今年最初の決断

冬のパリは相変わらず曇り空ばかり。朝8時でもまだ薄暗く気分も沈むのだけど、今年はこの中央暖房のアパートで快適に過ごせている。うわさに聞いていたように、真冬でもTシャツ1枚でいいほど暑くはないものの、ダウンを羽織っていても手足が凍えていた去年までの個別暖房の部屋とは比べものにならない。元々、風邪はあまり引かない方だけど、この冬は兆候さえまったくなし。寝るときも出かけるときも切る必要がなく、いつでも暖かいというのは寒がりには本当にありがたい。日本にもこの暖房システムがあればいいのに。
 

前のアパート
寒い中、久々の太陽を迎えるために開け放たれた窓

 
さて、後期の授業が始まって2週間。いろいろなことが重なってスタートダッシュに失敗し、1週目はかなり大変だった。前期の途中からすでにいやだいやだと思っていたソルボンヌ・ヌーヴェル(パリ第3)大学の語学コースは、再開してからもやっぱり面白くない。休みの間、このまま通い続けるか、それとも別の学校にするか、あるいは学校に行くこと自体をやめるか、ものすごく悩んだ。というのも、本当なら去年中に行われるはずだった後期の授業料の支払いが、学生デモの影響で年明けにずれ込んだため、迷う時間ができてしまったのだ。ただ、これは単に学校をどうするかというだけの問題ではなく、今後の道を決めることでもある。

今は学生ビザだから、どの学校に通うか、どれだけの授業時間数であるかは滞在許可証の更新に大きく関わってくる。でも、そもそももうこれ以上、学生として勉強を続けるのは無理だし、滞在を延長するかどうかも含めて今後の仕事や生活、やりたいこと、やらなければいけないことなどいろんな側面と可能性を考慮しなければならず、転校することであきらめなければいけないことも出てくるから、とても1カ月足らずの短い期間では決められなかった。毎日毎日、同じところをぐるぐる回った挙句、いろんな意味で可能性を残しておける一番無難な道を選択。それがつまり、ソルボンヌ・ヌーヴェルに通い続けることだった。
 

罫線2

 
今さらだけど、私が在籍しているDULFというのは、フランス語の資格を取るためのコースだったらしい。資格というのは、このブログでも何度か書いているDELFというフランス語の世界共通試験。そもそも、大学付属の語学学校に長期で留学するような生徒は、これからフランスの大学や大学院に入ろうとしている20代の若者がほとんどで、彼らにとってDELFの取得は必須となる。フランスの大学に入学するためにはDELFのレベルB2以上が条件になるからで、実際に私のクラスでも今まさにB2の受験申し込みをしている人が大半。

しかも、このソルボンヌ・ヌーヴェル大学はDELFの会場になっていて、なんと今、授業を担当している先生たちが審査官も務めている。それでも前期はまあ普通の語学学校の内容だったのだけど、今期は6人に増えた先生たちがみんなそれぞれのやり方でDELFに向けた授業をするので、もはや「フランス語の授業」というより、明らかに「DELF B2対策講座」。

前にも書いたと思うけれど、あらためて試験の内容について詳しく聞いたので、せっかくだからメモしておこう。DELF B2は「聞き取り」「読解」「作文」「口頭表現」の4項目で構成され、配点は各項目25点の合計100点。半分の50点以上で合格だけど、どれか1項目でも4点以下ならその時点で不合格になる。
 

DELF B2配点表

 
このうち、一般的に一番やっかいとされるのが口頭表現。課題文章を選び、テーマについて要約した後、面接官からの質問に答えるのだけど、その場でなんとなく始めるのではなく、まず一人で準備する時間が30分、その後、面接官と対峙しての要約が10分(この間、ずっと一人でしゃべり続けなければいけない)、そして質疑応答が10分程度(ほぼ必ず答えに詰まるような質問をされるらしい)という構成。

前半10分の一人語りは好きにしゃべっていいわけじゃなく、フランスには独特の論の立て方というものがあって、それに沿って話を展開しなければならない。そのために30分の準備時間があり、この辺りがやっかいと言われる要因。しかも、普段の会話のような言葉遣いはNGだし、文法が間違っていれば減点対象。だから、もちろん話好きな人の方が有利な部分はあるとはいえ、合っているかどうかなんて気にせずとにかくしゃべりまくる中米・南米人のようなやり方は通用しないし、逆にここで文法的に正しくしっかりしゃべれたとしても、日常会話がスラスラできることにはまったくならない。そして、これが一つ上のDALF C1になると、準備時間が1時間と酔狂度合いがさらにアップする(しかも辞書の持ち込みOK!もはや語学力のテストじゃない)。

DELF・DALFは取れれば一生有効だし、フランス語の資格として世界中どこでも通用するのだけど、内容はなかなか特殊で、作文も含めフランス式の考え方や論の展開方法を理解できているかどうかが重視されるテストでもある。こういう、語学力と直接関係のないテクニックを覚えなければいけないのが、特にこのテストへの受験意欲を起こさせない点であり、そういう意味では去年受けたTCFというマークシート式のテストの方が純粋にフランス語の実力を測るには適しているんじゃないかと思うけれど、TCFは有効期間が2年というのがネック。

確かにクラスでもDELF B2を受ける人がほとんどだし、実際に審査官を務める先生たちの授業だけあって内容は具体的で実践的なのだけど、私みたいにこれを目指していない人にはまったく必要ないし、退屈で……。今年最初の大きな決断としてこの学校を選んだのに、1週目からすでに後悔。案の定、同じクラスに日本人もいないし。新学期当初、廊下に全クラスの名簿が貼りだされていたから確認してみたのだけど、150人ほどの生徒のうち、日本人は私を含めてたったの5人!逆に多いのは中国人と韓国人で、どのクラスにもそれぞれ3人以上はいるようだった。これじゃあ校内でも日本人の姿を見かけないわけだ。ただ、その数少ない日本人の中にこのブログを読んでくれている人がいるらしく、ちょっと心強い。
 

罫線1

 
今もまったく興味のないDELFだけど、毎日授業に出ているだけで自然に対策できるのなら、受けておこうかなという気になってくる。今が人生で一番フランス語のレベルが高いときかもしれないし、何よりソルボンヌ・ヌーヴェルの学生だと受験料が安くなるのだ。パリでDELF B2を受けると3万円ぐらいするから、半額以下で受けられるのは大きなポイント。

でも、ここでまた一つ迷いが。先週、同じクラスの生徒が一つ上のDALF C1に合格したというのを聞いてしまったのだ。ちなみに、多くの人が目標にするDELF B2は仏検準1級に相当すると言われていて、これを取れれば中級修了というイメージ。ただ、仏検よりもかなり難しいと思うから、感覚としては準1級と1級の間、TOEICで言えば700~800点ぐらいかな。でも、以前はそのB2もまだまだ無理だと思っていたけれど、実際に合格している人を見ると失礼ながら想像よりは大したことなさそうな印象だから、これぐらいでも通るんだなと、ちょっと見方が変わった。

そして、さらにC1なんてまだあと2年は勉強しないとだめだろうと思っていたのが、自分とそれほど変わらなさそうなレベルの人が取ったと聞いてそんなに遠いものじゃなかったんだと分かり、じゃあもしかしたら受かるかも?と考えてしまったのだ。B2に合格するためにも一定の水準が求められるわけだし、必ず受かる自信なんてもちろんないのだけど、それでも正直、同じクラスの多くの生徒は自分よりもまだだいぶ文法や単語があやふやだから、彼女たちがB2に挑戦するのなら、私がC1を試してみても同じことかもしれない……?

DELFもDALFも、これからも必要になることはないだろうけど、せっかくだから受けておこうかな?どうせなら実力試しでC1にしようか?でも、やっぱり落ちたらショックだからB2にしておこうか?いやいや、半額なのだからいっそのこと両方受けようか?とはいえ、いらないものにお金と時間を使うのはもったいないし面倒くさい、どっちも受けなくていいかも。今年はまだまだ決めなければいけない重要なことがたくさんあるのだけど、目下のところは2番目の決断に向けて、またも頭を悩ませ中。

 

ツリー2018
年末に見かけた豪華なツリー

 

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覚えておきたいお店

年末、久しぶりにちゃんとしたレストランで食事をしたので記録しておこう。学校が休みになって以来、年末年始も関係なくずっと働いているので、たまには息抜き。
 

astair外観2

 
めったにないこの機会に選んだのは、2区にある「Astair」というお店。2区といえばパリに来たばかりのころ、屋根付きのレトロな商店街パッサージュがたくさんあることを発見したエリアだけど、このAstairもパリで最も古い歴史を持つというパッサージュ・デ・パノラマの中にある。久々に入ったパッサージュは懐かしいような独特の趣きがあって、やっぱりよかった。
 

パッサージュ・デ・パノラマ

 
前菜+メインのランチセットは20ユーロ。パリにしてはそこまで高くない方。飲み物もお水で済ませたし。スープは味がしっかりしていて、ちゃんと熱いのがうれしかった。メインはpoisson(魚)ということだったのだけど、なんとイカのリゾット。こういうお店で魚って言われたら、普通は白身魚を想像すると思うのだけど……。こちらはスープと逆にあっさりしていて、最後まで飽きずに食べられる上品な味。
 

 
本当は別のお店に行くつもりが、なんと年末のバカンスで閉まっていて急きょ別候補に変更したのだけど、想像以上によかった。対応がすごく丁寧なのだ。観光客も多いのかもしれないけれど、店員さんがみんな気さくで、サービスもちゃんとしている。料理だけでなく、こういう気持ちのいい雰囲気を味わえるところにはまた行きたくなる。

 
astair外観1
 Astair
19 passage des Panoramas, 75002 Paris
https://www.astair.paris/

 
せっかくだから、しばらく前に行ったカフェについても忘れないうちに書いておこう。2年ほど前にオープンしたという7区の「karamel」。その名の通り、キャラメルスイーツ専門のショップ。日本人にも有名らしいのだけど、まあ私はついて行っただけなので……。
 

karamel外観

 
インテリアがとってもスタイリッシュ。白を基調に、テーブルや棚はナチュラルな木材で統一。商品やパッケージの鮮やかな色がうまくポイントになり、シンプルすぎずモダンすぎずかわいらしすぎず、ちょうどいいバランス。写真を見直して気づいたけれどこのセンス、個人的に好みだなあ。こういう部屋に住みたい。
 

 
ケーキもキャラメルが使われているものを選んでみた(全部そうなのかもしれないけれど)。たまたま連れて来られただけとはいえ、実はキャラメルスイーツが大好きなのだ。甘さ控えめで日本人好みの味。ただ、少し量が多くて、最後はちょっとしんどかったのだけど。
 

 
持ち帰り用のキャラメルもパッケージがおしゃれで、確かに日本の雑誌なんかに取り上げられるのも分かる。いかにも日本人のイメージする“パリらしい”ショップだけど、実はこういう今どきのセンスを持ったお店、なかなかない。
 


 
karamel PARIS
67 rue Saint Dominique, 75007 Paris
https://karamelparis.com/

 
食べることにあまり興味がなく、このブログにもグルメ情報が圧倒的に不足しているのだけど、日本の方が安くておいしいし、種類も多い。パリはそこまでレベルが高くてなくても値段だけは立派だから、どうしてももったいないなと思ってしまうのだ。でも、この2軒は味も居心地もよかったし、また機会があれば行ってみよう。とはいえ今の季節はやっぱり、シンプルだけどおいしい鍋をこたつで食べたいなあ。

 

凱旋門2019
今年は半分見逃してしまった凱旋門のカウントダウン

語学学校の限界

12月に入ってすぐに大学キャンパスを占拠して始まった学生デモは、前学期最終日まで終了せず、バカンスのはずだった2日間が補講でつぶれてしまった。大学が使えなくなってから、5区内の複数の学校を借りていろんなところで授業をしたのはちょっと楽しかったけど。それにしても、個人的にすっかりおなじみの映画館近くの小さな通りにもソルボンヌ・ヌーヴェル(パリ第3)大学の校舎があったとは。
 

ヌーヴェル別キャンパス

 
ちなみにここで授業があった日、すぐ近くでもデモをやっていて思わず苦笑い。デモで追い出されて行った先でもデモとは、さすがフランス。
 

5区のデモ

 
さて、意外に長かった前学期の3カ月。始まってすぐに、この学校はあまりよくないのではという印象を持ったのだけど、そう感じていたのは私だけじゃなかった。直接聞いただけでも、同じクラスの4人の生徒が同じことを思っていたのだ。そのうち1人は途中で仕事が決まって学校を去り、2人は面白くないからと、後期は別の学校に行くそう。私は他に選択肢がないので引き続き登録の申し込みをし、順調に再登録が認められたのだけど、実はもうあんまり行きたくない。

9月の入学テストの結果、大学進学コースDUEFのB2を提案されたものの、いろいろ考えた末に通常の語学コースDULFを選び、空きがないため1つ下のB1に入ることになった。考えてみれば、そもそもここからよくなかったのだ。後期はB2に上がることになりそれ自体はよかったのだけど、クラス全員一緒にレベルアップするとのこと。先生によると、毎年何人かは留年する生徒がいるけれど、このクラスはみんな真面目で優秀だから落ちこぼれる人はいないそう。でも……。正直、レベルの差がかなりあるし、どう考えてもB2には達していないんじゃないかと思う人もけっこういる。そういう生徒たちが進級することに異議があるわけじゃないのだけど、さすがにこのクラスでは自分はだいぶできる方だなという実感があるので、複雑なのは確か。こんなに幅があるのに、一緒に学べるわけがない。
 

ソルボンヌ・ヌーヴェル大学
普段のソルボンヌ・ヌーヴェル大学

 
パリカト(パリ・カトリック学院)→ 少人数制の学校 → ソルボンヌ・ヌーヴェル大学といろんなタイプの語学学校を渡り歩いてきたけれど、最終的に今、思うのは、やっぱり少人数でないとダメだということ。でも、ただ少人数というだけでは不十分で、しっかりしたカリキュラムといい先生、そして一人ひとりのペースに合わせてくれることが必要なのだけど。私の場合、特に文法に関してはどこに行っても最初からずっと退屈な一方で、しゃべることはどうしても積極的にできないから、伸ばしたいポイントがぜんぜん伸びず、すでに理解できていることの復習ばかりで時間が過ぎていっているという感覚が未だに強い。現に、この3カ月担任だった先生からも「あなたはもう知りすぎている」と言われたし。だからそうやって考えていくと、この答えはもうずいぶん前から出ているのだけど、1対1のプライベートレッスンしかない。

この前学期はグループ発表も2つやったのだけど、それもきつかった。語学学校のグループ発表って何の意味があるんだろうか。結局、全体の構成を考えて主導できる人に負担がかかり(私はこの役になりがち)、あとの人は自分のパートをやるだけ。それも気の強い生徒が集まると、みんな自分の意見ばっかり主張してうまくまとまらずストレスがたまるし、実際、ケンカになりかけているグループもあった。個人的にはどちらのプレゼンもメンバーはよかったので今回はそのストレスはなかったけれど、本当にもう二度とやりたくない。でも、週1回しか来ない先生に対して生徒は25人もいるから、グループにせざるを得ないのだ。

そして何より、前にも書いたけれど、学校では普段のちょっとした会話、より日常生活に密着した単語や言い回しを習うことはできない。いくらフランス人が議論好きだといっても、例えば地球温暖化や女性の社会的地位なんかについて、そんなにいつもいつも授業と同じように語り合っていることはないはず。だから、いつ話題になるか分からないそれらの難しい単語や表現を覚えるよりは、普通に生活していてふと感じたことや気がついたことをもっとスムーズに言えるようになりたいと思うのだけど、それを叶えるにはもう、フランス人と一緒に暮らすしかない。マンツーマンレッスンならそういう部分もだいぶカバーできるとは思うけれど、それでも「話すための会話」ではやっぱり不十分。

もちろん、読み書きにしてもまだまだ目指すレベルにはほど遠いし、学ばなければいけないことはたくさんあるのだけど、学校という場所、特に大人数のクラスでこれ以上勉強しても、会話ができないという今の状況が変わることはない。最終的には、普段の生活の中でどれだけフランス語を使う機会をつくれるか。語学学校で学べることは限られている。
 

学食ランチ
学生デモの最中も学食はオープン

 
そんなことを考えている一方で、最近はフランス語にうんざりしてきて、日本のドラマばかり見て過ごす日々。100%理解できるって、なんてストレスフリーなの!今、気軽に連絡を取れるパリ在住の日本人もついに1人になってしまい、日本語の会話に飢えている。彼女とは年齢も近く、かなり深い話もできるようになってきたのだけど、まもなく帰国することを決めたそうで、その知らせを聞いたときは自分で思っていたよりもショックだった。

留学したら日本人は避けるという人もいるかもしれないけれど、私はそれはしんどいと分かっていたから、どちらかというと最初から積極的に日本人を求めていた。でも、仲良くなってもみんな短期か、長期でも先に帰ってしまうので、さすがになかなかつらい。ソルボンヌ・ヌーヴェルは中国人と韓国人の生徒はすごく多いけれど、日本人は本当に少なく、校内でも学食でもめったに見かけない。キャンパス中、どこへ行っても日本語が聞こえてきたパリカトとはかなり違い、やっぱり心細くなる。

後期は生徒の入れ替わりもあるし、多少は雰囲気が変わるだろうとはいえ、引き続き同じ語学コースDULFの同じ時間帯だから、そこまで大きな変化がないことは分かっている。しかも、5人いた前期の先生のうち4人がそのまま引き継ぐとのことで、これには本当にがっかりした。授業が面白くない最大の原因はこの先生たちなのだ!年も改まるしせっかくこうしてパリにいるのに、つまらないと思いながら週16時間も過ごすのはもったいない。せめて日本人の、できれば社会人経験のある生徒が同じクラスに入ってきてくれることが来年の一番の願いかも。

 

イルミネーション
例年通り控えめなイルミネーション

 

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