パリの映画館めぐり③

日本ではミニシアターといっても、モダンできれいな映画館が当たり前になってきたけれど、パリには名画座という言葉からイメージされる、古くて趣のある映画館がたくさん残っている。5区にあるこの「ル・デスペラード」もまさにそんな名画座の一つ。

 外観

 
前回紹介した「シネマ・デュ・パンテオン」から少し離れたrue des École(学校通り)沿いにあり、ぼーっと歩いていると通り過ぎてしまいそうなほど小さい。ここは基本的に旧作ばかりかけているようで、上映作品も頻繁に変わる。上映室は2つあるけれど、ロビーのようなスペースがなく、時間になるまでみんな外で待っている。初めて行ったときは前の回の上映が遅れていたのか事前にチケットも買えず、終わってお客さんが出てきたところでやっと販売開始になった。もちろん座席指定なんてなく、買った人から勝手に入っていくシステム。日本にいるときは上映20分前に到着するのがベストで、ゆっくりトイレにいってたくさん置いてあるフライヤーを見ていたけれど、こういう映画館はぎりぎりに着いた方がいい。アナウンスされている時間は上映開始時間じゃなく、チケット販売がスタートする時間だといってもいいぐらいかも。
 

上映室へは狭い階段やドアを通って

2つどちらの上映室にも入ったけれど、外からは想像できないぐらい広い。昔、大阪の扇町にあったミュージアムスクエアに少し似ている。大手系列の映画館と違ってCMなどが延々と流れていることはなく、みんなで何も映っていないスクリーンを見ながらじっと待つ。これってすごく変な感じ。そしてあるとき、ベルも予告上映もなく、いきなり本編から始まる。早い時間は特に年配の人が目立つのは日本と同じだけど、一人で来ているマダムがとても多いのが印象的。外で待っている間、この映画いいわねなんて、知らない人同士でも話をしている。これまでにここで見たのは、アーサー・ペン『俺たちに明日はない』、フリッツ・ラング『恐怖省』、ビリー・ワイルダー『サンセット大通り』。特に、名作といわれる『サンセット大通り』は、名前だけはずっと知っていてなかなか見る機会がなかったから、スクリーンで見られるなんて本当にラッキーだった。ビリー・ワイルダーといえば『お熱いのがお好き』『アパートの鍵貸します』が大好きだけど、これはぜんぜん違ったタイプの作品で、まだまだ知らない映画があるなあと痛感。
 

画像引用元:http://www.allocine.fr/seance/salle_gen_csalle=C0071.html

ところでここはフランスだから、映画も当然フランス語だ。吹き替えばかりかと思っていたけれど、今は字幕の方が主流のようで、英語の作品をフランス語字幕で見るというパターンが一番多い。ヒアリングができないのは英語も同じだから、英語を聞いているよりはフランス語の字幕を読んだ方が理解できる。パリで見る映画は、日本の映画館ではかからない旧作、それも話が分かるように見たことがある作品にしようと思っていたけれど、それではもったいないので、結局初めてのものもどんどん見にいっている。ただ、そうやって日本語一切なしで見ることを続けるうちに、やっぱり映画はセリフが分からなくても楽しめるものなんだと気づいた。映画の本質はアクション、それが写真と違うところであり、一番重要なこと。私とは違い“本当”の意味での映画というものを理解している友人から昔、教えてもらったこの言葉を思い出す。もちろん、細かいところは分からないし、後からネットで調べて初めて納得できる部分も多いけれど、英語で見たから、またはフランス語で見たから印象に残っていないということはまったくなくて、言葉が分からなくても心を動かされた作品は実際、記憶にも強く残っているのだ。ただ、1区の「フォーラム・デ・イマージュ」で最近見たウディ・アレンの『カメレオンマン』は、さすがに難しかった。彼の作品はセリフが多いし、スピードも速いし、会話のおもしろさが魅力の一つでもあるので、アレンの最高傑作ともいわれるこの映画を堪能できなかったのは残念。

 カメレオンマンフライヤー

画像引用元:http://www.forumdesimages.fr/

 
フランス語で映画を楽しめるようになるのはまだまだ先になりそうだけど、映画がこれまでとは違ったものに見えてきたのはうれしい驚きだった。映画とは何なのか。こうやって、ほぼ映像だけで映画を見続けることでいつかそれがつかめるのなら、言葉が分からなくても悪いことばかりではないのかもしれない。

 

チケット裏
チケットの裏にいろんな映画が

 

追記:2017年7月より名称が「エコール21」に変わったよう。

2件のコメント

  1. こんにちは。今回も素敵な映画館ですね〜映画を見るプロセスも含めて、日本では味わえない映画館体験ですね。
    私も滞在中に、映画館に行ってみたいな〜と思っていて、もう少しフランス語がわかるようになってから・・・と先延ばしにしてたのですが、そうしてるといつまで経っても映画館に行けそうにないので、近々、挑戦してみようと思います。行くなら、ここかシネマデュパンテオンにしようかな〜名画座というのがまたいいですよね。

    1. コメントありがとうございます。
      映画はそんなにお金もかからないし、一人でも楽しめるし、なかなかいい遊び方ですよね。映画館はまだまだたくさんあるのですが、なかなかいっぺんにはご紹介できません!上映作品も本当にさまざまなので、ぜひお好みのものを探して行ってみてくださいね。

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