パリの映画館めぐり②

パリには名画座と呼ばれる映画館がたくさんあるけれど、特に5区を歩いているとよくミニシアターを見かける。この地域には学校が多く、学生たちが集まっていることも理由なのかもしれない。それらの名画座の一つが、レトロでかわいらしい外観をした「シネマ・デュ・パンテオン」。オープンは1907年という、かなりの老舗。
 

パンテオン外観

 
外から見た印象とは違い、中は意外とモダン。入るとすぐにこぢんまりとしたチケットカウンターがある。このときは金曜の昼過ぎだったのだけど、上映時間の30分前に行っても誰もおらず、10分たっても15分たっても人の来る気配がない。20分が過ぎて不安になってきたところでようやくお兄さんが現れて、無事チケットを買うことができた。買い方は日本と同じで、作品名を言うだけ。座席を事前に選ぶなんていう無粋なシステムはない。料金は日本に比べるとだいぶ安いし、何といっても今は学生の身分なので学割になるのだけど、それでも700円ぐらいする。思っていたよりは高い。この料金というのは一律ではなくて、映画館によって少しずつ違う。日本にいたときは複数の映画館で使える会員カードを持っていたから、1800円払って見ることはほとんどなかった。フランスにも同じようなカードがあるらしく、これを作るとかなりお得になるみたいだけど、いくつか種類がありそれぞれ同系列の映画館でしか使えないようなので、まだ検討中。
 

パンテオンロビー

 
上映室は1つだけどけっこう広くて、大阪でいえばシネ・リーブルより少し小さく、テアトルよりはだいぶ大きい。おもしろいことにトイレは上映室の中にある。この回はなんと観客がほかに誰もおらず、スクリーンを独り占めだった。見たのは日本でも同時期に公開されていた『レッドタートル ある島の物語』。セリフなしのアニメで、これがパリでの初めての映画。ちょっと哲学的な部分もあったけど、悪くなかった。
 

レッドタートルフライヤー画像引用元:http://www.whynotproductions.fr/pantheon/

 
そして映画を見た後にぜひ訪れたいのが、2階にある隠れ家的レストラン。インテリアを手掛けたのはなんとあのカトリーヌ・ドヌーヴだそうで、スタイリッシュな空間とおいしい料理が人気の秘密のよう。著名人も多く訪れるらしい。さすがに一人ではもったいなくて入らなかったのだけど、いつかここで食事してみたい。
 

画像引用元:http://iena.jp/25th/topics/column14.html
(最近見つけたこのサイト、同じ時期に同じようなことをしていて笑ってしまった。こんな仕事あったらいいなあ)

 
映画館のすぐ隣にはけっこう大きな映画専門書店が。ポストカードなんかもあって、外から眺めるだけでもかなり楽しめる。日本でこういうお店を見つけるのはなかなか難しい。
 

 
ところで、日本では上映プログラムや時間を知りたいとき、大体Movie Walkerのサイトを利用していたけれど、パリは映画館が多すぎるしまとまったサイトがないようなので、調べるのが大変だなと思っていた。そんなとき、映画の授業の先生が教えてくれたのが小さな冊子『l’officiel des spectacles』。パリで見られる1週間分の映画や芝居、コンサートなどの情報が載っていて、毎週水曜発行、値段は80円ぐらい。これはとても便利で、最近は毎週必ず買って作品を選び、週末には映画館に出かけている。ただもちろんアルファベットしかないから、かなり見にくいのは確かだけど・・・。まあそれしてもパリはすごい。ざっと数えただけでも80以上の映画館があり、上映プログラムも古今東西、実にさまざま。日本の古い映画も常にかかっている。スクリーンで見る機会はおそらくパリにいる間だけだろうと思われる作品が数え切れないほどあるから、本当は毎日でも通いたいぐらいだけど、とりあえずは週1本にしておこう。

 

l'officiel des spectacles
駅の売店でも買える

 
 
追記:
上映プログラムを見てみると、ここは名画座ではなく封切館のよう。

フランスで薬を買う

外国に住むと日本では考えられないことがいろいろあるものだけど、これもその一つかもしれない。左足の親指を深爪し、化膿してしまった。元々、深爪の傾向があるのに加え、手も足も爪のまわりを触ってしまうくせがあり、100%自分が悪いのだけど、日本ではこんな風になったことなかったのに。金曜の夕方ぐらいから痛みが出始め、土曜に起きるとかなり腫れていたので、すぐに近所のモノプリへ薬を買いに行った。
 

救急箱

 
日本でも最近、薬の販売に関する規制が増えてきているけれど、フランスはさらに厳しいようで、大衆薬なんかでも棚に置かれているものを自分で選ぶのではなくて基本的に対面販売、しかも処方箋がないと売ってくれないものも多いらしい。まあ消毒薬ぐらいはあるだろうと事前に日本語のサイトで調べていき、薬売場へ。さすがに適切なものが欲しかったし、自分で探すよりも聞いた方がはるかに早いので、スマホの画像を見せながら薬剤師さんに尋ねてみる。いかにも聡明な感じのきれいな人で、拙いフランス語を根気よく聞いてくれ、スプレータイプの消毒薬を出してくれた。本当はヨードチンキみたいなのがあればいいなあと思っていたのだけど、この際なんでもOK。とりあえずこれでしばらく様子を見てみることにした。
 

消毒スプレー

 
ちょうど週末だったから土日で少しでもよくなればと願っていたのだけど、実際には逆でどんどんひどくなり、明け方には痛みで目が覚めるほどになってしまった。何か大変な症状につながらないか心配だったので、看護師だった母親にスカイプで患部を見せたところ、まあ大丈夫じゃないかということでひとまず安心。休みなのにどこにも行かず、部屋にこもって足に負担がかからないようにしていた。でも月曜になって靴を履き歩いてみると、痛い。歩き続けていると耐えられないぐらいで、何度か休憩しながら足を引きずるようにしてなんとか学校に到着。幸い、学校のすぐ近くに薬局があり、午前中で授業が終わるとすぐに向かった。
 

薬局
左側に見えるのが学校

 
中に入ると数人が薬を買うために列をつくって待っている。けっこう大きなお店で、4人ぐらいの薬剤師さんがカウンターに待機し、順番に対応。私が当たったのはやさしそうなお姉さん。今度は電子辞書を持参し、あらかじめ「化膿」という単語を調べておいてそれを見せながら症状を説明する。一応伝わったようだけど、今度は向こうの言う単語が分からない。仕方がないので、電子辞書にその単語を打ち込んでもらうようお願いすると「えー!」と笑いながら入力してくれた。いくつかの言葉を交わした後、どうやら彼女も正確に理解してくれたらしく、爪と爪まわり用の消毒薬(そんなのあるんだ!)、それに抗生物質を出してくれた。最後に「何日か使って治らなかったら病院に行ってね」。いい人でよかった。
 

消毒薬と抗生物質

 
翌日から少しずつよくなり始め、3日後ぐらいからは普通に歩けるようになったので、次の週末は外出してみたけれど大丈夫だった。まだ完治までには時間がかかりそうだけど、とにかく快方に向かっている。最悪、病院に行こうと思ってはいたのだけど、保険が使えるのかどうかやフランス語で説明できるかといったことよりも、どんな処置をされるのかが不安だった。すでに拷問のような痛みだったのに、針を刺して膿を出すことにでもなったらと想像すると、恐ろしくて倒れそうだったのだ。同じクラスの日本人にこの話をしたところ、彼女もこちらに来た当初は日本では経験したこともなかった症状が出て病院に通っていたそうで、やっぱり環境が変わることによって抵抗力も落ちるのかなと言っていた。精神的には日本で毎日会社に通っていたころよりよっぽど安定しているけれど、確かにそういうことはあるのかも。まさかフランスで薬を買うことになるとは。とりあえず、爪を切る回数は少なくしてみよう。

 

絆創膏
大量に持ってきた絆創膏を使い切ったので購入

 

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フランス語の発音

前回に続きフランス語について。音の美しさに引かれて勉強を始める人も多いと思うけれど、フランス語の発音は日本人にとって本当に難しい。母音がなんと14もあるのだ。あいうえおしか知らない人間が「う」や「お」のバリエーションをすぐにマスターできるはずがない。フランス語というと「é」とか「ô」という記号付きのアルファベットを見たことがある人も多いと思うけれど、「é」と「e」、「ô」と「o」はそれぞれいつも発音が同じとは限らない。よく英語でも、「a」が入った単語が4つぐらい並んでいて同じ発音のものを選べっていう問題があるけど、実はあれがけっこう得意だ。もちろん最初は違いなんてまったく分からなかったのだけど、高校生のときに辞書を見て自分で発音しながら研究したところ理解できるようになり、発音記号も読めるようになった。慣れるとパターンがあるので、こういう綴りのときはこの発音だなというのが自然に分かるようになる。英語でその経験があったから、フランス語でも同じようにいけるだろうと思っていたのだけど、甘かった。違いが微妙すぎて聞き分けられない。それでも一応パターンというものがあるので、大体はつかめるものの、どう違うのかは分からない状態。

この前、語学学校の選択科目で映画の授業を取っていることを書いたけど、もうひとつ選んだのは発音。このクラスであらためてフランス語のAからZまでの発音を覚え直し、徐々にそれぞれの母音の違いを教えてもらっている。どうやって14もの異なる母音を発音し分けるのかというと、口の開き方や舌の位置をそれぞれ変えるのだ。今やっているのは「y」と「u」の違い。これは日本人には「ユ」「ウ」と聞こえるのだけど、どちらも日本語のそれではない。特に「u」の方は舌を後ろに持っていくとのことで、最初はよく分からなかったけど、毎週先生の口元を見ながら音を聞いているうちにつかめた。こういうことかー。でもこれってかなり難しい。普通の会話の中で本当にみんなこんな風に発音しているんだろうか?先生も、フランス人にとっては意識せず自然にやっていることだから、口の動きを説明するのはなかなか難しいと言っていた。日本語にも無声音というのがあって、たとえば「野球」の「や」や「ソフトバンク」の「フ」「ク」は音には出ないけど、これって外国人はやっぱり自然にできないのだろうか。
 

ヘッドホン

 
さて、母音の違いが理解できたとして、次にやっかいなのが「リエゾン」「アンシェヌマン」「エリズィオン」と呼ばれるもの。そもそもフランス語には、綴りにはあるけど発音しない文字というのがあって、英語で「Paris」と言う場合は最後の s を発音するけど、フランス語では「パリ」。ただ、単独では発音しなくても、次にくる単語が母音で始まっている場合は続けて読むというルールがある。たとえば「les amis」(「友だち」/lesは英語のtheの複数形)は本当なら「レアミ」だけど、sとaをつなげて「レザミ」と読む。これが「リエゾン」で、「アンシェヌマン」も要するに子音と母音を続けて読むこと、「エリズィオン」は母音が重なる場合に前の単語の母音を省略して「’」を付けることなのだけど、まあフランス語を知らない人にはまったくわけが分からないと思う。

ただこの“続けて読む”というのは本当にややこしい。これに対して個人的に効果があった勉強法が、フランス語を聞いてそれを書き取るディクテーションだったのだけど、今でも覚えているのが「l’avion」と「la viande」。前者は「飛行機」で、本来は「le avion」(leはtheの男性形)なのだけど、母音のeとaが重なっているためにエリズィオンでこういう形になっている。そして後者は「肉」(laはtheの女性形)。で、何が問題なのかというと、どっちも発音が「ラヴィオン」と聞こえるのだ(ちなみにviandeの「de」は発音する)。意味がぜんぜん違うから、文脈が分かっていれば推測もできるのだけど、そこまでのレベルに達していなければ判断がつかない。続けて読むために、こうやって別の単語と似たような発音になってしまうというケース、フランス語ではけっこうある。日本語でも「橋」「端」「箸」みたいな同音異義語がたくさん存在するから、きっと外国人にとってはやっかいなんだろうな。
 

手をつなぐ子供たち

 
日本語には数多くの文字があって、それらを使うことで多様な表現が可能だけれど、アルファベットは26文字しかないから、きっと発音を増やしでもしないと限界があるんだろうと勝手に思っている。でもおもしろいもので、同じフランス語をしゃべっているはずなのに、韓国人がしゃべると韓国語に聞こえるし、アメリカ人がしゃべると英語に聞こえる。外国語の発音ってやっぱりどこの国の人にとっても難しいのだ。個人的には、英語もフランス語も「カタカナ読み」ではないと思っているけれど、日本で勉強していると、テキストを見ずに先生の後に続いてリピートするときはみんなきれいな発音なのに、綴りを見た途端カタカナ読みになる人が多かった。だから自分も含め、とりあえず聞こえている通りに発音してみるのが一番いいんじゃないだろうか。

 

テキスト_アルファベット発音
先生の手書きによる”口の開き方”