パリ20区歩き ―12区―

12区位置

 
大都会にもかかわらずパリに緑が多いことはこれまでに何度も書いているけれど、この12区もまたオアシスのようなエリア。ここで楽しみなのは、なんといっても高架橋の遊歩道。映画の中でジュリー・デルピーとイーサン・ホークが並んで歩いていた、あの緑あふれる散歩道があるのが12区なのだ。これはかなりわくわく。

スタートは、4区、11区との境にあるオペラ・バスティーユ。去年の年末にバレエを見にいったことを書いたけれど、今年になってからもまた見たので、すでに2回入ったことになる。大きくてモダンなホールはいつも変わらず堂々とした姿でパリの街を見下ろしている。

 オペラ座外観

 
オペラ座を右に見ながら東へ向かう。途中、かんじのいい通りがあったので曲がってみると、思わず立ち止まってしまう素敵なショーウインドウがあちこちに。ただ、残念ながら日曜だったため、ほとんどのお店は休み。
 

 
ここからさらに少し東へ行ったアントワーヌ・ヴォロン通りに、マドレーヌがおいしいパン屋、ブレ・シュクレがあるというのを本で読んで、ここにも寄り道。ただ、このときは場所を勘違いしていて見つけられず、後日再チャレンジ。思っていたよりもだいぶ先まで歩き、無事マドレーヌを手に入れることができた。
 

 
砂糖でコーティングされた表面はカリカリ、中はしっとり素朴な味で、卵と牛乳とバターの香りがどこかなつかしい。パリのパン屋はお菓子もなかなかハイレベル。

さて、ここからが本番。12区のほぼ真ん中を東西に貫いているドメニル大通りへ。いよいよ見えてきた、あれが目指す高架橋だ。下にはインテリアや雑貨などのショップが並んでいる。神戸の三宮周辺をもう少しモダンにした雰囲気。まあここも、この日はほとんどのお店が閉まっていたのだけど。

 高架下

 
でも、日曜はどこも定休日というこの習慣、個人的にはいいと思っている。日本人からすると一見、不便だけど、働いている人は絶対に休めるわけだから健全。実際、コンビニの24時間営業とか、注文当日に届く宅配制度とか、そのうち必ず綻びが出てくるだろうと思っていたものは、意外に早くその予想が現実になってきているし。特定の日を休みにすると決めればそれに合わせた社会になっていくものだから、利便性ばかりを追求することはそろそろ考え直さなければ。とはいえ、パリも最近は日曜営業の店が増えているから過剰にならないよう願っているけれど、まあさすがに日本のようにはならないかな。

この高架橋は1969年まで使われていた国鉄近郊線。現在は遊歩道プロムナード・プランテになっていて、ドメニル大通り沿いに4キロ半も続いているとのこと。思った通り、ここを歩くことができるなんて楽しそう。途中、通りのあちこちに出入り口となる階段があるのだけど、どうせなら一番端から歩いてみたい。

 階段

 
階段を上がるとこの景色!下からではぜんぜん分からない、緑いっぱいの空間。

 プロムナード1

 
林の抜け道のような場所があったり、ちょっとした池のようなものがあったり、趣向が凝らされていて、ずっと歩いていても飽きない。ところどころに現れる緑のアーチが、公園のような雰囲気を演出している。このアーチ、単体で見れば無機質なデザインだけど、こういうシンプルなものが風景と調和するのがパリらしいところ。
 

 
木々の間から見える街の景色がまたいい。白やグレーの建物が整然と並ぶ、イメージ通りのパリ。ただ、右側と左側ではだいぶ様子が違い、右=南側は格式が高いかつての高級住宅地、左=北側は戦後に整備された庶民的な住宅街なんだそう。こうやって、高い場所からパリの人たちの暮らしを見るって、なかなか面白い。
 

 
この散歩道が出てくる映画というのは『ビフォア・サンセット』。パリに向かう列車の中で偶然出会った男女の一夜、その9年後、18年後を描いた『恋人までの距離(ディスタンス)』『ビフォア・サンセット』『ビフォア・ミッドナイト』と続く3部作は、私の周りでもファンが多いシリーズ。このうち2作目で、再会した2人が散歩するのがプロムナード・プランテなのだ。映画の中でも緑あふれる風景がとても印象的でよく覚えているのだけど、まさかこんな高架橋の遊歩道だったとは。知らなければ公園にしか見えない。

気持ちよく散歩しながら、一番端までやって来た。ここにあるのはルイイ公園。木陰でみんなゆっくり過ごしている。

 ルイイ公園1

 
と思って反対側を見ると、びっくり!

 ルイイ公園2

 
天気もいいし、暑いし、ピクニックするのはぜんぜん構わない。でも、公園で水着になるって。日本ではまず見かけない光景。フランス人は、夏になると少しでも肌を焼きたいと思うそうで、普段からちょっと気温が上がるとすぐに半袖になったりノースリーブになったりするのだけど、この行動はさすがに予想外。そもそも、公園に水着を持っていくこと自体、なかなか思いつかないし。夏でも絶対に焼きたくないという多くの日本人女性にとってはあり得ない発想。これがフランスの文化だ。

 ルイイ公園3

 
プロムナード・プランテはここで終わりのようなのだけど、心地よい散歩コースはまだまだ続く。トンネルを抜けたり、花を眺めたり、公園を通ったりしながら、最後は畑の中のような田舎道へ。ここでついに行き止まり。でも、南の方にはヴァンセンヌの森が広がっていて、そちらへ向かえばもっと自然を満喫できる。残念ながら、今回は時間がなかったのだけど。
 

 
今度はセーヌ川の方へ向かっていくと、広大なベルシー公園が。ここもまた、休日の陽気を楽しむ人たちでいっぱい。
 

 
この辺りは1990年代以降に再開発されたそうで、今ではスタジアムやブティックの集まる一大エリアになったとのこと。中でも個人的に見逃せないのは、特にヌーヴェル・ヴァーグ好きにはなじみのある映画博物館シネマテーク・フランセーズ。

 シネマテーク外観

 
元々は16区にあったものが移転して、ここでパリの映画文化を守っている。シネマテーク・フランセーズについては、また映画館めぐりで書く予定。近くには、フランソワ・トリュフォーやジャン=ポール・ベルモンドの名前が付いた通りも。
 

 
ここからまたオペラ座の方へ戻っていくと、国鉄リヨン駅がある。1900年のパリ万博に合わせて造られたそうで、大きな時計台が目を引く美しい駅舎。

 リヨン駅

 
駅舎の2階には、クラシックな外観のレストラン、ル・トラン・ブルーが静かに佇んでいる。映画『ニキータ』のアクション・シーンでも使われたという、歴史のある建物。内装が豪華らしく、見てみたい気持ちだけは満々。

 レストラン外観

 
最後に、オペラ座のすぐ近くにあるアルスナル港へ。夕暮れのロマンティックな景色を眺めながら小道で涼む。今の季節に散歩するにはぴったりの場所。ここを南に下っていくとセーヌ川、北にずっと上がっていくと10区のサン・マルタン運河に出る。
 

 
 
いつもとは少し違った視点でパリを眺められるプロムナード・プランテを中心に、大きな公園、素敵なショップやカルチャー施設が点在する12区。新しく開発されたエリアが存在する一方で、古くからある建物や文化が街に溶け込み、地区全体が何となく明るい雰囲気に満ちている。天気のいい日に散歩や日向ぼっこするのはもちろん、ショーウインドウを眺めながらぶらぶら散策するのも楽しいかも。

 

カモの親子
ベルシー公園で見かけたかわいい親子連れ

夏期講習が始まる

旅行から帰って来た夜こそ穏やかな天気だったものの、次の日から残りのバカンスは見事に雨。毎日、長袖でも1枚では寒いぐらいの気温だった。この期間、パリに旅行に来ていた人は本当に気の毒。きのうの夕方ぐらいからやっと晴れて、夏期講習初日の今日は朝から快晴。ただ、最高気温は27度の予想でも、朝は15度と寒い。夜でも湿気が消えず、日が昇った瞬間から一気に暑くなる大阪の夏とはぜんぜん違う。

 雨イメージ

 
受講するレベルは春学期の最後の日に登録してきたけれど、先生が誰でどのクラスに行けばいいのかは、けさ事務局の前に貼りだされる表を見て確認しろとのこと。パリカト(パリ・カトリック学院)の生徒じゃない受講生はきのうレベル分けのテストを受けているはずだから、その結果も含めてのクラス発表なのだけど、かなりアナログ。授業は9時からなので、クラスを確認し教室を探す時間も考えて少し早めに家を出たはずが、電車が動いていなくて、結局10分前とけっこうぎりぎりに到着。

一枚一枚、表を見ていくという面倒な作業に時間がかかり、やっと自分の名前を見つけることができた。夏期講習はアメリカ人がすごく多いと聞いていたのだけどその通り、どのクラスにも国籍欄にアメリカとたくさん書かれている。私のクラスも18人中、6人がアメリカ人。あとは中国、韓国も多くて、またも日本人はクラスで私一人。ただ、同じレベルの他のクラスには何人か日本人がいるようだから、まったくの偶然だと思うのだけど。日本人がいないことには春学期で慣れたけれど、知り合いがぜんぜん増えないのはちょっと寂しい。

先生は若い女性で、8カ月の子供がいると言っていたから、きっと私より少し年下。春学期の先生よりゆっくりと、というか普通のスピードでしゃべってくれるから、こちらの方がクラスのレベルは高いのに、前よりだいぶ余裕で聞き取ることができる。元々パリカトの生徒だった人の割合は少なくて3分の1ぐらい。ボランティアの会話の授業で一緒だった子や、前々学期に同じ授業を選択していた子もいる。今回は男性が半分ぐらいと多く、中にはけっこう年上と思われる人たちも何人かいるから、またまたバラエティー豊かなメンバー。7月の1カ月間、彼らとともにこのクラスで授業を受けることになる。

前半は教室の外に出て、キャンパス内と学校付近の案内。まあこれは、パリカトの生徒には不要だったのだけど。でも、前から気になっていたこの爽やかなブルーのレストラン、サラダがおいしいと教えてもらえたのはラッキー。いつか入ってみたい。

 ブルーのレストラン

 
後半から授業に入ったけれど、難しすぎず簡単すぎず、まあまあといったかんじ。ただ、1カ月しかないのにプレゼンがあるのはショック。さっそく来週に決まってしまった。準備しなければ。それにしてもみんな、さすがにこのレベルになると聞けているししゃべれている。語学の習得に留学経験は関係ないことを痛感。最後にやった聞き取り問題は、前学期のものより簡単だったのだけど、それでもやっぱり相変わらず。しばらくフランス語から離れていたから、逆に聞きやすくなっていないだろうかと期待したけれど、ぜんぜん変わっていなかった。

 罫線

 
1カ月ぶりに学校に来たけれど、知っている先生たちや生徒たちと偶然会って、久しぶり!と言葉を交わせるのはやっぱりうれしい。授業がどんなかんじか、休み中に何をしていたかなど、話す内容も日本語と同じだし、スペインで焼けたーって腕を見せたら、いつも真っ黒に日焼けしているインドネシアの男の子に「いや、ぜんぜん」と突っ込まれたりという楽しい時間。でも、周りのみんながどんどんレベルアップしていってるのには、正直焦る。実際には、レベルといっても先生によることが分かったから、クラス分けにそれほど意味がないことは理解しているのだけど、同じクラスにいたはずの人たちは自分より上にいるし、下のクラスだった人たちは今、自分と一緒にやっている。この差はやっぱり、会話力なんだろうか。

まあとにかく、ついていけることが分かってほっとした。夏期講習中は、春学期までの登録時間から少し減らして週15時間。午前中で終わるとはいえ、月~金まで毎日9時開始なので、午後からの日もあったこれまでに比べるとけっこうキツイかも。でも6月は遊びすぎたし、また勉強に戻らないと。ただ、パリもいい季節。晴れればつい、寄り道したくなってしまうから、なるべくその誘惑に負けないよう気をつけなければ。

 

リュクサンブール公園
お昼はいつも通りリュクサンブール公園で

 

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リスボンより⑤

20日間の旅の締めくくり。結局、毎朝9時より前には起きられなかったけど、しっかり寝て今日もスタート。外はきれいな青空が広がっている。きのうより天気はよさそう。

今日、最初にやることは決めていた。テージョ川をフェリーで渡る。こんなに大きな川、やっぱりちょっと遊覧してみたい。

 テージョ川沿いの風景

 
フェリーは、カイス・ド・ソドレ駅と対岸のカシーリャスとを結んでいるもので、乗船時間はわずか10分。観光用というよりは、市民の実用的な交通手段のよう。料金も往復で3ユーロと安い。

 フェリー乗り場

 
けっこうたくさんの人が待っていたから、座れないんじゃないかと心配していたけど、中はすごく広かった。でも陸が見えるのは反対側の座席。帰りにじっくり眺めよう。
 

 
景色を見ながらだと10分なんてすぐ。カシーリャスの情報はまったくなし。その辺を一周してみたけれど、たぶん見るところもそんなになさそう。

 カシーリャス

 
対岸から眺めたリスボンの街。オレンジの屋根が印象的。ちなみに面積はバルセロナとほぼ同じぐらいで、パリよりほんの少し小さいよう。
 

 
せっかく来たけれどここに長居する理由はないので、すぐにまたフェリーで折り返す。滞在時間わずか10分。帰りはちゃんと景色がいい方に座ったから、4月25日橋がきれいに見えた。またリスボンの街が近づいてくる。
 

 
さて、帰りの便は夕方。それまで時間はまだまだある。最後まで楽しまなければ。歩き方が甘かった“高い地区”バイロ・アルトに行ってみよう。

その名の通り、テージョ川を背に坂を上っていったところに広がるバイロ・アルト地区。かなり地理が分かってきた。きのうのアルファマより道も広く建物も大きいものが多いけど、ここも十分、庶民的な雰囲気。
 

 
石畳がどこまで行っても続いているのが本当にいいなあ。車が通る道路には市電も走っているから、情緒あふれる街並みがずっと楽しめる。ただ、ごみがたくさん落ちていたりするところは日本とはだいぶ違う。汚い。まあこれは、ほかの都市や国にも言えることだけど。あと、落書きがやっぱりひどい。なんで消さないんだろうか。
 

 
そして最後に、またここへやって来た。何度見てもはっとするほど美しい。あんまりきれいなので、つい何枚も写真を撮ってしまう。しかも今日は、ケーブルカーが2台ともきれいな黄色だし。

 ケーブルカー2

 
せっかくだから、これに乗って下ることにしよう。乗客は私を含めて3人。歩いている観光客たちが、写真を撮ろうとカメラを構えている。みんなと握手できるぐらい、壁との間が狭い。途中で下から来た車両とすれ違った。上下同時に発車しているのだ。
 

 
乗車時間はあっという間。30秒もかからないぐらいだけど、乗り心地は悪くないし楽しかった。そして下の駅に着くと、すごい人。やっぱりみんな下から上に行くために利用するみたい。でもせっかく乗っても混んでるのはいやだなあ。よかった、上から乗って。

 下の駅

 
夕方までたっぷり楽しんで、いよいよ帰る時間。計算を間違えていて少し遅くなってしまい、焦って宿へ荷物を取りに行く。このホステルは本当によかった。気持ちよく過ごせた。ユースホステルって日本人にはあまりメジャーな宿泊施設ではないかもしれないけれど、欧米の人は大人でも割と利用していて、ここも年配の人がけっこういた。ユースホステルにもいろいろあるけれど、ユースといっても別に年齢制限があるわけじゃないし、ホテルにこだわりがないなら利用価値は高い。相部屋だけど基本的には安全で、盗難に遭ったこともない。一度、バルセロナのホステルで現金をロッカーに入れたまま鍵をかけずに一日出かけてしまったのだけど、まったく何も盗られていなかった。宿泊費を抑えてその分、観光に回すって、なかなか賢い選択だと思う。

幸い、空港までは地下鉄で30分ぐらいなので、そんなにぎりぎりにならずに到着。でも、せっかく第1ターミナルに着いたのに、ここでもまた勘違いしてバスで第2ターミナルまで行ってしまい、引き返すっていうむだな動き。飛行機に乗るときって、チェックインして荷物検査を受けて搭乗口へ行くまで安心できない。

 リスボン空港

 
いよいよリスボンとお別れ。そして旅の生活ともお別れ。帰るときはいつも寂しい。もう二度と来られないかもしれないのだ。

 機内から見たリスボン

 
2時間半後、無事オルリー空港に到着。この3週間にフランスもすっかり季節が進んで、夜でも半袖でちょうどいいぐらいになっている。出発が30分遅れたからこのときもう23時で、荷物を待ったりしているとだいぶ時間がたってしまった。オルリー空港からアパートまでは早ければ30分ぐらいなのだけど、夜だからなかなか電車が来ない。しかも、私の降りる郊外の駅は通過する列車が多く、パリ市内まで行ってしまう。30分以上待っても各駅停車の列車が来ず、いったんパリまで出て折り返そうとしたのだけど、自分の駅までの切符しか買っていないから改札を出られない。仕方なく、キセルする人たちがやるように無理矢理バーを乗り越えたところまではよかったのだけど、今度は反対側のホームに入るためにまた切符がいるから、パリからの切符をあらためて買い直すっていうコントみたいな結果に。日本のようにスムーズにはいかない。そこからまた20分ぐらい待って、ようやく帰り着いたのは1時だった。最後までサバイバル。

 機内から見たパリ

 
今回は自分のミスによるアクシデントがいろいろあったけど、何もなくさず、何も盗られなかったので、まあその点はよかった。それにしても、ヨーロッパはいつ行っても観光客が多い。日本もだんだんこうなってきているとはいえ、まだまだレベルが違う。こんなに常に観光客があふれている街に住むってどんなかんじなんだろう。個人的にはリスボンがすごく気に入って、また行きたい街のリストに加わった。でも、まだまだヨーロッパも知らないところだらけ。知らない世界を見るってわくわくするから、やっぱり旅ってやめられない。人生は、冒険だ。

 

旅の地図
今回の旅の行程はこんなかんじ