パリの映画館めぐり⑤

待合ロビーもないほど小さくて、チケットが売り出されるのは上映直前、そしてそれを買うためには外で並んで待たなければいけないという昔ながらのシステム。普段行くのはそんな“パリの映画館”というイメージ通りのミニシアターが多いのだけど、もちろんパリには大きくて新しいシネコンもたくさんある。13区のイタリー広場近くに立つ「シネマ・レ・フォヴェット」は、古くからある名画座とは対照的に、スタイリッシュなデザインが印象的な映画館。
 

内観

 
以前は老舗の映画館だったものが建て替えられたようで、おととしの秋にオープンしたばかりとのこと。どうりで、見るからに新しい。入口と出口、2カ所の外壁にはそれぞれ宣伝用の大きな画面があって、その週に上映している作品の一場面がずっと流れている。だからたまたま通りかかった人が、足を止めてしばらく眺めていたりする姿も。
 

 
中も最新式で、チケットは有効なカードを持っていれば好きなときに自動券売機で買えるし、インターネットで事前に予約することも可能。施設は新しくても、チケットカウンターに人がいないことが多いのはパリらしいところ。ここは日本の多くの映画館と同じように、チケットを買うときに好きな席を選ぶことができるのだけど、パリの小さな映画館で座席指定のところは、知っている限りない。個人的には、上映室に入ってから一番いい場所を選ぶのが好きだから、座席指定なんて無粋だと思っているのだけど。
 

チケットカウンター

 
奥に進むと中庭に面したガラス張りの廊下があり、ちょっとしたバーやソファーでくつろげるスペースも用意されている。そして何といってもトイレがきれい!古い映画館だとトイレは男女兼用が普通だし、トイレットペーパーがないのは当たり前で、すごく狭かったりあまり清潔じゃなかったりするから、ファッションビルのような快適なトイレがあるのはやっぱりうれしい。映画を見ずにトイレだけ使うこともできるから(本当はダメだろうけど)、常にトイレに困るパリではいざというときに頼れる心強いスポットでもある。
 

 
この映画館に通うようになったのは、去年の年末にイーストウッド特集をやっているのを見つけて以来。前に、映画のカードle Passを作ったことを書いたけれど、なぜ使えるところが多いUGCではなくle Passにしたかというと、この映画館がle Passしか受け入れていないからなのだ(ただ、今はUGCにすればよかったと後悔している)。まあここは封切館だからプログラムのほとんどは最新作なのだけど、古い映画を修復して上映することがコンセプトの一つでもあるようで、なかなか興味深いリバイバル特集もやっている。『タクシードライバー』や『グレムリン』なんかはぜんぜん覚えていなかったのだけど、今の感覚で見直すことができた。新しい映画館なのに、こういうところがパリらしくていい。日本のシネコンは「午前十時の映画祭」さえやっているところが限られているし、どこに行っても同じメジャー作品ばかりでうんざりする。映画が単なる娯楽と位置づけられているのは本当に残念。
 

罫線

 
ところで、パリの映画館に通うようになって気づいたのだけど、大きなシネコンでも、たとえ上映前であっても、館内で物を食べている人がほとんどいない。個人的に、映画館での食事は禁止してほしいと思っているぐらい許せないから、これはすごくうれしい驚き。日本でも独立系のミニシアターでは飲食禁止のところがあるけれど、シネコンだと絶対にポップコーンを買っている人がいるし、上映中にずっとガサガサ音を立てている人にもよく当たってしまうから、本当にいらいらさせられる。食べながらだと映画に集中できないはずだし、2時間ぐらい我慢しろよといつも思う。つい最近、映画館での食事についてネット上で議論されているのをたまたま読んだのだけど、音が気になるならDVDで一人で見ればいいという主張が多くてびっくりした。どうやったらそんな発想になるのかまったく理解できない。映画は本来、映画館で見るものだし、映画館は映画を見るための場所だ。たぶんフランスではその辺の意識が浸透していて、映画館で物を食べるというのは想定外のことなんじゃないだろうか。だから、昔ながらのミニシアターであってもモダンなシネコンであっても、気持ちよく映画を楽しむことができる。日本もこうなれば、もうちょっとシネコンにも行く気になるのだけど・・・。

 

愛嬌のある姿に再会
画像引用元:http://www.cinemalesfauvettes.com/

 

追記:2017年6月より名称が「シネマ・ゴーモン・レ・フォヴェット」に変わったよう。

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