映画の授業

今通っている語学学校には選択科目というのがあって、メインの授業以外に好きなクラスを受講できる。会話や作文、発音などのクラスがあるのだけど、私が選んだうちの一つはやっぱり映画。選択科目はいつものクラスとは違い、いくつかのレベルの人たちが集まって一緒に受ける。この映画のクラスはフランス語のレベルでは一番初級ということになり、10人ぐらいいる中で私はできる方だけど、ほとんどしゃべれない生徒たちを相手にどんな授業をするのかと思ったらすごくおもしろい内容だった。パリを舞台にした映画を見ながら、撮影されたのがどこで、どんな場所なのかを先生が解説すると同時に、その作品や監督の映画史における位置づけ、後に与えた影響など、映画の世界全体についても知ることができる。もちろん授業は全部フランス語だけど、分かりやすくしゃべってくれるので難しくはないし、技法や映画用語などのフランス語の表現も学べるので、本当に取ってよかったと思っている。映画は好きだけど専門的な知識はほとんどないから、この年齢であらためて勉強できるなんて幸せだ。
 

映写機

 
一番最初にやったのはロベール・ブレッソンの『スリ』。この監督は、学生時代に『バルタザールどこへ行く』を見て苦手だなと思った印象があり、それ以来1本の作品を見ただけだけど、この『スリ』というのはすごく興味深かった。授業で見たのは抜粋だけだから、日本に帰ったらDVDを借りよう。ブレッソンはヌーヴェル・ヴァーグの監督たちに大きな影響を与えた存在でもあるので、その辺のところを詳しく知りたかったけれど、さすがに今のフランス語力では先生もそこまで踏み込めない。そして今やっているのはジャン=ピエール・メルヴィル。この世でもっとも美しい男、アラン・ドロンを毎週見ることができるので楽しみだ。彼が出ている映画を見たことがあるかと聞かれたとき、たまたま当てられたのでうれしくて3つぐらい作品名を挙げたら「君は日本人?彼は日本でものすごーく人気があるからね」と言っていた。確かに、かつては日本人女性たちが虜になった。だってこの顔、何回見ても惚れ惚れする。
 

画像引用元:
(左)http://ciatr.jp/topics/134215
(右)http://pegasus1.blog.so-net.ne.jp/2007-12-24

 
わざわざ自分で選択したぐらいだから、クラスのみんなは映画好きばかりかと思えばそうでもないようで、ブレッソンやメルヴィルの名前を知らない生徒もけっこういるようだ。1950~60年代の作品が中心だから、個人的にはまさにピンポイントで好きな時代なのだけど、今のハリウッド作品とはぜんぜん違うからあまり好みじゃないと言っている子もいた。でも彼女たちにとっても授業自体はおもしろいようで、みんな割と楽しんでいる。ちなみにこの時代のフランス映画は日本映画の影響も大きく受けているから、日本の作品や監督の名前も先生はよく口にする。最初の授業で「日本の生徒たち、オヅを知っている?」と聞かれたので、もちろん「小津安二郎ですね」って答えたんだけど、大学生の女の子は「えー知らない。黒澤明だったら知ってるけど」と言っていて、さすがにショックだった。
 

東京物語画像引用元:http://movies.yahoo.co.jp/movie/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E7%89%A9%E8%AA%9E/136157/

 
ところでこういう授業になると、積極的に発言することが求められる。作品の一部を見て、誰がいたか、何が起こったか、どう感じたか、疑問に思ったことはないか、など、とにかく何でもいいから意見を言ってと毎回促される。フランス語が合っているかどうかなんて大した問題じゃないって先生が言うのがおもしろい。こういうの、欧米人は得意かと思いきやそうでもないよう。フランス語だからうまく言えないのか、求められていることが難しいからなのか、理由は分からないけど。そういう私もやっぱり苦手で、大体いつも同じ2、3人の子が発言する。私の場合はフランス語かどうかというのはあまり関係なくて、言葉にすること自体が下手なのだ。映画を見てたとえどんなに心を動かされても、それを口ではうまく表現できない。こうやって時間をかけて考えて文章にすることは得意なのだけど・・・。だからこの前、映像を見ながら心の中で自分なりに解説するという作業をやってみた。雨の街、男、トレンチコート、車、煙草、アパート、女――。シーンひとつひとつの要素を拾っていくだけでもけっこう効果的で、見終わっても覚えているし、結果として疑問点も出てきたので発言してみたら先生も拾ってくれて、さらに広げてくれた。初めは発言すること自体がなかなかできなかったけど、今はクラスに慣れてきたこともあり、その問題は克服できつつある。だからこの授業は、想像力と表現力を鍛えるという、私自身の課題にとっても有効なのだ。
 

フィルム

 
それにしてもすごいのは、先生の手作りと思われるテキスト。いろんな雑誌や新聞などから抜粋したのであろう記事が、授業で扱う順番通りに一冊にまとまっていて、これらを集めるのにも切り貼りするのにも相当時間がかかったと思う。書いてある文章は難しいから読まなくていいよと言われたけれど、せっかくの資料だし、もちろん個人的興味もあるから頑張ってなるべく読んでいこう。

 

テキスト
テキストには日本語の記事も

2件のコメント

  1. 写真を引用していただきありがとうございます.でもこの先生,ほんとにすごいですね.映画が好きで,詳しい方なんでしょうね.

    1. コメントいただきありがとうございます。
      いい表情のアラン・ドロンを紹介することができました。
      世の中、映画好きの人はたくさんいますが、
      この先生もほぼすべてを見ているんじゃないかと思われるぐらい
      本当に詳しいですよ。

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