新大統領誕生

若い新鋭か、過激な女性候補かで注目を集めた決戦投票が終わり、事前の予想通りエマニュエル・マクロン氏が新しい大統領に選ばれた。就任式の日のパレードでも堂々としていたし、なかなか様になっている。40歳で大統領に就任したナポレオン以来、フランス史上最年少の指導者だということは日本でも報道されていると思うけれど、同い年というのがなんとも不思議な感じ。そして同時に、なんとなく親しみもわく。

 パレード

 
スマートな外見や華々しい経歴、25歳上の妻ブリジットさんとの恋物語ばかりが注目されがちだけど、彼を待っているのは楽な道じゃない。まず、マクロンもルペンもいやだという人たちによるデモが決選投票前から行われていたし、マクロン氏の当選が決まった後でさえ抗議運動が起きていた。実際に無効票・白票の割合もかなり高かったようだから、国民みんなが新しい大統領を支持しているというわけじゃない。それに、フランスでは大統領選の翌月、つまり6月に議会下院に当たる国民議会の選挙が行われることになっていて、今後の仕事がやりやすくなるかどうかの最初の関門がもう目の前に迫っている。そもそもマクロンさんは自分で政治運動を立ち上げて無所属で出馬したから、今の議会に支持基盤はない。議会選では、その政治運動を政党に変えて候補者を立てるらしいけれど、果たして多数派を形成できるかは不明。でも、トップ指導者の出身母体と議会多数派が異なるっていう現象は日本では絶対にないことだから、なかなか興味深い。

個人的には、まずEUの大国であるフランスがイギリスに続いて離脱なんてことにならなくてほっとした。確かに今は難しいときだけど、EUは元々、大戦の反省と平和への願いから生まれたもの。せっかくここまで歴史を積み重ねてきたのだから、なんとかこの苦境を乗り越えて、国の枠を超えた統合という壮大な目標に向かっていってほしい。それから、新大統領が移民受け入れに寛容なところも高ポイント。学校の先生が、テロと移民を結びつけるルペン氏に怒り狂っていたけれど、これだけテロの脅威にさらされているフランスにもまともな感覚を持っている人がたくさんいるんだと分かって安心した。

フランス人自身も言っているように、やっぱり大統領にしては若すぎるし経験不足が心配ではあるけれど、マクロンさんは現代の感性で生きていると思うから、ちゃんと将来像を見据えた政策を取ってくれそうな気はする。それに、10年以上ブリジットさんを思い続けたというエピソードも、決めたことはやる男だなと感じられて好印象。政治家一族出身じゃないのも素晴らしいけど、順調にエリートコースを歩んできた人だから、庶民の気持ちが理解できるのかという点はやや不安。これはすべての政治家に一番必要であると同時に、たぶん一番欠けているもの。

 マクロン夫妻

 
それにしても、大統領選挙の熱気はやっぱりすごい。同じ時期にやっていた韓国大統領選のニュースはこっちではほとんど見なかったのだけど、韓国はいつも若者が街に出て選挙運動しているし、今回もきっと盛り上がったんだろうと思う。マクロン氏が選ばれた日、夜10時ぐらいだったと思うけれどルーブル美術館の前で勝利演説が始まって、このときはかなり寒かったのにテレビで見るとものすごい人だった。新しい指導者が決まるときって、国が変わるかもしれないという期待に満ちた瞬間だし、自分たちがその指導者を選んだとなればなおさら興奮するものなんだろうな。日本でも8年前、民主党が勝って政権交代したときはかなりわくわくしたけれど、国会で新しい首相が決まったところで熱狂するような国民はあまりいないと思う。大勢の人が集まって国旗を振る場面は年に何回かあるけれど、それは国の指導者に対してじゃないし。
 

演説するマクロン氏

 
5年に一度の貴重な機会にフランスにいられたことはラッキーだったし、去年の9月に来たときからずっと続いていた選挙戦を最後まで見られたのもよかった。政治体制や選挙の仕組み、国民の政治への関心など、日本との違いもあらためて実感。勉強になった。同学年のマクロン大統領がこれからどんな風に政権運営していくのか、応援しつつ、お手並み拝見。

 

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