パリ20区歩き ―10区―

10区位置

 
凱旋門やエッフェル塔など歴史的にも重要な多くの観光名所が存在する一方で、たくさんの自然に囲まれているのもパリの魅力。10区を南北に流れるサン・マルタン運河も、水と緑に心地よく親しめるスポットの一つ。ダイナミックなセーヌ川沿いとはまた違い、ゆったりとした時間とともに散歩を楽しめる。まずはこの約4.5㎞のコースを北側の端からスタート。
 

 
メトロやバスが走り大きな建物が立ち並ぶにぎやかな通りを背に、運河沿いの散策路へ。早くも気温が20度を超えた春の初めの一日、暖かい日差しの下でくつろぐ人たちがすでにたくさんいる。サン・マルタン運河には今も船が行き来していて、このときはたまたま観光客向けのクルーズ船が水門を通るところに出会った。水の量を調節し、高さが均等になったところで門を通過。こういう場面、日本でも何度か見たことがある気がするけど、なかなか楽しい。
 

 
どんどん歩いていくと、かわいらしい橋が見えてくる。橋の上からはさらに向こうの橋が。絵になる風景だからいろいろな映画に登場するそうで、中でも『アメリ』が有名。この辺りは公園になっていて、子供たちの遊び場としてもぴったり。
 

 
運河沿いの通りには感じのいいカフェやレストランがあって、歩くのに疲れたらひと休みするのもあり。フランス人は景色に関係なくテラス席に座るのが大好きみたいだけど、ここなら眺めもいいから外でお茶するのも気持ちよさそう。まあ一人だと、散策路にたくさんあるベンチで十分なのだけど。
 

運河沿いカフェ

 
南の端まで来るとだんだん大通りに近くなり、のどかな雰囲気は街の中に消えていく。心地よい散歩コースはここで終わり、喧騒のパリへ。西へ向かうと、広大なレピュブリック広場が現れる。中心には、フランス共和国の精神「自由、平等、友愛」を象徴する女神像が立ち、平和を意味するオリーブの枝を掲げている。普段は集会やデモ行進の起点となり、おととし11月のテロの後は多くの人が追悼の献花をしたという、まさにフランスらしさを感じられる場所。
 

レピュブリック広場

 
これは個人的な信念だけど、自分たちの手で権利を勝ち取ろうとする革命の精神というのは、時代や国に関わらず一国民・一市民として生きていく上で絶対に必要なもの。こういう場所に来ると、フランスがその精神を歴史として持っていて、今もそれを引き継いでいる国だということをあらためて思い出す。そしてそれは、私がフランスに引かれる理由の一つでもある。この国でストライキがしょっちゅう起こることは有名だけど、生活に一番近い職場での権利を求めることはむしろ当然だから、個人的には彼らの行動を大いに支持しているし、むしろ日本人ももっと真似していいぐらいだと思っている。とはいえ、交通機関が止まるのはまあ確かに迷惑だけど。

広場を離れてさらに西へ進むと、北に延びるフォーブール・サン・ドニ通りに出る。にぎやかなこの通りは、話題のレストランやカフェが並ぶ注目のエリアだそう。確かに、まだ新しそうなお店があちこちに。今どきの外観でも街に自然になじんでいるのはさすが。
 

 
この通りには、ゴダールの『女は女である』でアンナ・カリーナが立ち寄るカフェ「ル・ナポレオン」もある。ただ、当時の店構えとはだいぶ変わっていて、本当にこの店がそうなのか分からない。パリは変わらないようでいて、映画と見比べてみるとやっぱり雰囲気はだいぶ違う。今は流行りのお店が集まるエリアも、昔は移民たちの食料品店が軒を連ねる下町だったそうで、一本道を外れると移民らしい人たちを見かけた。
 

女は女であるル・ナポレオン

 
最後に国鉄の駅を見学。10区には大きな駅が2つ、しかもすごく近い距離にある。ヨーロッパの駅は美しいものが多いけれど、この北駅と東駅も趣のある建物で、これらを見るだけでもなかなか楽しい。駅の近くということで周辺は大通りが多く、旅行客らしい人たちの姿も。
 

 
自然を身近に感じられるサン・マルタン運河に、“共和国”という名前のついた広場、流行りのグルメスポット、そして大勢の旅人が行き交う2つの駅が同居する10区。定番の観光スポットはなくても、ある意味パリという街のエッセンスが凝縮されたようなエリアなのかも。ただ、実際住むとなると騒がしくて落ち着けなさそうな印象。運河沿いは京都の鴨川辺りに似ていなくもないけど、全体の調和感や雰囲気で言うと、個人的には断然、京都の方が好みかな。

 

北ホテル
運河沿いの「北ホテル」は同名映画のモデル

 

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悩ましいグループワーク

先週、映画の授業でグループ発表があった。私のグループは全員で4人だったのだけど、この授業はそもそも週1回しかないからあまり集まる機会がない。だからメールアドレスを交換し合って連絡を取っていたのだけど、なぜかこういうとき、やる気がないのか何なのかぜんぜん反応しない人がいる。今回は台湾の女の子がそうで、昼休みにみんなで待ち合わせをしていても来なかったり、それに対して何も連絡がなかったり。そして何よりやっかいなことには、自分の担当部分さえギリギリまでやらないのだ。

やっぱり言葉が不自由だから、集まったとしてもなかなか話が進まないので、ここは編集の経験を生かしてレジュメのたたき台を提案したところ、その流れでそのまま私が本番の資料も作ることになってしまったのだけど、その子の担当ページの原稿がなかなか来ない。やっとのことでメールが送られてきたのは、他のページがとっくにでき上がり、いったんその子の担当部分を空白にしたまま一斉送信した後。遅くなったことに対する一言もなく、というかメール本文がなく、しかもなぜかPDF・・・。コピペしなければいけないこと、理解してなかったんだろうか。で、肝心の中身はというと、明らかに文字が多すぎる。先に送った他のページを見れば、大体の量は検討がつくはずなのに。それに、プレゼン資料に細かい文字をたくさん入れても仕方がないし、とイライラ。結局、何度かやり取りした末に書き直してもらい、ワードで送ってもらった。

そして、5月1日月曜のメーデーを含む3連休を費やして無事、レジュメができ上がったのだけど、いざ発表となっても想定外の事態が。今回はみんながそれぞれ自分の意見をメンバー全員にメールで送り、なぜか私が担当以外の部分も全部まとめてレジュメに落とし込んだのだけど、一番最後のページの担当だった男の子は、レジュメとは別に自分で原稿を用意してそれを読んでいた。まあ別に構わないのだけど、それならそのページは必要なかったし、大きなスクリーンに映しても読めないぐらい小さな文字でたくさん書き込むこともなかったのだ。メンバーそれぞれの意識もイメージもばらばらだから、完璧さが求められる仕事でのプレゼンとは違い、細かい部分の意思疎通はなかなかうまくいかないなあと実感。
 

ルル

プレゼン作品はモーリス・ピアラ『ルル』
画像引用元:https://eu.movieposter.com/poster/MPW-45358/Loulou.html

 
今学期のメインのクラスでは特に発表はないのだけど、しょっちゅうグループワークがあるから、まあ週に1回はプレゼンしているようなもの。映画の一部を見てその後のストーリーを考えたり、歌の歌詞を読んで登場人物のセリフをつくったり、ストライキのスローガンを書いたりと題材も内容も様々で、毎回、使わなければいけない時制や単語が指定される。ただこのグループワークも、自分にとってプラスになるかどうかはメンバー次第。

みんな大体、毎日同じ席に座るから、私は隣のベトナムの女の子とほとんどいつも同じグループになるのだけど、この子がなかなか難しい。性格はすごくいいのだけど、与えられるそれぞれの課題に対して自分なりの強いこだわりがあるようで、みんなが意見を出してもかなりの確率で否定するし、途中までできても「ここはやっぱりこうじゃないと思う」と言って消してしまったりする。なのに、自分からはあまりアイデアを出さない。個人的には授業の一課題に対して特に思い入れもなく、それよりとにかくいったん終わらせてしまいたいのだけど、そんな風だから半分までいかない内に行き詰まってしまうことが多い。そして、できたものを先生にメールで送る役を引き受けてくれるのはいいのだけど、そのときにちょっと自分の思うように書き換えてしまうのだ。しかもそれがけっこう間違っているので、せっかくみんなで時間をかけて考えたのに、なんで悪い方に変えるんだろうと思ってしまう。

でも一番いやなのは、フランス語ができる人たちばかりで進めてしまうこと。この場合はつまり、フランス語がしゃべれる人という意味。読み書きができるかどうかは関係ない。グループだとどうしても、一部の人たちだけで話が決まってしまいがちだし、そのベトナムの女の子もどんどん意見を言う人としか話さない。こんな風にアイデアを出すのってそもそも苦手で、日本語でも聞き役に回ってしまうことが多いのだけど、フランス語でのしゃべりができないとさらについていけない。そうなると、座っているだけになってますます面白くない。自分ができる方の立場なら他の人の発言を促すことも可能なのだけど、今はできない方だから何ともしようがないのが苦しいところ。ただ、しゃべるのもよくできる上に、みんなの発言の頻度や内容に気を配れる人たちもちゃんといて、そういうメンバーと一緒だったときはすごくやりやすかった。まあ、できない方が悪いと言われればそうなのだけど・・・。
 

罫線

 
とはいえ、これらのことは多国籍かどうかは関係なく、日本人だけのグループでもよくあることだから、人間社会にいる以上、避けることはできないんだろうと思う。せっかく仕事を辞めて煩わしい人間関係から解放されたのに、結局はどこにいっても同じことに悩まされるのだ。もし次にプレゼンがあるとしたら、やっぱり一人でやる方がいいかも。

 

花屋
季節とともに花屋の彩りもアップ

 

2月のキューバ旅行の写真を整理しました。本ブログではほとんど紹介できなかったので、ご興味のある方はこちらからどうぞ。また、上部メニュー「ABOUT」にもリンクを貼っています。
https://tabisurumonokaki17cuba.tumblr.com/

パリの映画館めぐり⑤

待合ロビーもないほど小さくて、チケットが売り出されるのは上映直前、そしてそれを買うためには外で並んで待たなければいけないという昔ながらのシステム。普段行くのはそんな“パリの映画館”というイメージ通りのミニシアターが多いのだけど、もちろんパリには大きくて新しいシネコンもたくさんある。13区のイタリー広場近くに立つ「シネマ・レ・フォヴェット」は、古くからある名画座とは対照的に、スタイリッシュなデザインが印象的な映画館。
 

内観

 
以前は老舗の映画館だったものが建て替えられたようで、おととしの秋にオープンしたばかりとのこと。どうりで、見るからに新しい。入口と出口、2カ所の外壁にはそれぞれ宣伝用の大きな画面があって、その週に上映している作品の一場面がずっと流れている。だからたまたま通りかかった人が、足を止めてしばらく眺めていたりする姿も。
 

 
中も最新式で、チケットは有効なカードを持っていれば好きなときに自動券売機で買えるし、インターネットで事前に予約することも可能。施設は新しくても、チケットカウンターに人がいないことが多いのはパリらしいところ。ここは日本の多くの映画館と同じように、チケットを買うときに好きな席を選ぶことができるのだけど、パリの小さな映画館で座席指定のところは、知っている限りない。個人的には、上映室に入ってから一番いい場所を選ぶのが好きだから、座席指定なんて無粋だと思っているのだけど。
 

チケットカウンター

 
奥に進むと中庭に面したガラス張りの廊下があり、ちょっとしたバーやソファーでくつろげるスペースも用意されている。そして何といってもトイレがきれい!古い映画館だとトイレは男女兼用が普通だし、トイレットペーパーがないのは当たり前で、すごく狭かったりあまり清潔じゃなかったりするから、ファッションビルのような快適なトイレがあるのはやっぱりうれしい。映画を見ずにトイレだけ使うこともできるから(本当はダメだろうけど)、常にトイレに困るパリではいざというときに頼れる心強いスポットでもある。
 

 
この映画館に通うようになったのは、去年の年末にイーストウッド特集をやっているのを見つけて以来。前に、映画のカードle Passを作ったことを書いたけれど、なぜ使えるところが多いUGCではなくle Passにしたかというと、この映画館がle Passしか受け入れていないからなのだ(ただ、今はUGCにすればよかったと後悔している)。まあここは封切館だからプログラムのほとんどは最新作なのだけど、古い映画を修復して上映することがコンセプトの一つでもあるようで、なかなか興味深いリバイバル特集もやっている。『タクシードライバー』や『グレムリン』なんかはぜんぜん覚えていなかったのだけど、今の感覚で見直すことができた。新しい映画館なのに、こういうところがパリらしくていい。日本のシネコンは「午前十時の映画祭」さえやっているところが限られているし、どこに行っても同じメジャー作品ばかりでうんざりする。映画が単なる娯楽と位置づけられているのは本当に残念。
 

罫線

 
ところで、パリの映画館に通うようになって気づいたのだけど、大きなシネコンでも、たとえ上映前であっても、館内で物を食べている人がほとんどいない。個人的に、映画館での食事は禁止してほしいと思っているぐらい許せないから、これはすごくうれしい驚き。日本でも独立系のミニシアターでは飲食禁止のところがあるけれど、シネコンだと絶対にポップコーンを買っている人がいるし、上映中にずっとガサガサ音を立てている人にもよく当たってしまうから、本当にいらいらさせられる。食べながらだと映画に集中できないはずだし、2時間ぐらい我慢しろよといつも思う。つい最近、映画館での食事についてネット上で議論されているのをたまたま読んだのだけど、音が気になるならDVDで一人で見ればいいという主張が多くてびっくりした。どうやったらそんな発想になるのかまったく理解できない。映画は本来、映画館で見るものだし、映画館は映画を見るための場所だ。たぶんフランスではその辺の意識が浸透していて、映画館で物を食べるというのは想定外のことなんじゃないだろうか。だから、昔ながらのミニシアターであってもモダンなシネコンであっても、気持ちよく映画を楽しむことができる。日本もこうなれば、もうちょっとシネコンにも行く気になるのだけど・・・。

 

愛嬌のある姿に再会
画像引用元:http://www.cinemalesfauvettes.com/

 

追記:2017年6月より名称が「シネマ・ゴーモン・レ・フォヴェット」に変わったよう。