パリを感じるカフェ

パリを歩いていて必ず目にするカフェは、この街には欠かせない文化。通りに張りだしたテラス席が多くの客でにぎわう光景は、日本でもおなじみかも。1年以上パリに住んでいながら、これまでカフェに入ったことは2、3回しかなかったのだけど、最近たまたま新たな2つのカフェを体験する機会があった。

まずは、今の語学学校のすぐ近くにある7区の一軒。この週に同じクラスだった日本人とメキシコ人、そして私を入れて女3人でランチ。
 

 
グラスが並ぶカウンターに、温かい光を灯す照明、黒板に書かれたメニューなど、まさにパリの伝統的なカフェのイメージそのまま。毎朝、中をのぞきながら横を通り過ぎるのだけど、その度に感じのいいお店だなと思っていたので、迷わず2人にここを提案した。パリではカフェが社交場のような役割を果たしているそうで、観光客があまりいない場所にあるこのお店でも、朝の9時前から地元に住んでいそうなおじさんたちが集まってカウンターで会話を交わしている。そんな場面を見るとパリにいることを実感。

 カフェ外観

 
注文したのは3人ともサラダ。とはいえボリュームたっぷりで、これだけでおなかいっぱいになる。私が選んだサラダはチーズがたっぷり入っていたのだけど、ぜんぜんクセがなく日本人でもおいしく食べられるものだった。ただ、やっぱり高い。この一品で約13ユーロ、飲み物を入れたら日本円で2千円近くする。学生が気軽に通える値段じゃない。まあでも、近所の人に愛されていそうなカフェの雰囲気が味わえたのには大満足。

 サラダ

 
そしてもう一軒、6区のサン・ジェルマン・デ・プレにある老舗カフェ、レ・ドゥ・マゴ。こちらは、かつて多くの文豪たちが常連だったということであまりにも有名。ヌーヴェル・ヴァーグの映画にもよく登場するので、個人的にも思い入れがある。

 ドゥ・マゴ外観

 
この辺りにはよく来るので何度も前を通ってはいたのだけど、入るのは初めて。前の学校で一緒だった日本人のCさんと久々にお茶をすることになり、同じく芸術家たちのたまり場だった隣のカフェ・ド・フロールと迷った挙句、こちらを選んだ。天気がよかったからテラス席はいっぱいだったのだけど、どちらかというと中の方に興味があったので、店内のテーブルをセレクト。天井が高く気品のある佇まいは、映画で見たイメージそのもの。でも、店員のおじさんたちは意外に気さくで、居心地がいい。私は安い学食でお昼を食べたあとだったからコーヒーを注文しただけだったのだけど、Cさんが頼んだオムレツを撮らせてもらった。
 

 
このお店は今やすっかり観光スポットになっていて、値段も普通のカフェより少し高めではあるのだけど、この洗練された雰囲気を味わうだけでも入ってみる価値はある。古い歴史を持つものがこんなふうに、時代に合わせて受け継がれているって本当に素敵だ。それを多くの場所で、身をもって感じることができるのが、パリの大きな魅力の一つだと思う。

 ドゥ・マゴ内観1

 
カフェというと、日本では一般的に若い人が利用するおしゃれなお店というイメージがあるけれど、パリではむしろ年配の人を見ることの方が多いし、30~40代ぐらいの男性が一人でスイーツを食べていることも珍しくない。ひと口にカフェといっても様々なタイプのものがあるのだけど、どちらかといえば社会的に自立した大人が通う場所という気がする。パリを歩いているとあちこちにカフェがあり、その数が本当に多い。そして、どれもまったく違和感なく街並みに溶け込んでいる。大阪中心部の繁華街にも一部、オープンテラス席が付いたレストランやカフェがあるけれど、なんか取って付けたような印象になってしまうのはまあ仕方ないのかな。

 

テラス席
狭くても必ずテラス席があるのがパリ流

 

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パリ20区歩き ―19区―

19区地図

 
日本で長年住んでいた大阪市に比べると半分ほどの大きさしかないパリ。端から端まで移動するのも、メトロを使えばほんの短時間で可能なぐらい小さな街なのだけど、生活圏から外れた場所へはほとんど行くことがないし、19区は未知のエリア。距離は近くても、ここではまた違ったパリの表情を見ることができる。

観光客でにぎわう隣の18区モンマルトルとは対照的に、19区には有名なスポットは特にない。このエリアの特徴は、ピクニックにぴったりの広い公園と運河沿いの散歩道。まあこれまでにも書いてきた通り、パリには大きな公園や気持ちのいい散策コースが他にもたくさんあるのだけど、この地区にあるものはなかなかユニーク。

まずは19区の北東に位置するヴィレット公園へ。ここはパリで最大の緑地だということで、なるほど歩いてみるとだいぶ広い。例によって太陽の下でのんびりと過ごす人たちの姿があちこちに。こういう景色、パリでは本当によく見る。
 

 
園内はきれいに整備されていて、科学産業博物館やコンサートホールなど大きな建物が点在している。そのせいか、ちょっと人工的な雰囲気がただよっていなくもない。夏には野外でのフェスティバルや映画上映なども行われるそう。
 

 
ヴィレット公園をひと回りしたあとはウルク運河に沿って西へ向かう。普段見ているパリとは違う風景が続き、同じ街じゃないような気がしてくる。
 

 
運河の先はバッサン・ドゥ・ラ・ヴィレットと呼ばれる大きな池になっていて、ここにも散歩コースが設けられている。元々は、運河を通って運ばれてきた穀物などを荷揚げするために造られた波止場とのこと。池ではアクティビティを楽しむ子供たちがたくさん。
 

 
池に沿ってさらに進むと、両岸に映画館mk2が見えてくる。1878年のパリ万博で使われた建物を再利用しているそうで、こんな自然の中にあっても違和感がない。mk2はパリのあちこちにあるシネコンなのだけど、場所によってはすごく小さくて独自のプログラムを組んでいるところもあり、常にチェックが必要。6区にあるmk2では、8月から9月にかけてトリュフォーの特集をやっていたので、ほぼ毎日通っていた。
 

 
端まで歩き池を見下ろすと、ちょうど観光客を乗せた遊覧船が通るところ。門の前で水量を調節する光景は、10区で見たものと同じ。池の向こうのヴィレット通りを越えるとその10区、サン・マルタン運河に出る。
 

 
ここから南東に向かい、今度はビュット・ショーモン公園へやって来た。今年見たエリック・ロメールの映画『飛行士の妻』に出てくる公園はここだそう。これを見たのは初めてだったのだけど、ロメールらしい素敵な作品で、緑が多い公園のシーンは特に印象的だった。
 

 
さっきのヴィレット公園よりナチュラルな感じがするけれど、ちょっと変わった風景も見られる。起伏が激しく、滝や吊り橋もあり、アスレチックスポットのような雰囲気。こういうのはパリにはなかなかないから、意外に楽しい。
 

 
一番高い場所には展望台があって、園内と街の眺めが楽しめる。こんな風に、緑と大きな建物のコントラストが見られるのって都会ならでは。客観的に観察すると面白い。
 

 
ちょっと街歩きもしてみなければ。観光客がいないからゆったりした空気が流れていて、地元に住んでいるであろう人たちの何気ない姿が興味深い。それに、ガイドブックには載っていないかわいらしいお店に偶然出会うことができるのも楽しいし、パリにいることを思い出させてくれる四角いアパートを見るとうれしくなる。ただ、2つの公園と散歩コースに時間を割いてしまい、このエリアならではの雰囲気をあまり感じることができなかったのは残念。
 

 
 
イメージとは少し違うパリを感じながら、ゆったりと、またはアクティブに楽しめるのが19区。これはこれで面白いし、観光客がほぼいないのもいいのだけど、個人的にはあまり好きじゃなかった。チュイルリーとかリュクサンブールとか、外国人であふれていてもやっぱり趣きのある公園の方がいいし、散歩するにしてもサン・マルタン運河の方が気持ちいい。ただ、あくまでもこの日歩いてみただけの感想なので、毎日通えばまた違った印象になるんだろうと思う。でも、これまで知らなかったパリを発見できたことには満足。

 

船が通るときだけ上がる可動橋

 

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新しい学校

8月まで1年間通ったパリカト(パリ・カトリック学院)から心機一転、新たな語学学校での授業が始まった。これまでにも散々書いてきたようにパリカトはとてもよかったのだけど、やっぱり読み書き中心なので、会話のレベルとの差がどんどん開いていくのが不安だった。基礎はかなり定着してきたから、今度はそれを使って書けるレベルまで話せるようになりたい。そのためには、1クラスの人数が少なくなければ。だから新しい学校を選ぶ際には、少人数制であるかどうかを重視した。

選んだのは、最近7区に移転した小さな語学学校。校長が日本人の女性で日本の多くの留学業者もここを斡旋しているから、日本人はよく知っていると思うし、実際に日本人の生徒も多い(なのであえて名前は出さない)。日本人がつくった学校だから選んだわけではなく、会話中心で少人数制のところを探していたら、たまたまここを見つけたのだ。というのも、この校長という人が日本人であるだけに、外国語で会話できるようになることの難しさ(特に日本人にとって)をよく分かっていて、会話を身に付けるのに理想的な授業を行う学校にしようと思ったそう。2年目は学費の安い語学学校を選ぶ人も多いみたいだけど、ネットでの評判や、実際にそういう学校に行っていた人たちから直接聞いた話によると、安ければ安いほど質も悪い。ビザ目的でとりあえず登録だけする人が多いようなところもあるから、確かにその通りだと思う。だから費用はかかっても、やっぱりちゃんとした学校に通うことにした。
 

学校外観
1階と地下が学校

 
クラスは最大7人で、生徒も真面目。みんなきちんと勉強してきている。ただ、ここはパリカトのように学期制ではなく、受講は週単位。つまり、毎週メンバーが変わるということ。休暇を利用して1週間だけ勉強しに来る人もいれば、私のようにある程度の期間通う人もいる。だからきっと、社会人や主婦の割合が多いと思うのだけど、年齢層はパリカトとあまり変わらない印象。ただなぜか、アジア人がものすごく少ない。もちろん日本人は常にいるのだけど、あとは欧米人がほとんどで、パリカトでよく見かけた韓国や中国、台湾などの生徒はめったに見ない。逆にパリカトは欧米人が少なくて、アジア人が圧倒的多数派。ベトナムやフィリピンなど所得の低い国からの留学生が大勢いるのが不思議だったのだけど、その名の通りカトリック系の学校だから、牧師さんとか教会の仕事をしている人たちが研修のようなかたちで団体で来ているケースが多かった。そういう生徒がここにいないのはまあ分かるとして、他の国の人はどういう基準で語学学校を選んでいるんだろう。なぜか自然にこうなるんだろうなあ。

場合によっては先生も毎週変わるのだけど、どの先生もまあ悪くない。パリカトの優秀な講師陣と同じようなクオリティを求められないのは仕方ないとして、それでもみんな経験は積んでいそう。ただ、中にはあまり熱意のない(ように見える)人もいて、特に最初の先生は相性もよくなかったから、次の週から違う先生になってほっとした。

レベル分けに関してはパリカトと同様、なかなか複雑。1週目はB1でこれがちょうどいい具合だったのだけど、2週目から1つ下のA2+になってしまった。この学校は会話のレベルでクラス分けをするから、1週目で会話ができていないと思われたのか、単に人数調整なのかは分からないけれど。実際、週によっては希望のクラスが満員で入れないこともあるし。会話重視とはいえ、やっぱり語学学校である以上、文法抜きというわけにはいかず、文法の時間というのが存在する。でも、これが退屈。日本でけっこう勉強してきた上にパリカトで散々たたき込まれたから、もうすでに知っていることばかりだし、かなり定着しているものも多い。ただ、それを使って話してみろと言われると、ぜんぜんできない。だから、会話の練習をするなら下のレベルの方がいいのだけど、内容自体は簡単すぎて時間がもったいないし、せっかくパリカトで訓練した読み書きのレベルも落ちそうで不安。

個人的な理想は、文法の説明なしでとにかくただしゃべるだけ、というものなのだけど、同じクラスにはその文法を初めて学ぶという人もいるから、なかなかそういうわけにもいかない。面白いのは、会話が得意な欧米人でも、文法通りしゃべってみろと言われると口ごもってぜんぜん言葉が出てこないこと。先週同じクラスだったイギリス人がまさにそうだった。多くの日本人は話す練習なしに文法の知識だけ増やすから、いざ口に出そうとすると頭の中でその知識をまとめられず言葉が出てこないということになるけれど、なかなか話し出せないこのイギリス人を見ていて、なんだか自分を含む日本人のそんな姿を思い浮かべてしまった。ただ彼は、休み時間になると知っている限りの表現でベラベラしゃべっているからすごい。

話せるかどうかは、テーマやクラスのメンバーによっても変わってくる。最初のクラスでは1週間ずっとスポーツの話題で、まったく興味がないわけじゃないけど特に思い入れもないから、フランス語の前に、まずは自分の考えを“見つける”ことから始めなければいけないのが大変だった。そして、このクラスには発言の多い生徒が2人いて、彼女たちがとにかくよくしゃべるので、やっぱりそういう人がいると勝てない。日本人は、というか少なくとも私は、たとえ話したいことがあっても自分ばかり話すと悪いなとか、ここで授業から脱線したことを言うべきじゃないとか、よくも悪くもいろいろ気を使ってしまうのだけど、そういうのをまったく気にしない、または気づいていない人というのも世の中にはたくさんいて、彼女たちはまさにそういうタイプ。授業というより、カフェで雑談でもしているような調子で、とにかくずっとしゃべり続けるのだ。ただ、そういう人たちでも文法になるとぜんぜんできず、こちらが断然上回っている。まあ本当に、どこにいっても文法と会話の国籍によるレベルの差は大きい。
 

教室から見える建物
教室から見える建物

 
とはいえさすがに少人数だけあって、パリカトに比べると圧倒的に発言の機会は多い。ただ、これだけでは話せるようにならないなと早くも気づいてしまった。文法も会話重視だけどずっとしゃべってばかりいるわけではないし、日によってはあまりディスカッションの時間がないこともある。1対1のプライベートレッスンもあるもののお金がかかりすぎるので無理。よく言われるように、フランス人の友だちを見つけることができればそれが一番なのだけど、正直なかなか難しい。もう少し学校以外で話せる機会を見つけないと・・・。それにしても、授業で隣の生徒と2人で会話させるのはやめてほしい。人数が多ければ仕方ないけれど、正しいフランス語を知らない同士で話してもどうしようもないし、少人数制の意味がない。なんでそれが分からないんだろうか。このやり方は嫌いで、同じクラスになった他の日本人の生徒たちも同じ意見だった。フランス人以外のフランス語は、フランス語の発音じゃないから聞き取れないし。
 

罫線

 
まだ手探りだけど、とにかくこの新しい学校での勉強が始まった。パリカトの語学学校は大学付属だったから、広いキャンパスで学生気分を味わえたけれど、今度は完全にプライベートな学校なので、パリならどこにでもある普通の建物になってしまったのは残念。ただ、日本人が経営しているだけあってシステムはちゃんとしているし、日本人の生徒が多いというのも個人的にはうれしい。パリカトは若い学生も多かったので、日本人だからといって仲よくなれたわけではなかったのだけど、今度の学校は社会人の割合が高いから、親しくなれる確率も高いはず。フランス語とは関係なく、仕事でつながりを持てるような出会いがあるとうれしいんだけどなあ。

 

学校がある通り
学校がある通りは静かで落ち着いた雰囲気

 

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