フランス語の難解さ

英語もそれほどできるわけじゃないけれど、フランス語を習得するのはさらに難しい。そもそも日本語とは考え方がまったく違う上に、複雑なルールが多数存在する。日本人だけじゃなく、すべてのフランス語学習者を悩ませるやっかいなポイントのうち3つを挙げてみた。

①動詞の活用
第一の難関はここ。とにかくこれを覚えないと前に進めないのだけど、なかなか簡単にはいかない。英語なら、I you he/she we you they の後に現在形の動詞を続けるとき、he/sheの場合だけいわゆる3単現のsを付ければいい。これがフランス語になると、すべて活用が異なる。つまり6種類の活用形を覚えなければいけないのだ。たとえば「歌う」という動詞「chanter」の場合、

   je chante(私)
   tu chantes(君)
   il/elle chante(彼/彼女)
   nous chantons(私たち)
   vous chantez(あなた、あなたたち)
   ils chantent(彼ら)

となる。ただいつも同じパターンで活用するのではなく、動詞の不定形(原形)によって活用の仕方も変わるから、これらを覚えるだけでもかなり大変。上の例は「er」で終わる動詞の場合だけど、それ以外のものもたくさんあるのだ。さらに現在形だけでなく、複合過去、半過去、単純未来、条件法、接続法など時制や条件によって、それぞれいちいち何種類もの異なる形に活用するから、全部で一体いくつ覚えなければいけないのかは分からない。よく使うものは慣れれば自然と頭に入るのだけど、例えば条件法や接続法というのは授業でもあまり出てこないから、いつまでたっても覚えられなかったりする。この活用だけでいやになる人はけっこういるんじゃないかな。
 

アルファベットクッキー

 
②男性名詞と女性名詞
フランス語の名詞にはすべて性があり、男性か女性に分かれている。分け方にルールはなく、要するに覚えるしかない。「空」は男性だけど「海」は女性、「日本」は男性で「フランス」は女性。男性か女性かがなぜ重要なのかというと、それによって冠詞や形容詞が変わるから。これも例を挙げてみると、

   un livre(本:男性) /  une fleur(花:女性)
   le soleil(太陽:男性)/  la lune(月:女性)
   petit garçon(男の子)/  petite fille(女の子)

という具合。 un/uneは「1つの、1本の」、le/laは英語の「the」、petit/petiteは「小さな」。意味は同じでも男性か女性かで形が変わるので、まずは名詞がどちらの性なのかを頭に入れた上で、付属するものの形も考えなければいけない。この名詞の性というのはなかなかやっかいで、代名詞や動詞の過去分詞なんかにも影響してくる。それをここで説明するのは不可能なので省略するけど、ドイツ語には男性名詞・女性名詞に加えて中性名詞もあるというから、2種類だけでまだましなのかも。
 

男性・女性

 
③数字
何といっても一番ややこしいのがこれ。フランス語は非常に特殊な数の数え方をする。0から69まではそれぞれに個別の呼び方があり、これはまあそんなに苦労なく覚えられるのだけど、70からなぜか算数が入る。

   70:soixante-dix = 60(soixante)+ 10(dix)
   71:soixante et onze  = 60(soixante)+ 11(onze)  ※「et」は英語の「and」
   72:soixante-douze = 60(soixante)+ 12(douze)
   
   
   
   80:quatre-vingts = 4(quatre)× 20(vingt ※「s」は複数を表す)
   81:quatre-vingt-un = 4(quatre)× 20(vingt)+  1(un)
   82:quatre-vingt-deux = 4(quatre)× 20(vingt)+  2(deux)
   
   
   
   90:quatre-vingt-dix = 4(quatre)× 20(vingt)+  10(dix)
   91:quatre-vingt-onze = 4(quatre)× 20(vingt)+  11(onze)
   92:quatre-vingt-douze = 4(quatre)× 20(vingt)+  12(douze)
   
   
   
   99:quatre-vingt-dix-neuf = 4(quatre)× 20(vingt)+  19(dix-neuf)

相当分かりにくいけど、特に90から99の複雑さといったら!長い上に、始めの方を聞いただけでは80台なのか90台なのか分からない。「7」「8」「9」はもちろん、「100」も「1000」もそれぞれ呼び方があるのに、なぜ70から99だけこうなるんだろうか。かつて、当時の石原都知事が記者会見で「フランス語は数が数えられないから国際語としてふさわしくない」と発言して話題になったことがあったけれど、少なくとも前半部分に関しては大いに同意する。
 

数字

 
フランス語を勉強していると、英語って単純な言語だなと感じるし、国際公用語になるのも分かる。とはいえフランス語は英語と似ている部分も多くて、英語の知識が役に立っていることは間違いない。基本的な構造はほぼ同じだし、単語も見たことあるようなのがいっぱいだ。たとえば英語の「interesting」はフランス語で「intéressant」、「different」は「différent」、「important」や「difficile」なんかは綴りまで同じ。ただし発音が違う。英文の中でこういう単語が出てくると、今ならフランス語読みしてしまいそうだ。こう考えると、英語圏の人はフランス語を学ぶ上でかなり有利だと思うけれど、必ずしもそうではないようで、私よりしゃべれない生徒もたくさんいる。やっぱり勉強して言語を身につけるって大変なのだ。まあでも、いくらフランス語が難解だとはいえ、日本語を一から学ぶよりはきっと簡単なんだろうな。

 

学校の階段
毎朝、この階段で4階の教室まで

 

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映画の授業

今通っている語学学校には選択科目というのがあって、メインの授業以外に好きなクラスを受講できる。会話や作文、発音などのクラスがあるのだけど、私が選んだうちの一つはやっぱり映画。選択科目はいつものクラスとは違い、いくつかのレベルの人たちが集まって一緒に受ける。この映画のクラスはフランス語のレベルでは一番初級ということになり、10人ぐらいいる中で私はできる方だけど、ほとんどしゃべれない生徒たちを相手にどんな授業をするのかと思ったらすごくおもしろい内容だった。パリを舞台にした映画を見ながら、撮影されたのがどこで、どんな場所なのかを先生が解説すると同時に、その作品や監督の映画史における位置づけ、後に与えた影響など、映画の世界全体についても知ることができる。もちろん授業は全部フランス語だけど、分かりやすくしゃべってくれるので難しくはないし、技法や映画用語などのフランス語の表現も学べるので、本当に取ってよかったと思っている。映画は好きだけど専門的な知識はほとんどないから、この年齢であらためて勉強できるなんて幸せだ。
 

映写機

 
一番最初にやったのはロベール・ブレッソンの『スリ』。この監督は、学生時代に『バルタザールどこへ行く』を見て苦手だなと思った印象があり、それ以来1本の作品を見ただけだけど、この『スリ』というのはすごく興味深かった。授業で見たのは抜粋だけだから、日本に帰ったらDVDを借りよう。ブレッソンはヌーヴェル・ヴァーグの監督たちに大きな影響を与えた存在でもあるので、その辺のところを詳しく知りたかったけれど、さすがに今のフランス語力では先生もそこまで踏み込めない。そして今やっているのはジャン=ピエール・メルヴィル。この世でもっとも美しい男、アラン・ドロンを毎週見ることができるので楽しみだ。彼が出ている映画を見たことがあるかと聞かれたとき、たまたま当てられたのでうれしくて3つぐらい作品名を挙げたら「君は日本人?彼は日本でものすごーく人気があるからね」と言っていた。確かに、かつては日本人女性たちが虜になった。だってこの顔、何回見ても惚れ惚れする。
 

画像引用元:
(左)http://ciatr.jp/topics/134215
(右)http://pegasus1.blog.so-net.ne.jp/2007-12-24

 
わざわざ自分で選択したぐらいだから、クラスのみんなは映画好きばかりかと思えばそうでもないようで、ブレッソンやメルヴィルの名前を知らない生徒もけっこういるようだ。1950~60年代の作品が中心だから、個人的にはまさにピンポイントで好きな時代なのだけど、今のハリウッド作品とはぜんぜん違うからあまり好みじゃないと言っている子もいた。でも彼女たちにとっても授業自体はおもしろいようで、みんな割と楽しんでいる。ちなみにこの時代のフランス映画は日本映画の影響も大きく受けているから、日本の作品や監督の名前も先生はよく口にする。最初の授業で「日本の生徒たち、オヅを知っている?」と聞かれたので、もちろん「小津安二郎ですね」って答えたんだけど、大学生の女の子は「えー知らない。黒澤明だったら知ってるけど」と言っていて、さすがにショックだった。
 

東京物語画像引用元:http://movies.yahoo.co.jp/movie/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E7%89%A9%E8%AA%9E/136157/

 
ところでこういう授業になると、積極的に発言することが求められる。作品の一部を見て、誰がいたか、何が起こったか、どう感じたか、疑問に思ったことはないか、など、とにかく何でもいいから意見を言ってと毎回促される。フランス語が合っているかどうかなんて大した問題じゃないって先生が言うのがおもしろい。こういうの、欧米人は得意かと思いきやそうでもないよう。フランス語だからうまく言えないのか、求められていることが難しいからなのか、理由は分からないけど。そういう私もやっぱり苦手で、大体いつも同じ2、3人の子が発言する。私の場合はフランス語かどうかというのはあまり関係なくて、言葉にすること自体が下手なのだ。映画を見てたとえどんなに心を動かされても、それを口ではうまく表現できない。こうやって時間をかけて考えて文章にすることは得意なのだけど・・・。だからこの前、映像を見ながら心の中で自分なりに解説するという作業をやってみた。雨の街、男、トレンチコート、車、煙草、アパート、女――。シーンひとつひとつの要素を拾っていくだけでもけっこう効果的で、見終わっても覚えているし、結果として疑問点も出てきたので発言してみたら先生も拾ってくれて、さらに広げてくれた。初めは発言すること自体がなかなかできなかったけど、今はクラスに慣れてきたこともあり、その問題は克服できつつある。だからこの授業は、想像力と表現力を鍛えるという、私自身の課題にとっても有効なのだ。
 

フィルム

 
それにしてもすごいのは、先生の手作りと思われるテキスト。いろんな雑誌や新聞などから抜粋したのであろう記事が、授業で扱う順番通りに一冊にまとまっていて、これらを集めるのにも切り貼りするのにも相当時間がかかったと思う。書いてある文章は難しいから読まなくていいよと言われたけれど、せっかくの資料だし、もちろん個人的興味もあるから頑張ってなるべく読んでいこう。

 

テキスト
テキストには日本語の記事も

排水管が詰まる

先週、シャワーの排水が遅くなっていることに気づいた。それまでは、洗濯もしながらどんどんお湯を流しても何ともなかったのに、すぐにシャワースペースにたまってしまう。頭や体を洗うときにはいったん止めて流れるのを待っているのだけど、ものすごく時間がかかり、その間に体が冷えてしまう。でもそのままお湯を出し続けるとあふれてしまうし、毎日ちょっとずつ流れるスピードも落ちていくので、どうしようもなくなって対策を調べてみた。

フランスの建物は古いので、元々水回りのトラブルが多いということは知っていた。でも調べてみると、排水管の詰まりというのは、フランスに住んだらもれなく誰にも訪れるイベントらしい。それにしてもまだ1カ月なのに!そもそも、排水溝には日本みたいに網カゴのようなものが付いていなくて、フタもない。だから髪の毛も何もかも穴から全部流れていってしまう。開けられないようになっているから中の掃除もできなくて、最初は手間いらずでラッキーと思ったのだけど、甘かった。どうも排水管が細かったり、下に伸びているのではなくて90度横に曲がったりしているらしく、水が流れないということがしょっちゅう起こっているようなのだ。
 

排水溝

 
そういうときにフランス人が使うのがDesTopという超強力な排水管洗浄液。日本でもパイプユニッシュみたいなのがあるけれど、普通はめったに使わないと思うし、私自身は使ったことがない。そもそも、排水ができなくなったというトラブルを経験したことがないのだ。ところがフランスでは頻繁に詰まりが発生するし、そうなるとこのDesTopを使うのが一般的で、スーパーに行くと種類も豊富にそろっている。とりあえず、一番安いのを買ってきて試してみた。
 

DesTop

 
使い方は簡単で、薄い紫色の液体をそのまま流して45分置いておくだけ。最初はボトルの半分ほどの量を流し、1時間ほど置いてみたけどあまり変わらなかったので、残りを全部流して一晩そのままにしておいた。すると次の日から流れる流れる!最初のころと同じように、ストレスなくシャワーを浴びられるようになった。何でも、ごみや髪の毛などをすべて溶かしてしまうとのことで、フランス人はいまだにこんな劇薬を日常的に垂れ流しているのだ。まったくもって先進国とは思えないエコな習慣・・・。日本にいる友人にこの話をしたところ「ニキータだな」と言われた。残念ながら覚えていなかったけど、映画『ニキータ』の中で、ジャン・レノ扮する掃除屋が死体を溶かすために浴槽で硫酸をかけるというシーンがあったのだ。確かにDesTopでもいけるかも。

ところでフランスの掃除についていろいろ調べてみると、重曹とお酢がいいらしいということが分かった。日本でもこの2つを使った掃除方法が紹介されているけれど、フランスでは特に効果があるらしい。というのも、こっちの水は日本と違って硬水なので、使い続けているとシャワーヘッドやケトルに白い粉状の石灰が付いてくる。まだそれほど気にならないけど、重曹とお酢で洗うとこの石灰がきれいに取れるのだそうだ。また洗濯にも効果的で、洗剤と一緒に入れると洗い上がりのごわごわ感が緩和されるとのこと。さっそくスーパーで重曹とお酢の洗剤を買ってきた。環境にもいいし、日本に帰ってからも続けよう。重曹というのはそもそも調味料のコーナーに置いてあるので当然料理にも使えるのだけど、パスタをゆでるときに入れると縮れができてラーメンのようになるらしいというのも、日本人にとってはうれしい情報。
 

重曹とお酢の洗剤

 
硬水というと、肌が荒れるとか髪の毛がパサつくという話をよく聞くけれど、今はまだ日本から持ってきた石けんとシャンプーを使っているせいか、まったくそんなことはない。もうすぐシャンプーとリンスがなくなるので、こっちで買ったものを使ってみよう。それにしても、早いところ排水溝のフタを手に入れないと!一応フランスにもあるらしいのだけど、まだ見つけられていない。今は、日本から持ってきた台所用の水切りネットを小さく切って穴にかぶせ、足で押さえて急場をしのいでいるけれど、さすがにちょっと苦しい。でも毎月あんなケミカルな液体を使い続けるのは、地球人として気が引けるしなあ・・・。

 

シャンプー&リンス

パッケージと香りで選んだシャンプー&リンス

 

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