえ、やっぱりB1と判定されると落ち込む。たぶん、作文は安定していつも点数が取れるけれど、その他は問題の内容やそのときのコンディションによるから、運がよければB2、悪ければB1っていうレベルなんだろうなあ。私の場合、B2レベルの文法は理解できているのだけど、読解となると時間がかかるし聞き取りはできないから、テストになると点数が出ないのだ。本当に、B2が遠い。

そんなわけで、初日はB1-2のクラスを受講。ところが、これが簡単すぎる。このパリカトで一番最初のクラスだったA2-2と同じようなことが始まって、うーん、せっかく戻ってきてさすがにこれはないなと思ったので、すぐにクラスを変更。結局、B2-1になった。ただ、去年のB2-1に比べると、授業内容のレベルはかなり低い。これは、自分がレベルアップしたからそう感じるのではなく、去年のB2-1のテキストを見てもいまだに難しいから、やっぱり今年は内容自体が簡単なのだ。まあ実際にはクラスのレベルは関係なくて、先生によるのだなとあらためて実感。先生はベテランで、特によくはないけれど、悪くもない。
 

パリカト中庭

 
ただ、去年とは大きく違うことが一つ。しゃべるのが怖くなくなっている!これは、講習が始まってすぐに気づいた大きな変化で、自分でもびっくりした。もちろん今でも、特に欧米人に比べればぜんぜん単語や表現が出てこないし、ものすごくゆっくりとしか話せないのだけど、少人数制の学校で多少なりとも話す機会をつくってきたせいか、自分もしゃべれるって思うのだ。前は、しゃべりに自信がなかったし、実際しゃべれていなかったのだけど、それ以上に途中で止まってしまうのが怖くて、発言すること自体ができなかった。でも今は、その恐怖を感じない。

確かに、パリカトにしては人数が11人と少ない上に、あまりガンガン発言する人がおらず、クラス全体の雰囲気もいいということも影響しているのかもしれない。でも、欧米人がペラペラしゃべっているのを聞いていても間違いだらけだなと分かるようになったし、知らないうちに話すことに慣れて、同時に間違っていても別にいいやって思えるようになったのかも。ま、そうは言っても自分からどんどん発言するわけではないし、話す内容をすぐに思いつけないっていう別の大きな問題もあるのだけど、こんな風に自信を持てるようになるとは予想していなかったから、時間はかかっても少しずつ続けてきた意味はあったのかもと思える。この流れで、プレゼンも1日目にさっそく終わらせてしまった。今回は、カンヌでパルム・ドールを受賞した『万引き家族』が日本の保守派からバッシングを受けているっていう話題をピックアップ。
 

万引き家族フライヤー

画像引用元:http://www.allocine.fr/film/fichefilm_gen_cfilm=262694.html

 
キャンパス内で顔見知りの生徒もちらほら見かけるけれど、一番うれしかったのは、映画の先生に再会できたこと。この先生とは個人的にも親しかったから、パリカトを去るのもすごく残念だったのだ。久しぶり!って言い合える人がパリにいるってうれしい。

それにしても、アジア人が多数派というのはやっぱり落ち着く。今の時期は特にアメリカ人が多いし、キャンパス内では英語が飛び交っているけれど、パリカトを支えているのは多国籍の生徒たち。ベトナムとかマダガスカルの生徒なんて、少人数制の学校にはいないのだ。相変わらずバラエティーに富んだメンバーで、この夏期講習ももう半分が過ぎてしまった。あと2週間、無駄にしないよう大切に過ごさなければ。

 

カフェ前
カフェでワールドカップ中継に見入る人たち

パリのバラ園

梅雨の日本とは逆に、先週からずっといい天気が続いている。こんなに毎日、空に太陽しかないなんて、パリでは本当に珍しい。だんだん気温も高くなってきて、ここ2、3日はかなり暑いけど、せいぜい35度。さすがに歩くと汗ばむものの、湿気がなくカラッとしているから、夏好きの体には快適。クーラーどころか扇風機がなくても過ごせるぐらい。日が昇った瞬間からうだるような蒸し暑さに襲われるあの大阪の夏に比べれば、爽やかな初夏のような感覚だ。この青空、本当に取っておきたいぐらい気持ちいい。
 

青空と建物

 
さて、こう天気がいいと、勉強なんて放っておいて出歩きたくなってしまう。経済的な問題で遠出は厳しいのだけど、まだまだパリにも行っていない場所がたくさんあって、冒険は終わらない。16区にバラで有名な「バガテル公園」があるというので、散歩がてら行ってみた。ブーローニュの森の中にひっそりと佇むこの門から、すでに優雅な雰囲気が漂っている。
 

門

 
実は、ここからそれほど遠くない15区の郊外に本格的な日本庭園があるらしく、この日はそっちを見たかったのだけど、なんと工事中で入れなかったのだ。まあ、パリではよくあることだけど、けっこう楽しみにしていたから残念。そこで仕方なく予定を変更し、住宅街から森の中を通り1時間ほど歩いてここまでやって来た。前日にガイドブックを見ておいて正解。それまではこんな公園、名前さえ聞いたこともなかったし。

でも確かに、見る価値はある。こんなにたくさんのバラ!ぜんぜん詳しくないのだけど、色も形も様々で、一つひとつ見ていくと素人目にも違いがはっきり分かる。それにしても、本当に存在感たっぷりの花だ。昔から美の象徴とされることが多いのにも納得。
 

 
調べてみるとこの公園、毎年開催されるバラの国際コンクールの会場になっているそうで、1200を超える品種が植えられているんだとか。どうりで手入れが行き届いているはず。そしてこの庭園自体は、ルイ16世の弟アルトワ伯爵が改修し、バラ好きのマリー・アントワネットも訪れていたとのこと。なかなかの歴史だけど、改修したそもそもの目的は女性たちの気を引くことだったそうだから、王族が贅沢三昧していた時代の名残だともいえる。園内にいくつかあるメルヘンチックな館も、彼らが使っていたものだと考えると違和感がない。
 

 
園内は思ったより広く、バラ以外にもいろいろな花や植物が植えられているよう。それに、滝や池なんかもあって、なかなか趣向が凝らされている。
 

 
でも、個人的に一番のみどころは、放し飼いの孔雀!たくさんの孔雀たちが園内をあちこち歩き回っていて、甲高い鳴き声を上げている。近づいても何もしてこないし、危険はないよう。でも、あらためて見ると、孔雀ってなんてきれいな色をしているんだろう。模様も、まるでアーティストがデザインしたように見事だし。この優雅な羽を広げて求愛してくれないかなと期待したけど、まったく相手にされなかった。
 

 
特にバラに興味があるわけではないし、そもそも最初から目指して行ったわけではないのだけど、天気がいい日にのんびりするにはぴったりの公園だった。平日だったこともあって人も少なかったし、入場料はたったの2.5ユーロ!気軽に行けて、街なかとはまた違った雰囲気が楽しめるパリの穴場スポットかも。

 

園内から見るビル
外側の都会の景色とのコントラストも面白い

 

記事のタイトルまたは日付をクリックすると、コメントしていただけます。

パリ20区歩き ―15区―

15区マップ

 
日本人にとって、パリでもっとも住みたい人気エリアの一つ、15区。パリを象徴するエッフェル塔やセーヌ川に近い一方で、中心部からは離れていて親しみやすいイメージもある。個人的にもよく足を踏み入れる地区ではあるのだけど、いつもよりゆっくり歩いてみたらどんな景色が見えるんだろうか。

6区、14区との境にあるモンパルナス駅からスタート。すぐ近くにおいしいパンとケーキがそろうデ・ガトー・エ・デュ・パンがあるというので、前を通ってみる。高級そうな建物の1階に入る、パン屋らしからぬスタイリッシュなお店。中が見えないし入りづらい雰囲気だけど、パンもケーキも上品な味らしい。いつか機会があれば、ぜひ見てみよう。
 

パン屋

 
ゆるやかにセーヌ川を目指しながら、南西方向へ歩く。遠くからでもはっきり見えるエッフェル塔が目印。今の季節なら、緑が濃くてもっと明るい写真になるはず。
 

モンパルナスから見えるエッフェル塔

 
少し行くと、カラフルな外観が印象的な建物が。ここは、このブログの読者の方から教えてもらった図書館で、映画のDVDも豊富だそう。中には入らなかったのだけど、知らなければ絶対に行き着くことはなかった。こんなパリらしくないデザイン、外から見られただけでも満足。彼女はもう、日本に帰っているかな・・・。
 

図書館

 
そのままぶらぶらと南に向かって歩きながら、いつものように建物をチェック。一時期、気の迷いでインテリアコーディネートの勉強をしていたことがあるのだけど、やっぱり建築そのものの方が好き。中心部から離れるにつれて、色も装飾も増えていくのは他の地区と同じ。建物が明るいと、気分も明るくなる。
 

 
やって来たのは、ジョルジュ・ブラッサンス公園。私もパリに来るまでまったく知らなかったジョルジュ・ブラッサンスという人は、第二次大戦後に活躍したシャンソン歌手で、フランスでは今も知らない人がいないくらい国民的人気を誇るんだそう。とはいえ、なぜこの公園に彼の名前が付いているのかはよく分からないのだけど。
 

ジョルジュ・ブラッサンス公園

 
ここでは週末に古本市をやっていて、地元の本好きに人気とのこと。確かに、蚤の市みたいに観光客もいないし、ゆっくり本を選べそう。本、こっちに来てからほとんど読んでないなあ。
 

 
さて、ここからはまっすぐセーヌ川へ向かう。しつこいけど、建物が楽しい。こんなにバリエーション豊かなのに、ちゃんと街並みになじんでいて、どこまで行ってもパリだからすごい。パリの表情って様々だ。
 

 
やっと川沿いに出た。高いビルがたくさん並んでいて、ここは逆に、エッフェル塔がなければパリだと分からないようなモダンな光景。パリ市内は景観条例で建物の高さが規制されているはずなのに、ここはいいんだろうか。なんかちょっと残念。
 

セーヌ川沿い

 
川に沿って北東へ上がっていくと、見えてきた、自由の女神像。フランス革命100周年を記念して造られたもので、パリ在住のアメリカ人たちが寄贈したとのこと。フランスに自由の女神って唐突な気がするけれど、ニューヨークにあるあの有名な女神像はこれより前にフランスから贈られたらしく、そのお返しという意味もあったそう。こちらの女神像は、1889年のパリ万博のときからここに立っているということだから、かなりの貫禄。確かに、エッフェル塔をバックにした姿にも不思議と違和感がない。
 

自由の女神1

 
女神像が立つ中州は「白鳥島」と呼ばれていて、降りることができる。せっかくなので、優雅な後ろ姿も撮影。
 

自由の女神2

 
そして、ここから北東に向かう「白鳥の小径」がなんとも素敵!距離は短いのだけど、セーヌ川を両側に眺めながら並木の下をゆっくり歩くのは、すごく気持ちいい。大都会なのに、こんな風にあちこちで自然と調和しているのは、パリの好きなところの一つ。
 

 
心地よく散歩を楽しんでいると、前方に端正なビル・アケムがだんだんとその姿を現す。16区の記事にもちらっと書いた橋は、道路の上をメトロが通る特徴的な二重構造で、こうやって遠くから見ても絵になる。
 

ビル・アケム遠景

 
エッフェル塔の眺めもよく、パリらしい趣きのある橋なので、映画にもよく使われるそうだけど、有名なのはなんといっても『ラストタンゴ・イン・パリ』。細かい内容はあまり覚えていなくても、枯れた印象のマーロン・ブランドがやるせなげにここに佇む姿は、強烈なイメージとして記憶に残っている。最近は、真冬でない限り毎日必ずといっていいほど結婚記念写真の撮影が行われているらしく、このときもアラブ系のカップルが橋の半分を占領していた。
 

 
ちなみに、このビル・アケムを通るのはメトロ6番線。ここから望む景色は最高で、これが見たいがためにわざわざ遠回りして6番線に乗ったりもする。メトロからこんなパリらしい眺めが楽しめるって、すごい贅沢。
 

メトロから見る景色

 
最後に、ここから歩いてすぐの大型ショッピングセンター、ボーグルネルへ。2013年オープンと新しく、建物が3つに分かれているので、かなりの広さ。何でもそろうし、実際この近くに住んでいる人も、すごく便利だといっていた。私は一度、この人の家に遊びに行ったときに、ここに入っているショップ、ラ・パティスリー・デ・レーヴでケーキを購入。
 

 
15区は、一言でいって住みやすそうな印象。高級住宅地である7区や16区に隣接しているけれど、もっとカジュアルな雰囲気だし、かといって隣の14区ほど庶民的でもなく、適度にモダンで、確かに日本人が好みそうなちょうどいいバランス。クラシックなパリを楽しみつつ、現代の便利な生活が送れそうなイメージ。ただかなり広いから、南の方に下るとまた違った、より開放的な表情になる。どちらにしろ、住むエリアとしては本命候補の一つになりそう。

 

『ラストタンゴ・イン・パリ』のカフェ

『ラストタンゴ・イン・パリ』に出てきたカフェはビル・アケムのすぐそば

 

その他の区はこちら。
1区2区3区4区6区7区8区9区10区11区12区14区16区17区18区19区