スペインより①

夏期講習が始まるまで1カ月休みなので、スペインにやって来た。せっかくヨーロッパにいるのだから、この機会を有効に活用しないともったいない。日本から行くのに比べたら断然安いし近いし、両替も必要ない。それに、今なら時間もたっぷりある。
 

オルセー空港
出発はオルセー空港

 
パリから約1時間45分、バルセロナに到着。フランスもスペインもシェンゲン協定内だから、出国審査も入国審査もなし。せっかく外国に来たのに、スタンプがもらえないのは残念だけど。昼に到着したものの、初めての土地で移動するのは思っているより時間がかかる。ただ、今はフランスに住んでいることもあって、地下鉄の切符の買い方や乗り方はかなりスムーズだった。こういうのは、ヨーロッパならどこもそんなに変わらないものだ。

15時ごろ、ようやく宿にたどり着く。ヨーロッパの宿は高いので、いつも通りユースホステルのドミトリーを利用。それでもバルセロナ市内だと1泊30ユーロはする。バスタオルも歯ブラシもシャンプー・リンスもすべて必要だし、人に気を使わないといけないけど(今もまだ23時半なのに近くで寝ている人がいる)、少しでも安くなるなら快適さは犠牲にしないと。この宿には使いやすそうなキッチンもあって、夜はここで何か作って食べている人がけっこういた。食費をなるべくかけたくないのはみんな同じ。
 

ホステルの部屋

 
少し休んでから、さっそく街へ。やっぱり最初の宿は中心部にして正解。とりあえず旧市街のメインストリート、ランブラス通りへ向かう。バルセロナに来て初めて目にしたスペインらしいものはこれ、ガウディ作カサ・ミラ。彼の作品だと知らなくても必ず立ち止まってしまうほど目立っている。ゆがんだ曲線が印象的なこの建物は山がテーマで、世界遺産に登録されているそう。
 

カサ・ミラ

 
さらに歩いていくと、またも奇抜なガウディの世界遺産カサ・バトリョに出会う。こちらのテーマは海。内部は海底や海底洞窟が表現されているそうで、かなり興味深いけれど、学生料金でも20.50ユーロ!うーん、ちょっと高すぎるなあ。それにしても、同じヨーロッパでもパリはコルビュジエのサヴォア廷みたいなシンプルな線の建物ばかりだから、雰囲気がぜんぜん違う。バルセロナはもっと開放的で、のびのびした印象。まあ、晴れの日でもくすんだ灰色に見えるパリが私にとっては魅力的なのだけど。ちなみにカサ・バトリョは写真右側で、左はたぶんガウディとは関係ないジュエリー店だと思うけど、この2軒が並んでいるのがかわいい。
追記:このジュエリー店は、ガウディの先生だったこともあるというリュイス・ドメネク・イ・モンタネールという建築家の作品だった。中も見学できるそう)
 

カサ・バトリョ

 
バルセロナ観光の拠点ともなるカタルーニャ広場に到着。ここから南に続くのがいよいよランブラス通り。この気持ちのいい並木道、仙台にちょっと似ているかも。観光客がものすごくたくさん。日本人もいるけど、それより多いのは韓国人と中国人。両側にはみやげ物屋やレストラン、そしてアイスクリーム屋が大人気!バルセロナはスペインでも北側なのでそこまで暑くはないのだけど、それでも街歩きには十分な暑さ。
 

 
このまままっすぐ進んでいこうかと思っていたら、途中でサン・ジュセップ市場を発見し、予定変更。今朝は7時ごろにご飯を食べた後、何も口にしていなかったから、このときはかなりお腹がすいていたのだ。かといってサンドイッチはできれば避けたいので、頑張ってここまで歩いてきたのだけど、そのかいがあった!肉、魚、果物、お菓子と何でもあるし、活気があって楽しい。
 

 
そして最終的に見つけたのが、テイクアウトのパエリア。これで6ユーロ。まあ、レストランで食べるよりははるかに安い。ランブラス通りに引き返し、海まで歩いて(遠かった!)やっと食事。味は普通で、日本で食べる方がおいしいかな。
 

パエリア

 
今日は疲れたのでここまで。明日はさっそくサグラダ・ファミリアへ行く予定。それにしても、ヨーロッパを本格的に旅行するのは久しぶり。これまで一番回ってきたエリアではあるのだけど、スペインとイタリアだけは行きたいところがありすぎて、長期で出かけられるチャンスが来るまで取っておいたのだ。そして、まさに今がそのとき。ただ今回、準備をしながら、昔の旅とはだいぶ変わったなと実感。

私が主に長期で旅していた学生のころは、スマホはもちろんなかったし、インターネットでの宿の予約というのもあまりメジャーではなくて、まだまだ電話が主流だった。だから、飛び込みでもけっこう安くていい宿が空いていたのだけど、今は全部ネット。人気のあるところはどんどん埋まっていくし、直前になればなるほど高くなる。これは航空券や長距離列車も同様で、予約は早ければ早いほど割安。2月に行ったキューバはネット自体が普及していなかったし、たぶん東南アジアや南米、アフリカなど、ネットはあってもシステムが十分整っていないところは昔ながらの直接交渉が通じるはずで、それこそが旅の醍醐味だと思うのだけど。

個人的には、気に入った街に長く滞在するのが好きだから、普段は航空券だけ取って何も決めずに行く。だけど今の時代、今回のような短期のヨーロッパ旅行でそれをやると、かなり高くつく可能性がある。だから仕方なく、出発前に全ルートを決めて、宿も交通機関もすべて手配してきた。でもこういうの、ツアーみたいで窮屈だし、ある程度それぞれの街の情報も調べなければいけないわけだから、かなり面倒だ。キューバの日本人宿で出会った子たちもそうだったけど、最近は下調べが億劫でほとんどせず、行きの飛行機の中で必死にガイドブックを読むっていうやり方が定番になっていたから……。何だかんだ言ってもヨーロッパは先進国だし“ちゃんと”しているから、後進国を旅するときの、交渉次第でどうにでもなるような面白さはない。それが、だんだんマイナーな国に好んで行くようになった理由でもある。

まあそれはともかく、バルセロナは思っていたより大きな街だったので、まだまだ見るところがありそう。スペインなんて散々書き尽くされているけれど、今回はまさに日記のように、リアルタイムで旅の様子を綴ってみようと思う。さすがに、毎日は無理かもしれないけれど……。

 

ブエリング航空機
スペインではメジャーなブエリング航空を利用

 

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パリ20区歩き ―8区―

8区位置

 
パリはみどころが本当に多い街だけど、この8区もまた絶対に外せない。多くの人が思い浮かべるパリといったらこの地区なんじゃないだろうか。ちなみにここを歩いたのはもう半年以上前の秋なので、写真に秋の気配が漂っている点はご了承を。

まずは16区、17区との交差点にある凱旋門前に行ってみると、ものすごい数の観光客。よく見ると展望台にも人がいっぱいだ。この壮大な凱旋門はナポレオンの命によって建てられた戦勝記念碑で、今では無名戦士も祭られているとのこと。誰もが知っている観光スポットであると同時に、フランス国民にとっても大切な場所なんだろう。そういえば、マクロン新大統領の就任セレモニーにここが含まれていたのも印象的だった。
 

凱旋門就任セレモニー

 
ここから続くシャンゼリゼ大通りは、まさに華やかなパリのイメージそのもの。行列のできるブティック、多くの人でにぎわうカフェのオープンテラス、地図とカメラを持って歩く大勢の観光客たちなどを眺めながら歩くだけで、パリにいる実感が味わえる。シャンゼリゼ大通りといえば、なんといってもゴダールの『勝手にしやがれ』だけど、さすがに映画の中の印象とはかなり違う。今ではほとんど観光客しか歩いていないと言ってもいいぐらいかもしれない。
 

シャンゼリゼ通り勝手にしやがれ

 
にぎやかな雰囲気を楽しみながら歩いていくと、向かい合って立つグラン・パレ国立ギャラリーとプティ・パレ美術館が見えてくる。どちらも1900年のパリ万博の際に展示品会場としてつくられたとのこと。建物自体にも価値があるけれど、特にプティ・パレの方は、私の好きなモネやセザンヌの作品、18世紀の装飾品などが常設展示されていて、なんと無料だそうだから、あらためてじっくり訪れてみよう。
 

左:グラン・パレ国立ギャラリー 右:プティ・パレ美術館

 
さらに進むと、オベリスクがそびえるコンコルド広場に出る。フランス革命時にはここにギロチンが設置され、ルイ16世やマリー・アントワネットが処刑された。今では想像できないけれど、美しい街にも激動の時代があったのだ。

 
コンコルド広場

 
ここから少し北に行くと、ギリシア神殿風のマドレーヌ寺院がその堂々とした姿を現す。これは本当に大きくて、歩いて通り過ぎるだけでもけっこうかかる。19世紀に完成したという歴史的な建物が街並みに溶け込んでいるのもパリの特徴。
 

マドレーヌ寺院

 
南に戻ってセーヌ川に出ると、パリでもっとも美しい橋と言われるアレクサンドル3世橋が目の前に。確かに、黄金の彫像がきらびやかでほかの橋とは違う。セーヌ川にかかる橋は全部で37あるそうだけど、それぞれ異なる雰囲気があって、比べてみると面白い。
 

アレクサンドル3世橋

 
アレクサンドル3世橋からはセーヌ川に沿って気持ちのいい散歩道が続いている。歩いていくにつれ、川を渡った対岸の7区にあるエッフェル塔がどんどん近づいてきて、それこそ映画のワンシーンのよう。
 

 
セーヌ川沿いの景色を堪能したら、またシャンゼリゼ大通りの方へ。この辺りにはハイブランドのファッションブティックが多く、こういうところで買い物するのが好きな人にはたまらないだろうと思う。
 

 
女性でも楽しめるという美しいストリップショーが見られるクレイジー・ホースには、スピルバーグやビヨンセもよく遊びに来るとか。こういうナイトクラブって日本にはなかなかないから、パリにいる間に一度は入ってみたいのだけど、トップダンサーたちのショーとあって料金もそれなりにするらしい・・・。
 

クレイジー・ホース

 
シャンゼリゼ大通りを北側に少し越えた凱旋門近くには、これもまたハイクラスのゲストに向けた高級ホテルが立ち並ぶ。落ち着いた閑静な雰囲気はさすが。あの印象的な映画『ディーバ』でオペラ歌手が泊まったホテルもこの辺り。数々の有名人も宿泊者リストに名を連ねるというこのホテルは、映画の世界観そのままにエレガントで静かな佇まい。

 ディーバのホテル

 
東に向かい住宅街に出ると『死刑台のエレベーター』で主人公が閉じ込められた建物も。携帯電話がある現代では成立しないストーリーだけど、マイルス・デイヴィスのサックスも忘れがたいクールな作品。もう少し北に上がると日本大使館もある。
 

死刑台のエレベーターのビル

 
そして8区の一番北の端、モンソー公園で休憩。ここは観光客がそれほど多くなく、地元の人たちの日常をのぞくことができる。こんな風に子供たちがのびのびと遊べる大きな公園がたくさんあるっていい環境だ。日本みたいに小さな公園というのはパリではあんまり見ない。
 

 
最後に、東端にある国鉄SNCFのサン・ラザール駅まで行ってみた。パリでもっとも古いターミナル駅で、モネが連作の題材としたことでも知られる。残念ながら、パリではよくある工事中という状況のため、外観は看板で覆われていたのだけど、中も何年か前に改装されたそうで、約70のショップが入る大きなショッピングモールになっている。今のところこの駅を使う予定はないけれど、知らない人たちであっても、不安と期待の詰まった出発の風景というのはいいものだ。
 

 
 
華やかで、エリア全体が観光客のためにつくられているような8区。セーヌ川を挟んだ左岸とはぜんぜん違う、右岸のエッセンスが凝縮したような地区。それだけに楽しいスポットもたくさんあるけれど、毎日これだとちょっと疲れそう。観光で来るならおもしろい場所だけど、住んでいる人にとっては時々でいいのかも。

 

シャンゼリゼ+凱旋門
これぞまさにパリを象徴する景色

 

5月24日「再び期末テスト」の中で、フランスは6月から夏休みと書いたけれど、通常は7月からのようなので訂正。さすがにそんなに早くはなかった。

春学期が終了

先週で春学期が終わり、必死で授業についていく毎日からいったん解放された。本当に、勉強不足と努力不足と実力不足を感じた3カ月だった。一応、次のレベルであるB1-2に上がることはできたけれど、今学期が始まったときと比べて上達した気はぜんぜんしない。去年、初めてこのパリカト(パリ・カトリック学院)の授業に出たとき、同じクラスでの生徒たちのレベルの違いに驚いたけど、今は納得。こうやってほぼ自動的にみんな上のクラスにいけるのであれば、レベルにばらつきが出てくるのは仕方がない。今でも十分差があるのに、それをそのまま持ち越すのだから。できない人がその差を縮めていくには、やっぱり努力するしかないのだ。

勉強の仕方についても考えさせられた学期だった。まず、授業中は2カ国語の辞書、つまり日本人であれば日仏辞書は禁止で、使えるのは仏仏辞書のみ。ただ、これは個人的にあまり有効だとは思わない。十分な語彙があるならいいけれど、少なくとも今の私のレベルではまだ、調べてもその説明の中にある単語がまた分からないし、答えにたどりつくまでの時間を考えるとかなり非効率。それに、フランス語でなんとなく分かったとしても、結局は日本語で正確な意味を調べ直さないといけない。それから、やっぱりできれば日本語訳のあるもので勉強したい。これはだめだと言われるけれど、外国語というのはどうしても、単語が全部分かったところで意味のつかめない文章というのがある。だから、それがどういうニュアンスになるのか分からなければ、何度やったところであまり効果はない。あと個人的にしんどかったのが、フランス語の文法用語。日本の文法書だと「関係代名詞」「命令形」「間接話法」というように全部日本語で書いてあるけれど、こっちで習う場合には当然、そういうのも全部フランス語。なので、最初からフランスで勉強した生徒たちはこれらを普通に知っているのだけど、ずっと日本でやっていた私にとっては盲点だった。実際しゃべるようになればこういう用語は必要ないけれど、日本の参考書には小さくても「関係代名詞(pronom relatif)」みたいに書いておくべきなんじゃないだろうか。

よく言われることではあるけれど、言葉というのは手段であって目的ではない。それを今、フランスで勉強するようになって実感している。というのも、学んでいるのはフランス語だけれど、その中身は社会的なことであったり政治的なことであったり芸術であったり。よく出てくるのは、世界共通の話題としてSNSの発達やリサイクル、スローライフ、ちょうど大統領選があったから選挙の話も出たし、デュマ、ヴェルヌ、サン=テグジュペリなんかのフランス文学、それにもちろん映画も外せないテーマ。だからいくら言葉を覚えたとしても、これらについて何も知らなかったり、興味がなかったりすれば意味がない。そう考えると、年齢を重ねた今だからこそよかったと思う部分はある。たとえ何カ国語かを話せたとしても言葉に中身がない人よりは、母語しか知らなくても知識や教養や好きなことがある人の方が絶対に魅力的だ。

 洋書

 
映画の授業についても少し。今学期はたくさんの作品を見ることができた。授業が始まったころはフランス映画の歴史を社会情勢と合わせて学んでいくという内容だったから、この辺は言葉も難しくあんまりついていけなかったのだけど、後半は1回の授業で丸々1本の映画を見せてもらえた(ちなみに授業は3時間)。ジャン・コクトー『美女と野獣』、ジャン・ルノワール『素晴らしき放浪者』、ルイ・マル『さよなら子供たち』、ジャック・ロジエ『アデュー・フィリピーヌ』など、これまで見る機会がなかった作品に出会えたのもよかったし、フランソワ・トリュフォー『あこがれ』、ジャック・ドゥミ『ロシュフォールの恋人たち』、ミシェル・アザナヴィシウス『アーティスト』といった2回目以降のものも、やっぱりいいなあと再認識。フランス語を習うというよりは、今のレベルのフランス語で文化を学ぶというのも面白い体験だったし、もちろん内容もすごく興味深かった。

 罫線

 
パリカトでは6月、7月、8月と夏期講習があり、1カ月単位で受けることができる。これに参加する人は同じクラスではほとんどいなかったのだけど、私は7月と8月の分をすでに日本から申し込んでいたので、B1-2のクラスを登録。授業の最初の日は夏期講習のためだけのレベル分けテストがあるのだけど、パリカトの生徒であればこれを受ける必要はない。B1-2の授業についていけるかはかなり不安だけど、結局、難しいかどうかは先生によるということが分かったので、いったんこれでやってみることにした。2カ月とはいえ、バカンスを除けば一学期が実質3カ月であることを考えると、けっこうなボリュームだ。

さて、最後の日は先生も含めてみんなで打ち上げパーティー。一時帰国する人、完全帰国する人、勉強を続ける人などさまざまだけど、やっぱり若い人は何かやりたいことがあって、その前に語学学校に通っている人が多い。こっちは9月から新年度だから、新しく芸術系の学校に行く人も多いし、大学院に行く人もいる。20代前半の韓国人の女の子は、もう韓国には帰らないつもりと言っていた。今は学生ビザで滞在しているようだから、実際に永住するのはなかなか難しいと思うけれど、そういう意思を持って来ている人もいる。ある程度、人生経験を積んでから留学するのはいい面もあるけれど、やっぱりこんな風に、人生を丸ごと変えるという決断がしにくいという意味では、若いころに来た方が可能性は大きいんだろうな。まあでも、自分の歩んできた道に後悔はない。これからも人生はつづくし、フランス語の勉強もつづく。

 

パーティー
ちなみにアルコールの持ち込みは禁止

 

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