オペラ・ガルニエでバレエを見る

パリで絶対にしたかったことの一つ、オペラ・ガルニエでのバレエ鑑賞が、ついにかなった。パリでバレエを見ること自体は去年から数えて3回目なのだけど、最初の2回は近代的なオペラ・バスティーユだったから、ガルニエ宮では初めて。内部は見学もできるのだけど、参加したことはない。だから世界的にも名高いこの豪華な劇場に、とうとう入ることができたのだ。

 オペラ座外観

 
オペラ・ガルニエは、ナポレオン3世の命によって建てられたもので、完成は142年前の1875年。劇場名は、設計した建築家シャルル・ガルニエの名前に由来するんだそう。普段は夜の公演が多いのだけど、この日は日曜だったので昼公演だった。正面入り口で荷物検査を受けて中へ。入るとまず、重厚で端正なロビーが現れる。
 

 
まっすぐ進んでいくと、有名な大階段が。ひと目で圧倒される、きらびやかな空間。繊細な彫刻に大きなシャンデリア、歴史を感じさせる大理石の柱やアーチ、厳かな天井画。華麗でありながらなんとも格調高い、まさに王宮のような雰囲気。バレエを見にきたのに写真を撮ったりして変な目で見られないかなと心配していたけれど、みんなあちこちで記念撮影していた。
 

 
座席は4階。バスティーユのホールもそうだけど、座席を探すのはなかなか難しくて、チケットに記載されている番号と照らし合わせても自分一人では絶対にたどり着けない。今回はロージュ・ドゥ・コテというカテゴリーの座席だったのだけど、この席は小部屋になっていて、まず番号ごとに分けられているドアを探す。ドアは一つひとつ鍵がかかっているので、劇場スタッフに座席番号を見せて鍵を開けてもらい、席まで案内してもらうシステム。
 

 
小さなドアを入るとまず、コートなどを掛けるためのスペースとなぜか鏡があり、その奥に椅子が並んでいる。このカテゴリーは2席×3列という配置になっていて、一番後ろの3列目の席からはだいぶ舞台が見えにくそうだった。ただ、その分値段も安かったと思う。

 小部屋内部

 
私はというと、もちろん一番前。ここからだと、見晴らしは抜群。舞台とともに、オーケストラも見渡せる。ガイドブックでよく見るシャガールの天井画もすごく近い。威厳ある華麗な装飾と対照的に見えるこのやわらかな絵が、なぜかとてもなじんでいて不思議なかんじ。
 

 
今回は発売日にネットでチケットを取ったのだけど、本来この席は2人1組でないと取れないようで、1枚だけ選ぶとエラーになり、何度やっても予約できなかった。ところがしばらくすると、2つ並んだ席のうち1つだけが販売済みになっている箇所を発見。残った1つを選択してみたところ、無事に予約できたのだった。隣の席の人(学生っぽいフランス人の女の子だった)が、どうやって1枚だけ買ったのかは分からないけれど、はじめに2枚押さえて、あとで1枚キャンセルするというやり方なら可能かも。でもこれってかなり面倒だし、ペアじゃないと買えないっていうシステムもどうかと思う。ただ、やっぱりちゃんと舞台を見るなら、高いけれど1階正面席がベストだ。ちなみに私の座席は約60ユーロだったので、日本で見るのに比べればかなり安い。
 

座席から2
座席正面の眺め

 
さて、肝心のプログラムは「ラ・シルフィード」。バレエが好きな人なら知っている有名な演目だし、私自身も踊ったことがあるぐらいだけど、全幕見るのは初めて。ただまたしても主役が、日本人の母親とニュージーランド人の父親を持つオニール八菜さんだった。パリでバレエを見た3回とも全部この人だ。個人的に彼女の踊りは好みではないので、ちょっと残念。もちろん、全体的には素晴らしかったのだけど。

オペラ座は世界三大バレエ団の一つといわれているぐらい、古い歴史と高いレベルを誇る人気のバレエ団。あとの二つはロシアのボリショイ・バレエ団とイギリスのロイヤル・バレエ団で、このうちロイヤル・バレエ団は、熊川哲也や吉田都など日本でも割と名の通ったダンサーが最高位のプリンシパルだったことでも知られている。きっと世界中のダンサーたちが、これらのバレエ団に入ることを願っていると思うけれど、なかなかそう簡単にはいかない。

日本にはこういう制度はないけれど、オペラ座の場合、付属のバレエ学校があって、小さいときからダンサーになるための専門的な訓練を受ける。この学校に入るにも厳しいテストがあって、骨格や柔軟性などダンサーとしての素質を見られる。私のように、どれだけ頑張っても足が一定の高さまでしか上がらない人もいるから、そういう子は初めからはじかれるのだ。そして容姿も審査の対象。男女にかかわらず、一流のダンサーたちがみんなそれなりにきれいな顔をしているのは、偶然じゃない。これらの生徒たちによるオペラ座での舞台もときどきあって、これも見にいきたいのだけど、人気のようでなかなかチケットが取れない。ただ、よく深夜にテレビで公演が放映されている。バレエをやりたいと思う子供たち、それも男の子がこんなに多いというのは素敵。全身タイツが気持ち悪い、なんていう日本の感覚では、いつまでたっても追いつけない。
 

 
だからオペラ座バレエ団には、この学校からの“生え抜き”のダンサーが多いのだけど、学校を卒業しても踊りが一定の水準に達していなければ、もちろん入団できない。入れたとしても安泰ではなく、そこはプロの世界、厳しい競争が待っている。ダンサーには階級があって、オペラ座の場合、上から

●エトワール(主役)
●プルミエ・ダンスール[男性]/プルミエール・ダンスーズ[女性](ファースト・ソリスト)
●スジェ(セカンド・ソリスト)
●コリフェ(登場回の多い群舞)
●カドリーユ (群舞)

の5つに分けられている。空席がなければ昇進もない厳格な制度で、エトワールになれるダンサーはほんのひと握り。群舞のまま終わる人もたくさんいる。日本人でエトワールになった人はまだいない。そもそも、伝統が重視される世界だから、オペラ座学校出身でないダンサーがエトワールになること自体、ものすごく難しい。オニール八菜さんはまだエトワールではなく、オペラ座学校出身でもないし半分日本人なので、もし指名されれば大変な快挙になるといわれているのだけど、個人的にはやっぱり“オペラ座らしい”踊りではないなと思うから、ちょっと複雑。

 罫線

 
バレエは最高の芸術。これは勝手に思っていることだけど、身体だけで表現されるこれほど美しいものって、ほかにない。選び抜かれた人たちだけに許される、ほとんど奇跡のような世界なのだ。そして、パリという特別な街、オペラ・ガルニエという特別な場所でその最高峰の踊りが見られるなんて、なんという贅沢。夢のような時間、また体験できる機会があればいいなあ。
 

参考:フランスニュースダイジェスト「パリ・オペラ座へようこそ!」

 
 『エトワール』

ダンサーの世界の厳しさが胸に刺さる映画
画像引用元:http://www.kcn.ne.jp/~ikeda/movie/eto/eto1.html

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