1年を振り返る

去年の秋にフランスに来て、それから今年の2月ぐらいまではすごく時間がゆっくり過ぎた。仕事に追われる毎日から、好きな街で好きなことをして過ごす毎日へ。新しい環境での刺激に満ちた生活は想像以上に鮮やかで、一瞬一瞬まで覚えているぐらいだったけれど、それから後はあっという間。春学期から授業が一気に難しくなり、ついていくのに必死だったことに加えて、ここでの生活がだんだん当たり前になり慣れてしまったことも大きい。だからといってつまらないとはまったく感じないのだけど、この1年は日本にいたときと同じぐらい早かったから、自分の順応性の高さをありがたく思うと同時に、ちょっと残念でもある。
 

パンテオン前
5区パンテオン前のシンプルなイルミネーション

 
この1年はとにかく、やりたいことばかりをして過ごした。キューバ、スペイン・リスボンへの旅行、パリ歩き(全20区完歩)、無料の第一日曜を利用しての美術館めぐり、そして相変わらずの映画館通い(130本以上鑑賞)と、この自由な時間とパリの街を使い尽くした。特に映画に関しては、学生時代以来となる多くの作品を当時の日本よりもはるかに安く見ることができて、本当に満足している。好きなだけ遊んだ結果、だんだん質素な生活にシフトしていかざるを得なくなってきているのだけど、お金をかけなくてもここにいられるだけで十分幸せだ。

肝心のフランス語はといえば、上達したのかどうかはやっぱり自分ではよく分からない。一つだけ自信を持って言えるのは、語彙が確実に増えた。これは最近、ようやく力を入れ出したことでもあるし、地道に続けていこうと思っている。ただ、もちろん語学というのは単語を覚えただけで習得できるわけではなく、読む・書く・聞く・話すをすべて並行して学ばないといけない。読み・書きは今の学校に変わってから比重が一気に減ったから、前のパリカト(パリ・カトリック学院)に通っていたときより落ちているかも・・・。でもその分、話す機会は増えたので、しゃべることはマシになってきていると信じたい。

何の勉強でもそうだと思うけれど、学校に行っているだけ、授業に出ているだけではあまり効果はなく、復習して理解して、自分の中で消化しなければ身につかない。留学していた期間より、日本で一人で勉強していた期間の方が伸びたという話も聞くし、どの学校でも、家でやっている人とそうでない人の差は客観的に見ても分かるぐらいはっきりと出る。パリカトの1年だけでかなりノートがたまってしまったので、今それを全部見直して必要な部分をまとめ直しているのだけど、最近初めて習ったと思っていたことをそのノートの山の中に発見することがよくあって、よけいに家での勉強の大切さを感じる。もうすでに教わっていたのに、やっぱりパリカト時代は授業についていくだけで大変だったから、吸収できなかったこともたくさんあったのだ。それに比べると今の学校の授業は楽なので、自分で勉強できる時間が増えたことは個人的にはよかったと思っている。

それにしても、どれだけ時間が経っても相変わらず苦手なのが聞き取り。これだけは正直、日本にいたころとほとんど変わっていないんじゃないかと思うぐらい進歩がない。前に、理解することを阻んでいる“壁”があるような気がすると書いたことがあったけれど、その感覚は今も続いていて、どれだけボキャブラリーが増えようが、音に慣れようが、その壁のこちら側でもがいているだけという感じがする。なんとか突き抜けて向こう側にいかないと、何をやろうがどれだけここにいようが変わらないだろうなということが分かるのだ。これは個人的なサイトもいろいろ見て勉強方法を模索しているのだけど、まだまだ大きな課題として向き合い続けなければいけないだろうと思うと憂鬱・・・。

 罫線

 
パリは毎日、雨が降ったりやんだりする灰色の空のまま、新しい年を迎えそう。個人的には、クリスマス前から続くイルミネーションにもブティックのディスプレイにもあまり興味がないから、ほぼ映画館に出かけるだけのバカンスだけど、それで満足。来年の課題はいくつかあるけれど、勉強も日々の生活も遊びも、悔いのないように全力でやることが第一。まあこれは、どこにいても誰にとっても同じかな。

 

通り
6区にて。街に出るとやっぱり楽しい

 

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冠詞を使いこなす

パリは相変わらず天気が悪い。寒いのはまあ仕方ないとして、こう毎日毎日どんよりした空が続いてばかりだと気分も沈む。去年はそこまで日差しの少なさを感じなかったように思うけれど、今は本当に太陽が恋しい。夜明けが遅いのも憂鬱で、朝8時でもまだ真っ暗だし、学校に向かう途中8時半ごろに朝焼けが見えたりする。冬至が過ぎたから少しはましになっていくだろうけど、なんとかこの暗い季節を乗り切らなければ。
 

花屋
学校近くのおしゃれな花屋さん

 
さて、フランスで勉強を始めて1年以上経つけれど、未だになかなか使いこなせないものの一つが冠詞。これはどれだけフランス語に慣れても、外国人にはものすごく難しい。と思っていたら、今週の授業でたまたまこの冠詞をやったので、あらためて復習。

冠詞というのは、英語でいうと「a/an」「the」に当たるもの。フランス語の冠詞には、不定冠詞・部分冠詞・定冠詞の3種類がある。

●不定冠詞:数えられる名詞の前に付く。英語の「a/an」に近い。
男性形単数:un
女性形単数:une
複数形:des

●部分冠詞:数えられない名詞の前に付く。英語の「somme」に近い。
男性形:du(後ろにくる名詞によっては「de l’」)
女性形:de la(後ろにくる名詞によっては「de l’」)

●定冠詞:特定の名詞を表す場合や、一般的・抽象的にその名詞全体を示す場合に使用。英語の「the」に相当。
男性形単数:le(後ろにくる名詞によっては「l’」)
女性形単数:la(後ろにくる名詞によっては「l’」)
複数形:les

これだけでもかなり複雑で、正しく使うのは本当に困難。英語についてはそこまで冠詞の使い分けを難しいと感じた記憶はないのだけど、フランス語はこれを間違えるとまったく意味が変わってしまうぐらい厳密で重要なのだ。例えば、

・Je bois un café.  私はコーヒーを1杯飲みます。
・Je bois du café.  私はコーヒーをいくらか飲みます。
・Je bois le café.   私はそのコーヒーを飲みます。

という具合。café=コーヒーは男性形で数えられない名詞(「●杯」という場合にはカウント可能)だから、まずはこれを頭に置いて当てはまる冠詞を選び、その中から文脈に応じて正しいものを使わなければいけない。ただし否定形にする場合には、文脈にもよるけれど

・Je ne bois pas de café.

と、また新たな冠詞「de」を使う必要がある。

 
数えられる女性名詞 pomme(りんご)なら、

・Je mange une pomme.   私はりんごを1つ食べます。
・Je mange des pommes.   私はりんごをいくつか食べます。
・Je mange la pomme.  私はそのりんごを食べます。

となる。これも否定形にするには

・Je ne mange pas de pomme.

と、基本的には「de」を使わなければいけない。

 
ここまででも相当混乱するけれど、この冠詞が他の単語と結び付いて別の新たな形になる場合もあるからさらにややこしい。これも例を挙げてみると

・Je vais au Japon.  私は日本へ行きます。

「Japon=日本」は男性形の固有名詞なので、本来は

・Je vais à le Japon.

となるはずなのだけど、その前にある前置詞「à=~へ」と「le」がくっついて「au」という別の単語になる。

・Je vais aux États-Unis.   私はアメリカへ行きます。

の場合も、本来は「les États-Unis」なのが、「à」と「les」が合体して「aux」に変わる。

 
細かいルールもやっかい。数えられる名詞の複数形に付く冠詞は「des」だから、

un homme 1人の男性 → ・des hommes 複数の男性

が本来の形なのだけど、これに形容詞が付くと

un bel homme 1人の素敵な男性 → ・de bels hommes 複数の素敵な男性

と、なぜか「de」に変えなければいけないのだ。

 罫線

 
まあこの冠詞だけでどこまでも語れそうなぐらい、本当に難解。フランス語は特殊な場合を除いてすべての名詞に冠詞を付ける必要があるので、男性形なのか女性形なのか、単数なのか複数なのか、数えられるのか数えられないのか、特定のものなのかそうでないのか、いろいろなことを考えて正しい一つを見つけなければいけない。書くときはまだましなのだけど、これを話しながら瞬時に判断するのは至難の業。名詞が出てこない文章というのはほぼないし、「躊躇」「妄想」といった抽象的なものにも男女の区別があるから、たとえ短い文章でも100%正しく話すのは相当難しいのだ。こういう部分が、英語との違いを感じるところ。

実は、日本で勉強していたころは冠詞にこんなに厳密なルールがあるなんて知らなくて、適当に使っていた。あるいは、むしろ使っていなかった。もちろん文法書には一通りの説明は書いてあるのだけど、これほど重要なものだとは認識しておらず、こっちに来て最初に通ったパリカト(パリ・カトリック学院)の授業、ちょうど1年ほど前の授業で初めて使い分けを習ったのだった。きっとすべての生徒が苦手とするポイントだから、これを克服するための課題があるんだろうけど、日本ではこれだけ抜き出して学んだことはなかったので衝撃。それ以来、なんて複雑なんだろうとずっと感じている。

ただ、日本にいたときはそれこそ冠詞なんて使わずに書いたりしゃべったりしていたのが、今ではとりあえず何かは付けることができるようになった。今の学校に通い始めてしばらく経ったころ、ある週の授業で先生が「このクラスの大半の人は冠詞抜きでしゃべっている」と言っていたから、やっぱりみんな同じなんだなと実感。それでもフランス人には通じるのだけど、彼らにとって冠詞がないというのはすごく気持ち悪いようで、たとえ間違っていても何か付けるように意識しなさいということだった。日本語でいうと「てにをは」がないような感じなんだろうか。まったく、知れば知るほど奥が深い言語で、なかなか前に進んでいる気がしない。冠詞がスラスラ出てくるようになる日はまだ遠そう・・・。

 

天気予報
天気予報もクリスマス仕様に

パリ20区歩き ―16区―

16区位置

 
今住んでいる場所からはセーヌ川を越えてエッフェル塔や凱旋門の向こう側(西側)に位置する16区は、未知の領域。でもここにも、歴史的に重要な建物や映画によく出てくる景色が広がっていた。隣接する7区や8区とともにシックといわれる16区、日本人駐在員も多く住むというその落ち着いた雰囲気を歩きながら確かめてみよう。
 

川沿いの景色
対岸の15区から眺めた16区の景色

 
まずは、セーヌ川に面した美術館パレ・ド・トーキョー。現代アートを展示していて、夜中の12時まで開館しているとのこと。なぜトーキョーなのかと不思議に思っていたのだけど、現在はニューヨーク通りと呼ばれている美術館前の通りが、かつてはトーキョー通りという名称だったためだそう。別に日本の作品ばかりを展示しているわけではなかった。ただ、個人的に現代美術には興味がないから、ここに入ることはたぶんない。

 パレ・ド・トーキョー

 
ここから少し歩いたところにあるのが、ギメ東洋美術館。この美術館はすごく面白い。常設展示では日本のほか中国やインドなどアジアのあらゆる国の美術品が鑑賞できて、作品数も膨大。一度入ったときは、広重の東海道五十三次や北斎の富嶽三十六景を中心とした「日本の風景」展が目的だったものの、第一日曜だったから全部無料で全館見てしまった。パリ滞在1年になろうとしていたのに、第一日曜を活用したのはこのときが初めて。もったいない。
 

 
ギメ美術館が立っているのがイエナ広場で、ここからは地下鉄のイエナ駅とイエナ通りにアクセスできるのだけど、このイエナという名称が前から気になっていた。なぜかというと、大好きな日本のファッションブランドIÉNAが、たぶんこの場所をイメージしているから。どんなところなのか、ぜひ見てみたい。
 

 
イエナ通りを歩いてみると、うん、なるほど。高級すぎず、庶民的すぎない、品のいい建物が続いている。自立して自由に、でもきちんと生活している30代ぐらいの女性が住んでいそう。まさにブランドのイメージにぴったり。こういう場所が似合うようになりたいもの。
 

 
さて、このイエナ通りを南へ下っていくと、気持ちのよいトロカデロ広場とそこに立つシャイヨー宮が目の前に。シャイヨー宮は1937年のパリ万博に合わせて建てられたとのことで、中には博物館が入っているそう。

 シャイヨー宮

 
でも、それよりもここは、雑誌などの写真撮影にも使われる絶景スポットとして人気。エッフェル塔を背景に、なんともパリらしい景色をカメラに捉えることができる。

 トロカデロ広場とエッフェル塔

 
観光客でにぎわうテラスを背に、広場を通って建物の一番端まで歩いていく。ここにあるのは、あの旧シネマテーク・フランセーズ。12区に移転する2005年までこの場所に存在していたものが、当時のままの姿で残っているのだ。今は閉鎖されている地下の入口は、フランソワ・トリュフォーの『夜霧の恋人たち』、ベルナルド・ベルトルッチの『ドリーマーズ』などで見覚えがあるし、特にヌーヴェル・ヴァーグの監督たちが毎日のように通っていたということも知っているから、とても感慨深い。ここにフランス映画史の一端が詰まっている。
 

 
セーヌ川に沿ってまた少し南に進むと次に現れるのは、この16区と向こう岸の15区とを結んでいるビル・アケム橋。道路の上をメトロが通る構造はエクトール・ギマールの設計によるもので、橋そのものはもちろん、ここから眺めるセーヌ川の景色も見事。映画にもよく登場するのだけど、これについてはまた15区の記事で。
 

 
それにしても、歩いていると周りには高級そうなアパートばかりで、瀟洒という形容がぴったり。静かで落ち着いているし、いかにもお金持ちが住んでいそうなかんじ。
 

 
続いてやって来たのは、これもギマールが設計したアール・ヌーヴォー建築のカステル・ベランジェ。細かい装飾がなかなか楽しい。直線的で灰色の建物が多いパリのところどころにあるこういう遊び心いっぱいの建築物、なんだか新鮮で不思議と街並みになじんでいる。ここの住人らしき人が何人か出入りしていたから、今も普通に住宅として使われているんだなあ。歴史的なものを受け継いで普段の暮らしに取り入れているのは、ヨーロッパの素敵なところ。
 

 
ここから南西に向かってしばらく歩き、ル・コルビュジエが設計したラ・ロッシュ邸にも寄り道。建物だけでなく、彼が描いた絵画やデザインした椅子なども見られるそうなので、ここはまた時間をつくってゆっくり訪れる予定。近くには、コルビュジエ自身が住んでいたアパートもあるらしいから、まだまだ見なければいけないところがいっぱいだ。

 ラ・ロッシュ邸

 
周辺にある家もジブリのアニメに出てきそうなレトロな雰囲気で、この小さなエリア一帯がおとぎ話の中みたい。
 

 
16区の西側にはブーローニュの森が広がっていて、想像通りゆったりとした時間が流れている。森の中には競馬場なんかもあって、日本とはやっぱりちょっと違うイメージ。
 

 
ただ、このブーローニュや12区の東側に広がるヴァンセンヌの森は暗くなると危険だと言われている。実際に歩いてみて、確かに夜は何かあっても誰にも分からないだろうなと実感。夜道の一人歩きを避けなければいけないのは、日本にいても同じだけど。

 ブーローニュの森6

 
時間をかけて森の中を散策し北側へ出ると、存在感たっぷりのルイ・ヴィトン財団美術館が現れる。3年前にオープンしたばかりだそうで、モダンな建物がそれだけで興味を引くのだけど、どんな作品が展示されているのかも気になるところ。

 ルイ・ヴィトン財団美術館

 
幻想的な森を抜けて、最後にマルモッタン美術館へ。閑静な住宅街にひっそりと佇む美術館は、モネの作品所蔵数が世界一だそう。以前、学校の聞き取りテストの問題で出てきて知ったのだけど、パリにはなんと150もの美術館があるらしい。毎月、第一日曜を使ったとしても、仮住まいの身で全部回るのは到底無理だ。行きたいところを厳選しなければいけないのだけど、その前に、どんな美術館がどこにあるのかを調べるだけでもかなり大変。

 マルモッタン美術館

 
 
パリを代表する圧倒的な景色に、バラエティー豊かな美術館や建築物、そして地元の人が休日を過ごすブーローニュの森と、いろいろな楽しみ方ができる16区。洗練された地区といわれるだけあって、どこを歩いても上品な雰囲気。中心部から離れていくにつれてだんだん庶民的なイメージになっていく他の区とは違い、自然だけれど粋な、多くの人が憧れる“パリらしい”暮らしを見ることができる。エッフェル塔とセーヌ川が近いということで、住む場所として個人的にもポイントが高いのだけど、身分不相応でちょっと居心地が悪いかも・・・。

 

アパート
こんなモダンなアパートも

 

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