図書館に通う

夏期講習の間だけとはいえ、月曜から金曜まで毎朝9時に学校へ行かなければいけないというのはけっこうキツイ。働いていたときと同じだ。これまでは大体10時スタートで、丸一日授業があったり、昼からだけの日があったりとバラバラだったのだけど、朝早く起きなくていい日があるというのは楽だった。今は午前中で授業が終わっても、帰ってお昼ごはんを食べるとどうしても眠くなってしまい、宿題と復習をするのは結局、夜になる。これでは時間がもったいないし効率も悪いので、勉強する場所を探すことにした。学校にも休憩室はあるのだけど、基本的に食事するための場所だから、ノートを広げるのには向いていない。

自習できるスペースといえば、なんといっても図書館。パリは図書館の数が多くて、1つの区に最低1つはあるそう。でもせっかくなら、気持ちよく勉強できる場所がいい。幸い、学校からは5区の学生街カルチエ・ラタンが近く、この辺りには図書館も多いとのこと。早速、よさそうなところを見つけた。サント・ジュヌヴィエーブ図書館。

 外観

 
偉人たちの墓所であるパンテオンのすぐ脇にあり、1851年竣工という古い歴史を持つ図書館。まずここに行ってみたのは、学校から近いことに加えて登録が無料だったから。パリには、ここと同じように歴史ある図書館がいくつかあるのだけど、登録料が必要な場合もあるから、そういうところはできれば避けたい。このサント・ジュヌヴィエーブ図書館は手続きも簡単で、事前にホームページからネット上で必要事項を記入しておくと、受付ですぐにカードを発行してくれた。

 カード

 
建物の中はイメージ通り、厳粛な空気が流れている。まずは重厚な階段を上がって図書室へ。

 

 
ドアを開けて中へ入ると・・・わー素敵!

 室内

 
開放感いっぱいの高い天井、花をモチーフにしたエレガントな装飾、ずらりと並ぶ分厚い本、ノスタルジックな木の机とイス。まさに映画に出てきそうな、雰囲気たっぷりの空間!事前に写真はネットで見ていたのだけど、実際に目にすると、この建物に流れてきた長い時間が迫ってくるよう。数えきれないほどの人たちが、ここで知性を磨いてきたのだ。

室内は飲食禁止、私語も厳禁。だからものすごく静かで集中できる。出入り口には改札機のようなバーがあり、部屋に入るとき・出るときのいずれもカードをかざしてロックを解除しなくてはいけない仕組み。離席に関しても厳しくて、トイレ休憩は20分以内、食事休憩は1日1回1時間以内と決められている。すべてカードで管理されているから、ごまかしもきかない。今は夏休み期間ということもあって利用者もそれほど多くないのだけど、普段はもっとたくさんの学生たちで席が埋まっているだろうから“取り置き”は許されないのだ。日本ではだいぶ前、勉強する学生たちが席を占領して本来の図書館利用者が座れないことが問題になり、図書館での自習は基本的に禁止となった記憶があるのだけど、今はどうなんだろうか。

まだ登録したばかりで数回しか行っていないのだけど、ここに寄ると時間がすごく有効に使える。帰ってお昼ごはんを家で食べたらその分お金はかからないけれど、どっちを取るべきかは迷うところ。ただ、ここも7月下旬から8月中旬まで夏休み。さすがはバカンスの国で、どこも休みの期間が長い。他に開いている図書館もあるし、いろいろ見てみたい思いはあるのだけど、わざわざ遠い場所まで足を延ばすのはやっぱり面倒。最初に入ったところが気に入ったのはよかったものの、来月は困るなあ。でも、行きつけのパン屋も8月はずっと閉まっているので、しばらくお昼は家に帰って食べることにしようかな。

 

栞
裏にインフォメーションが記載された栞

 

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オペラ・ガルニエでバレエを見る

パリで絶対にしたかったことの一つ、オペラ・ガルニエでのバレエ鑑賞が、ついにかなった。パリでバレエを見ること自体は去年から数えて3回目なのだけど、最初の2回は近代的なオペラ・バスティーユだったから、ガルニエ宮では初めて。内部は見学もできるのだけど、参加したことはない。だから世界的にも名高いこの豪華な劇場に、とうとう入ることができたのだ。

 オペラ座外観

 
オペラ・ガルニエは、ナポレオン3世の命によって建てられたもので、完成は142年前の1875年。劇場名は、設計した建築家シャルル・ガルニエの名前に由来するんだそう。普段は夜の公演が多いのだけど、この日は日曜だったので昼公演だった。正面入り口で荷物検査を受けて中へ。入るとまず、重厚で端正なロビーが現れる。
 

 
まっすぐ進んでいくと、有名な大階段が。ひと目で圧倒される、きらびやかな空間。繊細な彫刻に大きなシャンデリア、歴史を感じさせる大理石の柱やアーチ、厳かな天井画。華麗でありながらなんとも格調高い、まさに王宮のような雰囲気。バレエを見にきたのに写真を撮ったりして変な目で見られないかなと心配していたけれど、みんなあちこちで記念撮影していた。
 

 
座席は4階。バスティーユのホールもそうだけど、座席を探すのはなかなか難しくて、チケットに記載されている番号と照らし合わせても自分一人では絶対にたどり着けない。今回はロージュ・ドゥ・コテというカテゴリーの座席だったのだけど、この席は小部屋になっていて、まず番号ごとに分けられているドアを探す。ドアは一つひとつ鍵がかかっているので、劇場スタッフに座席番号を見せて鍵を開けてもらい、席まで案内してもらうシステム。
 

 
小さなドアを入るとまず、コートなどを掛けるためのスペースとなぜか鏡があり、その奥に椅子が並んでいる。このカテゴリーは2席×3列という配置になっていて、一番後ろの3列目の席からはだいぶ舞台が見えにくそうだった。ただ、その分値段も安かったと思う。

 小部屋内部

 
私はというと、もちろん一番前。ここからだと、見晴らしは抜群。舞台とともに、オーケストラも見渡せる。ガイドブックでよく見るシャガールの天井画もすごく近い。威厳ある華麗な装飾と対照的に見えるこのやわらかな絵が、なぜかとてもなじんでいて不思議なかんじ。
 

 
今回は発売日にネットでチケットを取ったのだけど、本来この席は2人1組でないと取れないようで、1枚だけ選ぶとエラーになり、何度やっても予約できなかった。ところがしばらくすると、2つ並んだ席のうち1つだけが販売済みになっている箇所を発見。残った1つを選択してみたところ、無事に予約できたのだった。隣の席の人(学生っぽいフランス人の女の子だった)が、どうやって1枚だけ買ったのかは分からないけれど、はじめに2枚押さえて、あとで1枚キャンセルするというやり方なら可能かも。でもこれってかなり面倒だし、ペアじゃないと買えないっていうシステムもどうかと思う。ただ、やっぱりちゃんと舞台を見るなら、高いけれど1階正面席がベストだ。ちなみに私の座席は約60ユーロだったので、日本で見るのに比べればかなり安い。
 

座席から2
座席正面の眺め

 
さて、肝心のプログラムは「ラ・シルフィード」。バレエが好きな人なら知っている有名な演目だし、私自身も踊ったことがあるぐらいだけど、全幕見るのは初めて。ただまたしても主役が、日本人の母親とニュージーランド人の父親を持つオニール八菜さんだった。パリでバレエを見た3回とも全部この人だ。個人的に彼女の踊りは好みではないので、ちょっと残念。もちろん、全体的には素晴らしかったのだけど。

オペラ座は世界三大バレエ団の一つといわれているぐらい、古い歴史と高いレベルを誇る人気のバレエ団。あとの二つはロシアのボリショイ・バレエ団とイギリスのロイヤル・バレエ団で、このうちロイヤル・バレエ団は、熊川哲也や吉田都など日本でも割と名の通ったダンサーが最高位のプリンシパルだったことでも知られている。きっと世界中のダンサーたちが、これらのバレエ団に入ることを願っていると思うけれど、なかなかそう簡単にはいかない。

日本にはこういう制度はないけれど、オペラ座の場合、付属のバレエ学校があって、小さいときからダンサーになるための専門的な訓練を受ける。この学校に入るにも厳しいテストがあって、骨格や柔軟性などダンサーとしての素質を見られる。私のように、どれだけ頑張っても足が一定の高さまでしか上がらない人もいるから、そういう子は初めからはじかれるのだ。そして容姿も審査の対象。男女にかかわらず、一流のダンサーたちがみんなそれなりにきれいな顔をしているのは、偶然じゃない。これらの生徒たちによるオペラ座での舞台もときどきあって、これも見にいきたいのだけど、人気のようでなかなかチケットが取れない。ただ、よく深夜にテレビで公演が放映されている。バレエをやりたいと思う子供たち、それも男の子がこんなに多いというのは素敵。全身タイツが気持ち悪い、なんていう日本の感覚では、いつまでたっても追いつけない。
 

 
だからオペラ座バレエ団には、この学校からの“生え抜き”のダンサーが多いのだけど、学校を卒業しても踊りが一定の水準に達していなければ、もちろん入団できない。入れたとしても安泰ではなく、そこはプロの世界、厳しい競争が待っている。ダンサーには階級があって、オペラ座の場合、上から

●エトワール(主役)
●プルミエ・ダンスール[男性]/プルミエール・ダンスーズ[女性](ファースト・ソリスト)
●スジェ(セカンド・ソリスト)
●コリフェ(登場回の多い群舞)
●カドリーユ (群舞)

の5つに分けられている。空席がなければ昇進もない厳格な制度で、エトワールになれるダンサーはほんのひと握り。群舞のまま終わる人もたくさんいる。日本人でエトワールになった人はまだいない。そもそも、伝統が重視される世界だから、オペラ座学校出身でないダンサーがエトワールになること自体、ものすごく難しい。オニール八菜さんはまだエトワールではなく、オペラ座学校出身でもないし半分日本人なので、もし指名されれば大変な快挙になるといわれているのだけど、個人的にはやっぱり“オペラ座らしい”踊りではないなと思うから、ちょっと複雑。

 罫線

 
バレエは最高の芸術。これは勝手に思っていることだけど、身体だけで表現されるこれほど美しいものって、ほかにない。選び抜かれた人たちだけに許される、ほとんど奇跡のような世界なのだ。そして、パリという特別な街、オペラ・ガルニエという特別な場所でその最高峰の踊りが見られるなんて、なんという贅沢。夢のような時間、また体験できる機会があればいいなあ。
 

参考:フランスニュースダイジェスト「パリ・オペラ座へようこそ!」

 
 『エトワール』

ダンサーの世界の厳しさが胸に刺さる映画
画像引用元:http://www.kcn.ne.jp/~ikeda/movie/eto/eto1.html

夏期講習継続中

7月の夏期講習は早くも前半が終了。1カ月はあっという間だ。毎日けっこうな量の宿題が出るから、午前中で終わるとはいえあまりゆっくり遊びに行くわけにもいかず、勉強漬けの日々が続いている。すでにプレゼンと1回目のテストが終わったので、ちょっと気は楽になったけれど。
 

窓からの景色
今の教室から見える景色

 
今回のプレゼンのテーマは「あなたの暮らす社会を変えた人、またはそれに影響を与えた人」。すぐに思い浮かんだのはやっぱり、黒澤明、北野武、宮崎駿など映画関係の人たち。外国人もたぶん知っているし、と思ったのだけど、彼らは確かに映画界には影響を与えたものの、テーマとは少しズレている気がする。ということで考えた末、花森安治さんをピックアップ。朝ドラは見ていなかったけど、自分の仕事とも関連しているし、あらためて彼の人生を追ってみるのは悪くなかった。プレゼン資料をつくるのにもだんだん慣れてきて、いつも同じようなのだとつまらないから今回はこんなかんじに。スクリーンに映した途端、誰かが「きれい!」と言ってくれた(たぶん)ので、目を引き付けるのには成功。こういう工夫もプレゼンでは大切。

 プレゼン資料表紙画像引用元:http://www.kurashi-no-techo.co.jp/hanamorisan/

 
フランスらしくというか、プレゼンの評価項目には発音や話し方などの他に、全体の構成や立論といった項目も含まれる。この点については我ながらまずまずの仕上がり。どうやったら分かりやすく伝わるか、そのためにはどういうストーリーにすればいいかと考えるのは、日本語でもフランス語でも同じ。まあこういうのは仕事で散々やってきたから、これらの項目については実際、かなり評価も高かった。ただ、全体の点数は20点中15点。もうちょっともらえるかなと思っていたのでがっかり。もちろん、文法的な間違いはたくさんあっただろうけど、全部覚えて紙を見ずにしゃべったし、自分なりに納得の出来だったんだけどなあ。結局、パフォーマンスの問題なんだとしたら、日本語でもしゃべりが下手な人間にこれ以上の点数を目指すのは無理だ。まあ別に、この点数が何かに影響するわけではぜんぜんないのだけど、ちょっとショック。でも、他の生徒のプレゼンを見るのは、良くも悪くも勉強になる。みんなの言っていることを全部聞き取るのは発音の問題もあってなかなか難しいから、それは残念なのだけど。

さて、春学期よりレベルは1つ上がったわけだけど、クラス全体のレベルは前学期と同じか、もしかしたら少し低いかもしれない。前はしゃべるのが得意な人が多かったから、みんながすごくできるように見えただけかもしれないけれど、今のクラスは簡単な文法も怪しい人がけっこういる気がする。文法に関しては特に、このパリカト(パリ・カトリック学院)の生徒とそうじゃない生徒との違いを感じる。パリカトはかなりしっかり文法をやってくれるので、半過去と複合過去の違いとか、定冠詞と不定冠詞の使い分けとか、外国人が共通して分かりにくいと思うものもパリカトの生徒なら何度もやって頭に入っているけれど、夏期講習だけ受けに来ている生徒というのはその辺がけっこうあやふや。ここに来る前の自分と同じだ。ただ、聞き取りに関してはどこで勉強していようが違いはなく、私は相変わらず絶望的。テストも20点中10点だった。でも、たまたま周りにいた生徒たちの点数はもっと低くて、これにはびっくり。先生によると、できている人とそうでない人の差がすごくあったよう。最近、前よりほんの少し聞けるようになってきた実感があるのだけど、テストの音声はやっぱり難しい。

クラス全体の雰囲気はすごくよくて、前学期よりなんとなくやわらかい。割と年齢層高めのおじさまたちが多いから、人生経験豊富な彼らの存在がそういう空気をつくっているんだと思う。アメリカの生徒の割合が高いのだけど、彼らもずっと自分の意見を言ったり質問したりしているわけではなく、授業中に英語ばかり使うわけでもなく(この辺、かなり個人的偏見)、おとなしく先生の言うことを聞いている。

でも、ただ一つ残念なのは、この先生。決して悪いわけではないのだけど、特に良くもない。今まで当たった先生たちはかなりのベテランばかりだったから、初回から個性全開のユニークな授業が多かったけれど、この先生は特徴がなく可もなく不可もなくというかんじ。春学期の先生はしゃべるのがすごく速くてついていくのが大変だったものの、授業の内容は面白かったし、人間性も感じられた。今の先生はまだ若いから模索中なんだと思うけど、毎日遅刻してくる生徒や授業態度が悪い生徒への注意の仕方が嫌味っぽいのは考えもの。だいぶ機嫌が出てしまっている。もちろん、毎日平気で遅れてきたり他の生徒のプレゼン中にスマホを触っていたりする人には、個人的にもかなりイラッとする。でもこの辺、ベテランの先生たちというのはすごくうまく対処していて、さすがだなと思わせるものを持っていた。やっぱり人を導く職業には優れた人格も必要。いつも会社の愚痴ばかり言っていた自分には、絶対無理な仕事だ。

 罫線

 
パリは毎日、気温が30度近くまで上がったかと思うと、長袖が必要なほど肌寒かったりするけれど、それでもすっかり夏になった。この1カ月でどこまで上達するかは疑問だとはいえ、勉強している時間は無駄ではないはず。残りの2週間もしっかりついていこう。

 

トリコロールのエッフェル塔
7月14日革命記念日のエッフェル塔

 

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