カンヌ映画祭

毎年、この時期に南仏カンヌで行われる国際映画祭が終わった。日本ではあまり報道されないけれど、ヴェネチア、ベルリンと並び世界三大映画祭の一つと言われるこのカンヌ映画祭は、フランス人にとってかなり重要なイベント。テレビでは毎日、現地からのリポートがあり、●●監督の作品が上映された、俳優の●●がレッドカーペットに現れた、という話題やインタビューを届けてくれたので、お祭り気分をたっぷり味わうことができた。
 

 
映画の授業でもカンヌについて学習。毎年、必ずチェックする映画祭ではあったのだけど、正確には5月の第2水曜から約2週間行われることや、元々はムッソリーニのファシスト政権がヴェネチア映画祭をプロパガンダに利用したことに対抗するため始まったものだということは知らなかった。何度か中止になったこともあったようだけど、今年は70回目の記念の年。ちなみに各映画祭が始まった年を調べてみると、ヴェネチアが一番古く1932年、カンヌは第1回開催が1939年のはずだったけど第二次大戦の影響で1946年、ベルリンが1951年。どれも歴史がある。
 

公式ポスター
開幕前から話題になった公式ポスター

画像引用元:http://www.parismatch.com/Culture/Cinema/Festival-de-Cannes-2017-cachez-moi-cette-retouche-que-je-ne-saurai-voir-1222565

 
カンヌ映画祭にはいろいろな部門があって、一番注目を集めるのは何といっても最高賞パルムドールを競うコンペティション部門。今回は河瀬直美監督の『光』を含む18作品がエントリーしていた。このエントリー作品というのは、製作国以外で上映されていないことが条件なんだそう。だから、基本的に出品作は知らないものばかりなので、賞を取ったと言われてもピンとこないところはある。そしてこのコンペ以外にも、短編部門、ある視点部門、映画祭とは別の組織によって運営される監督週間、批評家週間など、様々な角度から映画を楽しもうとする企画がたくさん用意されている。こっちで見ていた映像には一度も出てこなかったけど、マナー問題で批判されたキムタクが出演している『無限の住人』も、コンペ部門以外での選出。

 

『光』
『光』フランス語版宣伝画像

 
実は4月に、先生が「カンヌに行く人いる?」とみんなに聞いていたので、行けるのか!?と驚いて少し検討してみたのだけど、結局やめた。というのも、このカンヌ映画祭というのは一般向けのものではなく、映画関係者や招待を受けたジャーナリストが対象で、それが批判されたりもしているのだ。一般人でも、監督週間や批評家週間の上映作品は見ることができるようだし、華やかな雰囲気を楽しむだけでも十分価値はあるかもしれないけれど。今年もカトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペール、ジュリエット・ビノシュ、マリオン・コティヤールなどなど、大女優たちが集結していたから、偶然会えたらラッキーだし。

審査員の顔ぶれも豪華で、国際色豊かな監督や俳優がそろう。今回の審査委員長は日本でもファンの多いペドロ・アルモドバル監督、そしてウィル・スミスが審査員の一人に選ばれたのもなかなかのセンス。今まで授賞式は見る機会がなかったのだけど、生中継ではなかったもののさすがにテレビでやっていたので、初めてその様子を知ることができた。セレモニーそのものはアカデミー賞なんかと変わらないけど、会場も大きいし何ともきらびやかな雰囲気。プレゼンターはモニカ・ベルッチ。
 

 
この審査員は毎年変わり、ヴェネチア、ベルリンも同様なのに、なぜか賞を取る作品には開催国ごとに特徴があって、カンヌの受賞作品はやっぱりフランスっぽい気がする。出品作にも傾向があり、例えば河瀬さんはカンヌの常連だけど、宮崎駿、北野武の両監督作品はヴェネチアやベルリンで人気が高いよう。あくまでも個人的な感想だし、実際に参加したわけでもないからイメージでしかないのだけど。でもまあ日本映画は大体、どの映画祭でも歓迎されている。

 柵

 
ところで、コンペ部門に出品された中に若かりしころのゴダールを描いたらしいフランスの作品があり、映画祭期間中の特集番組で取り上げられていた。今はスイスに住んでいるというゴダールに、リポーターが押しかけてインタビュー。もう呂律があまり回らなくなっていて、すっかりおじいちゃんになっているけど、相変わらず人を食ったような態度で二言、三言話して立ち去る姿は、ぜんぜんイメージと変わらない。そしてもう一つ驚いたのは、アンナ・カリーナ!彼女に関してはゴダール作品以降の姿がまったく見えず、情報もまるでなかったのだけど、なんとテレビカメラの前で、映画館で『気狂いピエロ』を見ていた!しかも、おそらく場所は映画館めぐり③のル・デスペラード。彼女も同じく年を取り、声もしわがれていたけれど、目の辺りは確かにあのアンナ・カリーナだし、可憐な印象はそのままだ。びっくりすると同時に、感激してしまった。こんな形で再会できるとは!
 

 
さて、パリでは映画祭が終わった直後の今週、「CANNES À PARIS」と題して出品作の一部が公開される。知る限りでは3日間だけで、また何カ月か先に本公開になるみたい。ただこれは、予約しないと見られないほど人気らしいから、今回はたぶん行かないけれど。日本だとほとんどの作品は受賞の1年後ぐらいにしか公開されないし、そもそもカンヌで評価されたといってもそれほど人が入るわけじゃない。確かにちょっと難しいものも多く、私も河瀬監督の作品は1本しか見ていない。でも、世界の映画関係者たちが集まって映画を楽しむ文化、そしてそれを一般の人たちが共有する文化って、やっぱり素敵だなと思う。いつか5月のカンヌに行こう。

 

パルムドール監督
パルムドールを受賞したリューベン・オストルンド監督

再び期末テスト

最近、やっと気温が連日20度を超え始め、ようやく初夏の陽気になってきた。思った通り、春の終わりごろの肌寒さがなかなか消えず、日本がゴールデンウイークに入った4月最終週に最高気温10度ぐらいの日々に逆戻りしたときは泣きそうだった。でもこれで本当に冬のコートの出番も終わりのはず。朝はまだ上着がないと寒いけど、夕方4時ぐらいから一気に暑くなってきて、夜は10時ごろまで明るい。こういう現象は日本にはないものなので、ちょっと不思議な感じ。

さて、2月に始まった春学期ももう今月で終わり。秋学期は精神的に余裕があったので毎日がゆっくり過ぎていったけど、今学期はついていくのに必死だったから倍ぐらいの速さで時間が進んだように感じる。でもその割にはまったく成果の出ないフランス語・・・。先週、恒例の期末テストが行われ、その結果が返ってきた。まあ、散々だ。

 
テスト表紙

 
前学期と同じようにテストの前には特に勉強はせず、忘れがちな条件法や接続法の活用を見直した程度。ところが、そういう機械的な文法問題は一切なく、聞き取り2問、読解1問、作文1問の計4問。これで3時間いっぱい使ってなんとか足りるぐらいだった。後から同じクラスの中国人の女の子と話をしたのだけど、彼女も頑張って活用の復習したのにー!と苦笑い。上にいけばいくほど、問題自体が難しくなっていく。

●聞き取り
2問とも1分前後のおそらくラジオ番組で、それぞれ10個ぐらいの質問に答えなければいけない。ほとんどが選択問題だったからまだましだったけど、3回ずつ聞いてもいつも通りぜんぜん分からないので、結局半分ぐらいしかできていなかった。もちろん、自分で答えを書かなければいけないものは全滅。みんなも難しかったようで、テスト中に笑いが起きるぐらいだったのだけど、最終的に平均点がどれぐらいだったのかは不明。

●読解
A4用紙1枚分の文章を読んで解答。時間は十分あったから何度も読んで、それなりにできたと思っていたのだけど、なんと聞き取りよりも点数が悪かった。いつもそうなのだけど、難しい単語はそんなに多くないのに、全体として意味が取れていない。そして、落ち着いて読めば理解できるはずの文章が、テスト中には頭に入ってこなかったりする。やっぱり読む練習量が足りていないんだろうか。

●作文
一番よくできていたのがこれ。テーマが2つ用意されていて、どちらかを選び200の単語で文章を書く。200「字」ではないところが日本語と違って面白い。まあさすがに書くのはそこまでひどくないので、多少むりやりだけどなんとか筋が通るようにまとめた。仕事柄、どんなテーマでもそれなりに組み立てる自信はある。書き終わってから数えてみると20ワードぐらい足りなかったのだけど、もう疲れていたし時間も迫っていたので、そのまま提出。案の定、「ちょっと短くて残念」とコメントが書かれていたけど、それでも文法の間違いもあまりなく、20点中17.5点。ただ、何か書けばそれなりに点数はもらえるだろうし、クラスで一番よくできる生徒は19.5点だったから、特に高い点でもなかったのかも。でも人と比べる必要はなく、絶対評価でいいのだ。

●会話
いわゆるスピーキング。上記3つとは違う日にあり、個別に10分ずつ、別のクラスの先生を相手に話をする。これもテーマがいくつかあって、それらが1つずつ書かれた小さな紙を封筒の中からランダムにまず2つ取り、その2つを読んで好きな方を選ぶ。事前に、テーマが難しいとか、テーマは簡単だけど文法的に正しくしゃべらないと減点されるとか、いろいろなうわさを聞いていたのだけど、実際にはテーマが問題だった。私が引いたのは「家族以外で出会った面白いキャラクターの人」と「ジャーナリストは完全に独立した(束縛されない、自由な)状態でいられるか?」の2つ。こういう場合、別にうそを言っても構わないと思うけど、前者については何も思い浮かばなかったので後者を選択。それなりに思うところはあるのだけど、それをフランス語で説明するって!準備時間5分ではほとんど何もできず、とりあえず話す内容だけを考えてスタート。すでに自分自身でも認識している課題なのだけど、文法が複雑な上に単語や表現がすぐに出てこないから、一つずつ考えながらものすごーくゆっくりとじゃないとしゃべれない。だからある程度正しく話せていたとしても、短い文章でさえ話し終えるのに時間がかかる。何とか無事に10分が過ぎて、最後に先生に言われたのは「テーマに対してよく考えているけど、時間が必要だからもう少し速くしゃべる練習をしないとね」。まさにその通り。それこそやらなければいけないことなのだ。でも点数は大甘につけてくれていて、思ったよりよかった。

これらすべてを総合した平均点は20点満点で14点。フランスではなぜかすべて20点満点で計算するから分かりにくいのだけど、日本の大学と同じように7割以上で“合格”らしいので、14点はぎりぎりOKということになる。もしかしたら、7割になるようにどこかで点数調整してくれたのかもしれない。厳しいと言われるこのパリカト(パリ・カトリック学院)だけど、留年というか同じレベルをもう一回やれと言われることは少なくとも私の知っている限りではなくて、一学期ちゃんと出席していれば普通は1つ上のレベルに上がれる。初級クラスから飛び級する人も割と多い。まあ、自主的に同じレベルにとどまる人はいるようだけど。でも、レベルといっても結局は先生によるところも大きいのだ。今学期の先生の授業はすごく難しかったけれど、同じレベルの別のクラスから移ってきた生徒は、ぜんぜん内容が違う!こっちの方が断然難しい!と言っていた。だから私も違う先生のクラスにいたら、こんなに落ちこぼれていなかったかもしれない。
 

罫線

 
余談だけどテストのとき、辞書やスマホで単語を調べる生徒たちがけっこういるのには驚く。日本人はカンニングなんて絶対だめだという感覚があるけれど、隠れて見るならまだしも(よくはないけど)、先生に辞書を使わないよう注意されて「でも分からない単語がいっぱいあるから」と正直に答える生徒には思わず笑ってしまう。こういうところに各国の文化や意識の違いが表れていて、なかなか興味深い。

フランスでは6月から夏休み。不思議なことに普段から週末の金曜は欠席率が高いし、バカンス前後も人が少ない。テストも終わったしそろそろまたみんな来なくなるころだけど、あと1週間、なんとか乗り切ろう。
後日調べたところ、夏休みは通常7月からのようなので訂正)

 

ブティック前
4月でもショーウインドウにはコートが

 

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新大統領誕生

若い新鋭か、過激な女性候補かで注目を集めた決戦投票が終わり、事前の予想通りエマニュエル・マクロン氏が新しい大統領に選ばれた。就任式の日のパレードでも堂々としていたし、なかなか様になっている。40歳で大統領に就任したナポレオン以来、フランス史上最年少の指導者だということは日本でも報道されていると思うけれど、同い年というのがなんとも不思議な感じ。そして同時に、なんとなく親しみもわく。

 パレード

 
スマートな外見や華々しい経歴、25歳上の妻ブリジットさんとの恋物語ばかりが注目されがちだけど、彼を待っているのは楽な道じゃない。まず、マクロンもルペンもいやだという人たちによるデモが決選投票前から行われていたし、マクロン氏の当選が決まった後でさえ抗議運動が起きていた。実際に無効票・白票の割合もかなり高かったようだから、国民みんなが新しい大統領を支持しているというわけじゃない。それに、フランスでは大統領選の翌月、つまり6月に議会下院に当たる国民議会の選挙が行われることになっていて、今後の仕事がやりやすくなるかどうかの最初の関門がもう目の前に迫っている。そもそもマクロンさんは自分で政治運動を立ち上げて無所属で出馬したから、今の議会に支持基盤はない。議会選では、その政治運動を政党に変えて候補者を立てるらしいけれど、果たして多数派を形成できるかは不明。でも、トップ指導者の出身母体と議会多数派が異なるっていう現象は日本では絶対にないことだから、なかなか興味深い。

個人的には、まずEUの大国であるフランスがイギリスに続いて離脱なんてことにならなくてほっとした。確かに今は難しいときだけど、EUは元々、大戦の反省と平和への願いから生まれたもの。せっかくここまで歴史を積み重ねてきたのだから、なんとかこの苦境を乗り越えて、国の枠を超えた統合という壮大な目標に向かっていってほしい。それから、新大統領が移民受け入れに寛容なところも高ポイント。学校の先生が、テロと移民を結びつけるルペン氏に怒り狂っていたけれど、これだけテロの脅威にさらされているフランスにもまともな感覚を持っている人がたくさんいるんだと分かって安心した。

フランス人自身も言っているように、やっぱり大統領にしては若すぎるし経験不足が心配ではあるけれど、マクロンさんは現代の感性で生きていると思うから、ちゃんと将来像を見据えた政策を取ってくれそうな気はする。それに、10年以上ブリジットさんを思い続けたというエピソードも、決めたことはやる男だなと感じられて好印象。政治家一族出身じゃないのも素晴らしいけど、順調にエリートコースを歩んできた人だから、庶民の気持ちが理解できるのかという点はやや不安。これはすべての政治家に一番必要であると同時に、たぶん一番欠けているもの。

 マクロン夫妻

 
それにしても、大統領選挙の熱気はやっぱりすごい。同じ時期にやっていた韓国大統領選のニュースはこっちではほとんど見なかったのだけど、韓国はいつも若者が街に出て選挙運動しているし、今回もきっと盛り上がったんだろうと思う。マクロン氏が選ばれた日、夜10時ぐらいだったと思うけれどルーブル美術館の前で勝利演説が始まって、このときはかなり寒かったのにテレビで見るとものすごい人だった。新しい指導者が決まるときって、国が変わるかもしれないという期待に満ちた瞬間だし、自分たちがその指導者を選んだとなればなおさら興奮するものなんだろうな。日本でも8年前、民主党が勝って政権交代したときはかなりわくわくしたけれど、国会で新しい首相が決まったところで熱狂するような国民はあまりいないと思う。大勢の人が集まって国旗を振る場面は年に何回かあるけれど、それは国の指導者に対してじゃないし。
 

演説するマクロン氏

 
5年に一度の貴重な機会にフランスにいられたことはラッキーだったし、去年の9月に来たときからずっと続いていた選挙戦を最後まで見られたのもよかった。政治体制や選挙の仕組み、国民の政治への関心など、日本との違いもあらためて実感。勉強になった。同学年のマクロン大統領がこれからどんな風に政権運営していくのか、応援しつつ、お手並み拝見。

 

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