フランス人の話し相手を探す

すでに真冬の寒さのパリ。前回の記事からすっかり季節が進んでしまったこの間、環境と心境の変化があっていよいよ本気でフランス人と話す機会をつくろうという気になり、少し前からエシャンジュ(言語交換)の相手を探し始めた。最近、聞き取りはだいぶ上達したなという自覚があるのだけど、やっぱり話すのだけはどうしても一人ではできない。何度も書いている通り、フランスに住んでいてもフランス人と会話することなんてほぼないのだ。
 

イルミネーション
毎年変わる近所のイルミネーション

 
こういう場合、今ならインターネットを使うのがもっともポピュラー。本当に便利な時代。早速、いくつかの日仏交流サイトに登録してみたのだけど、なかなか興味深い。フランスが好きな日本人も、日本が好きなフランス人もたくさんいて、お互いに言葉を教えてくれる相手や友達がほしいと思っている。日本語を勉強しているフランス人も、やっぱり話す機会がないという問題を抱えているのは同じなのだ。でも、そんなに大勢の“候補者”がいて簡単に連絡も取れるのに、実際にはなかなかうまくいかない。

原因はいろいろあって、まずはサイト自体の問題。こういう交流サイトってどんな会社が運営しているのか知らないけれど、作りが中途半端で使い勝手が悪い。何より、自分宛てにメッセージが届いても登録したメールアドレスに連絡が来ないっていうのが最大の難点。つまり、サイトにログインしないとメッセージが届いていることさえ分からないシステムになっているのだけど、登録だけしてそのままっていう人の方が多いから、よさそうな人だなと思ってメッセージを送っても、相手がログインしてくれない限り永遠に気づかれないのだ。普段、仕事で使うようなアプリだと、ログインしていなくてもメッセージを受信すれば登録したアドレスに自動的に連絡が来るようになっているから便利だし、それがスタンダードだと思っていたのだけど、それは日本製だからだろうか?それとも仕事仕様だからだろうか?でも、個人アドレスとつなげて、メッセージを見るために常にたくさんの人がサイトに来る仕組みにした方が、広告収入なんかも取れるんじゃないかと思うのだけど……。

このサイト自体の作りが改善されればそれだけでかなりマッチング率が高くなる気がするけれど、問題はもちろん他にもある。

お互いに「フランスが好き」「日本が好き」という人たちばかりが集まっているとはいえ、その「好き」の内容は様々。フランス人たちの自己紹介メッセージを読んでいて気づいたのは、漫画とアニメとビデオゲームが好きな人がものすごく多いということ。まあ、それはどちらかというと30代ぐらいまでの若い人がほとんどなのだけど、個人的にはこういった人たちとは2人で会っても話すことがないだろうなと思う。逆に、「フランス料理とお菓子にしか興味がない日本人ばかり」というフランス人側からの意見も聞いたことがある。共通の話題がなければ、日本人同士でも会話するのは難しい。

また、本気度も重要。すでにフランスに住んでいる日本人や日本に住んでいるフランス人は必死に話し相手を求めているはずで、一緒に真面目に勉強できる人を探していると思うのだけど、気軽に「日本に興味がある」「日本に旅行に行く」「アジアの文化が好き」という理由で登録している人も多いし、会って話すのではなく「メール交換したい」という人もいる。そしてもちろん、出会い目的の男どももたくさん。オーバー40の私にさえお誘いメッセージが届くぐらいだから、20代、30代の女の子なんか本当にうっとうしいぐらいの迷惑メッセージが来ているはず。まあ今の世の中、誰もがSNSを使っているからネット=危ないっていう図式は必ずしも成立しないだろうけど、控えめでやさしい大和なでしこが目当てだということが最初から分かっているメンズは無視するのが正解。逆に、こちらから若いフランス人の男の子に普通のメッセージを送っても無視されるだろうというのも悲しいのだけど。

それから、これは他の人はどうか分からないけれど、フランス人なのにフランス語が間違っている人はNG。仕事柄、日本語が書けない日本人が信じられないほどたくさんいることは知っているから当然フランスでも同じような状況なんだろうということは想像していたけれど、それにしてもひどい。私が添削できるぐらい初歩的なミスをしているフランス人の何と多いことか!いくら会話の相手を探しているとはいえ、文章が正しく書けない種類の人とは会おうという気にならない。これは相手が日本人であっても同じ。ただ、もちろん実際には書けなくても話が合う人もいるし、逆に文章は完璧なのに会ってみたらイマイチだなというパターンもある。いずれにしろこういう出会い方をするなら、書くことが得意な人が有利。
 

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こうやっていろいろ研究し、失敗を重ねるうちにコツが分かってきて、ついに理想の言語交換相手にめぐり会えた!こういうサイトって、出会いを求めていなくてもどうしても異性とのやり取りが中心になってしまうようなのだけど、彼女は私を見つけて選んでくれた。ほとんど同い年で、仕事も似ていて、趣味も同じ。おまけに、日本に8年住んで日本文学の研究をしていたというから、日本語もほぼペラペラ。まだ1回会っただけなのだけど、その初回からカフェで4時間しゃべっていた。といっても、さすがフランス人、日本語であっても彼女の方が私の3倍ぐらいは話しているのだけど……。

でも、言語交換って実際にはみんなどうやっているんだろうか。学校じゃないからテキストやテーマがあるわけでもなく、上にも書いたように趣味が合わなければ共通の話題を見つけるのも難しい。初心者同士だと意思疎通さえできないし、そもそも日本語教師やフランス語教師でもない限り母語の文法や理屈なんてみんな知らないから、きちんと書けもしないのに外国人に「教える」なんてできるわけないのだ。

私と彼女の場合、お互いに一通り話せるから「普通の会話」ができて理想的なのだけど、日本語で話している時間がもったいない。一応、フランス語と日本語で1時間半ずつと決めているのだけど別に時計を見て計っているわけじゃないし、彼女の方がよくしゃべるということもあって、せっかくフランス人と会話しているのに日本語なら意味がないなと思ってしまう。正直、その間ずっと相手の下手な日本語を聞いているのもしんどいし……。だから1回目のエシャンジュが終わった後、お互いにずっと相手の言語――私はフランス語、彼女は日本語――でしゃべらないかと提案したのだけど、それはやめようと拒否されてしまった。確かに、日本語で聞いてフランス語で話すというのがあまりよくないというのは分かるし、逆にそれぐらい言葉を大切にしている人でよかったなと思う部分もあるのだけど、もう私も彼女もお互いの言語の文法をきちんと理解していて混乱することはないし、2人とも話す機会がないからということで会っているので、その辺はもっと柔軟でもいいと思うのだけど……。
 

罫線2

 
ただ、どちらにしても最終的には人間関係になってくるので、相性が合わなければそこまで。単に「日本が好き」「フランスが好き」ぐらいの気持ちでは続かないし、趣味が合うからといって必ずしもうまくいくわけじゃない。本気で話す機会を求めるならお金を払って個人レッスンを受けるのが一番。実は、フランス人だけでなく日本人の友達を見つけようと、日本人コミュニティサイトで知り合った何人かに男女含めて会ってみたのだけど、みんな一回で終わってしまう。人間関係ってやっぱり、学校や職場で嫌でも毎日顔を合わせて同じ時間や空間を共有するからこそ自然にできていくのであって、会おうとしなければ会えない人と仲を深めるのは意外に難しい。そもそも、会う約束をするのが面倒だし。日本人同士でもそうなのに言葉が通じない相手となれば、よっぽどお互いにモチベーションやメリット、そしてまた会いたいという気持ちがなければ続かない。

そうなってくると、やっぱり恋愛関係にでもならなければ難しいのかなと考えがち。一般的にも恋人をつくるのが最良の言語上達方法だと言われているけれど、こちらに住んでいる何人かの日本人を観察してみた限りでは、仕事でフランス語を使う人が一番上手い。フランス人のパートナーがいる人たちに聞いてみたところ、最初は確かにお互い頑張るものの、だんだん情熱がなくなってきて、意思さえ通じればあとは適当になってしまうとのこと。共通言語(これはたいてい英語)があればなおのこと、簡単な方に流れてしまうらしい。それに比べて仕事なら嫌でもしゃべらなければいけないから、きっと自然に身についていくんじゃないかと想像できる。まあどちらにせよ、最低限のコミュニケーションしか取れない相手と付き合うなんてことがまず考えられないけれど。
 

罫線

 
フランスでは2週間ぐらい前からまた大規模なストが発生していて、メトロもバスも長距離列車も動いておらず大混乱している。連日、自転車や徒歩で通勤する人の姿や、クリスマスバカンスの里帰りに乗り合いタクシーを利用する人のインタビューがニュースで流れていて、にやにやしながら興味深く見ている。日本では絶対にありえない光景。ただ一方で、せっかくうまくいきそうなフランス人女性との2回目のエシャンジュがこのストの影響で中止になり、楽しみにしている年末恒例のオペラ座でのバレエ公演もキャンセルになりそうで、こうなってくると面白がってばかりもいられない。徒歩圏内の映画館は空いていてむしろ快適なのだけど、フランス人との出会いの幅を広げるためにも、パリ市内の移動ができる程度には回復してほしい……。

3回目の滞在許可証更新

またこの季節がめぐってきた。年に1度の滞在許可証更新。もう3回目なので戸惑うこともないのだけど、去年は引っ越し直前に郊外で更新したから、パリで手続きするのは初めて。

まずは、今持っている許可証の期限が切れる前にネットで警察署に更新手続きの予約。余裕を持って4カ月ほど前に予約したけれど、それでもすでにいっぱいで有効期限である9月3日には間に合わず、新しい許可証の申請まで2週間ほど期限切れの状態で過ごすことになってしまった。ただ、これはフランスでは普通のこと、予約さえしていればOK。そして、去年までの郊外での手続きと大きく違うのはこの予約日。郊外の場合、予約自体はネットでできるようになったものの、その日は申請書類を提出する日ではなく書類提出日を予約する日で、1回余計に役所に行かなければならなかった。でも、パリは都会。そんな意味不明の手間はいらず、予約日=書類提出日。

申請に必要な書類自体は郊外と変わらず、以下の原本とコピーを持参。毎回この更新時は大量にコピーが必要で、例のめまいによってかなり体調が悪い中、頑張ってコピー屋まで行ってきた。

●パスポート
個人情報ページ、日本で取得したビザが貼ってあるページ、入国スタンプが押されたページ。
●現在の滞在許可証
●出生証明書
日本の戸籍をフランス語に法廷翻訳したもの。7月の一時帰国時に日本で頼んで用意したけれど、結局「もう提出したでしょ」と返され、必要なかった……。高かったのに。
●3カ月分の家賃支払い証明書(大家さん手書きの領収書)
●この1年間に通っていたソルボンヌ・ヌーヴェル大学語学コースDULFの成績表
●これから通うソルボンヌ・ヌーヴェル大学語学コースDUEFの登録証明書
●滞在に必要な経済力があることを示す証明書
こちらで口座を持っている銀行ケスデパーニュのオンライン口座に毎月送付される利用明細(残高記載あり)を使用。
●滞在期間をカバーする健康保険証明書
これも一時帰国中に日本の海外旅行保険を延長。
●証明写真3枚

パリで初めての手続きなので、これらに加えて念のためアパートの賃貸契約書も持参。

学生の場合、手続きは14区のその名もCité Universitaireにある警察署で行う。ここは去年、住所変更の問い合わせで一度行ったことがあったので、場所は分かる。前に住んでいた郊外にも近く、お城のような外観をよく覚えている。
 

14区警察署1

 
ただ、予約がないと門前払いになるので、中に入るのはこの日が初めて。朝10時からの予約時間に合わせて少し早めに着いたけれど案の定、すでに長い列が。
 

14区警察署前の行列

 
前に並んでいた人に予約時間を聞いてみたところ、同じ10時。安心して、というかあきらめてそのまま列につき順番を待つものの、なかなか動かない。前回の記事で書いたように、この日は学校の授業の登録が12時からネットで行われることになっていて、時間が気になる。20分か30分ほど待ったところで、後ろに並んでいた何人かのおかげで実はこの列の右側が学生用の順番待ちラインであることに気づき、前方の入り口付近へ。その学生用の列にはほとんど人がおらず、すぐに入れたのだった。やっぱり初めての場所は勝手が分からない。

とはいえ、中に入ってもずっと順番待ち。まずは受付の前に並び、一人ずつ書類がそろっているかを確認される。そこで問題がなければ番号札とともに奥の部屋に通されるのだけど、ここがまたすごい人。どんなに早くても1時間はかかりそうな予感。今回初めてだったのは、受付で何か書類を渡され、待っている間に記入するよう言われたこと。名前や住所などの基本情報に加え、滞在中の費用の出どころやフランスでの勉強の目的を書く欄がある。郊外ではこんなのはなかったのだけど、パリだからだろうか。そして学生だけなのだろうか。でも、まだフランス語ができない人にとっては、その場でこれを書かなければいけないのはなかなかハードルが高い。

記入を終えてしばらく暇な時間を過ごし、あと2人ぐらいで自分の順番がくるというところで授業登録の12時が迫ってきたので、ドキドキしながらもその場でPCを開き、なんとか登録を終える。結局、呼ばれたのはその30分後ぐらいだった。

今回、心配だったのはやっぱり引っ越しのことで、1年前からパリにいるのに住所変更しておらず、今持っている滞在許可証の裏側には未だに郊外の住所が記載されていること。でも、それ自体については特に何も言われず、代わりに住所を確認するための書類がないという指摘。郊外では有効だった家賃支払い証明書が、ここではなぜか通用しない。念のために持参した賃貸契約書を出して見たけれど、これも効果なし。何といっても、今回は相手が悪かった。担当のお姉さんがまさにフランスの役所のイメージ通り、とっても意地悪。警察署のホームページには家賃の領収書も有効書類として記載されていることや、これまでにすでに2度、この書類で許可証を更新していることを主張して粘ったけれど「無理なものは無理」の一点張り。ここまで待ってようやく順番が回ってきたにもかかわらず、住宅保険か公共料金支払いの証明書を持って出直すよう指示されてしまった……。こういう話、フランス在住者のブログでは本当によく見かけるのだけど、自分が体験するのは初めて。
 

内側から見た14区警察署

 
いったん家に帰ってコピー屋に行き、また戻るのは考えただけでも面倒。でも、ここで授業登録のために持って来ていたPCが役に立った。運よくUSBもバッグに入っている。14区から直接、行きつけの5区のコピー屋に向かい、店前のベンチでネットに接続して一番簡単な住宅保険証明書をUSBに保存、それを印刷してもらい再び14区へ。また追加書類が必要だと言われたらどうしようと不安だったものの、今度は問題なく受け付けてもらえた。大家さんの手書きの領収書などではなく、住所が確認できる公的な書類でなければならないということらしい。未だにアナログな書類社会のフランスだから、もちろん紙で。

それにしてもこのお姉さん、意地悪でも仕事はちゃんとやるのかと思いきや、かなりいい加減。隣の同僚とのおしゃべりに気を取られて、私の書類を作成しながら別件で横に置いてあった別の国の人のパスポートの内容を入力してみたり、写真を2枚渡したのに1枚なくしたらしく「もう1枚ない?」と要求してきたり。「さっき渡しましたよね」とちらって言ってみると「ええ、そうね。でも私、写真を集めてるわけじゃないから。コレクションしてないから!」とすごい剣幕。なくしたんでしょ。だったら素直に認めろよ。

最後にやっと、新しい許可証ができるまでの仮許可証レセピセをもらえたのだけど、住所が間違っている。確かに住宅保険証明書には、自宅以外にも大家さんの住所とか会社の住所が書いてあってややこしいのだけど、指摘しても「あら、違うところ見ていたわ」と謝罪の一つもなし。その住所を確認するために、証明書をあらためて持って来させたんですよね?そしてPCで正しい住所を入力し直すと、こちらに画面を向けて「これで合ってる!?」となぜか怒りを含んだ質問。間違えたのはあなたなんですけど。なぜそんな上から?

結局、すべて終わって外へ出たのは午後3時半すぎ。めまいで倒れそうな中、自分でも本当によく耐えたと思う。でもその甲斐あって、なんと申請からわずか2週間後に新しい許可証ができたというSMSが送られてきた。さすがはパリ、態度は悪いけど仕事は(郊外に比べると)早い。確かに、レセピセの有効期間がこれまで6カ月だったのに今回は3カ月になっていたから、それなりに早くできるんだろうとは思っていたのだけど。
 

レセピセ

 
受け取りは簡単で、指定された金額のtimbreというものをネットで購入し、指定された書類を持って、指定された日時に4区の警察署に行くだけ。
 

 
待ち時間は長く、やっぱり1時間ぐらいかかったけれど、受け取り自体は3分ほど。ちゃんと1年間有効になっている。それに、今まではずっと最初に入国した9月3日が期限になっていたのだけど、今回は申請書類を提出した日が基準になっていて、来年9月16日までと少し長くなった。
 

滞在許可証

 
ところで、フランスの学生ビザには更新の上限回数や上限年数というものはないらしいのだけど、とにかく学校に通い続けなければならない。語学学校の場合は、指定された学校でないと認められない上に更新できる年数が制限されていて、一般的には短くて2年、長くても5年ぐらいが限界。言語の習得に時間がかかるのは、学校へ行っているふりをして働いているからじゃないかと疑われるらしい。また、いったん大学や専門学校に通った後、語学学校に「レベルを下げた」場合も更新は認められないと言われている。つまり、学生ビザで長期間フランスに住み続けるためには、最終的に大学などの高等教育機関に行かなければいけないのだ。

私はすでに語学学校4年目でそろそろ危ないのだけど、今は書類上「語学学校生」ではなく「大学生」だから、今のソルボンヌ・ヌーヴェルに登録している限り語学コースであと1年ぐらいは更新可能だろうけれど、もうこれ以上学校に通うことはできないので、おそらくこれが最後の更新になる。ビザの種類を変えて学生の身分を変更すれば学校に行かずに引き続き滞在することもできるのだけど、そこはどうするか考え中……。

2年目のソルボンヌ・ヌーヴェル

9月はフランスの新年度のスタート。長かった夏休みも終わり、また学校が始まった。前年度と同じく、ソルボンヌ・ヌーヴェル(パリ第3)大学に在籍している。ただし、コースはこれまでのDULFではなく、DUEFになった。

DULFとDUEFの違いは1年前、この学校を受験したときに書いたけれど、DULFは通常のフランス語コース、DUEFは外国人のための大学準備コース。なぜ変更したのかというと、今学期はDULF(通常の語学コース)に、該当するレベルのクラスがないから。前学期はDULFのB2クラスだったから次はC1なのだけど、9月から始まるDULFの前期には毎年C1クラスがない。というのも、C1は一番上なので、前期にこのクラスを設けてしまうと後期に進級するクラスがなくなってしまう、というのが学校側のよく分からない理屈。DULFもDUEFも1年コースなので前期と後期がセットになっているのだけど、DULF(通常の語学コース)の場合、後期用にそれぞれ前期の1つ上のレベルのクラスを用意しておかなければいけないらしい。同じ考え方で、DULFの後期は一番下のA1クラスがないとのこと。

でも、つまりそれは、前期にC1クラスに入るはずの生徒はDUEF(大学準備コース)に登録するしかないという理不尽なことになる。だから、他に選択肢もないまま自動的にDUEFになったのだけど、前年度からの在校生で成績もよかったから、テストもなくただ登録希望を出すだけでよかった。ちなみに、希望すれば後期はDULF(通常の語学コース)のC1クラスに移籍することができ、そのままDUEFに在籍することも可能。
 

ヌーヴェル裏側
裏側から見たソルボンヌ・ヌーヴェル

 
あらためて書いておくと、DUEFの正式名称はDiplôme Universitaire d’Etudes Francaises。「Etudes Francaises」というのは、そのまま日本語にすれば「フランスの勉強」という何とも曖昧なものなのだけど、要するにフランス語という言語とともに、フランスの文化や歴史などについて学ぶコース。フランスの新聞やテレビ番組などを題材にフランス語そのものを勉強する授業と、フランス語を道具にフランスの社会や文化について専門的に勉強する授業がある。

このDUEFはレベルB2以上が対象で、その中でも「1」と「2」に分かれており、今いるのは低い方のレベル「1」。でも実はこのDUEF1、去年の入学試験後に提案されたものと同じ……。1年前にすでに受講可能と判断されていたコースにあらためて登録するというのも正直、なかなか複雑ではある。しかも、DULF(通常の語学コース)と違い、DUEFについては同じレベルで前後期となっていて、後期に「2」に進級することは基本的にない。まあでも、前年度にDULFのちょっと下のレベルで基礎をさらに固めたことで、去年より自信がついたのも事実だけど。

DUEF1の場合、フランス語を学ぶ授業と専門的な内容を学ぶ授業のバランスはおよそ4:6。言語そのものよりもフランスについて学ぶ授業の方がちょっと多い。文法や聞き取り、作文など「フランス語」を学習するいくつかの授業は必修で、残りは興味に応じて好きな講義を選択する。ただ、去年も同じことを書いたのだけど、この選択科目というのが個人的にあまり魅力的じゃないのが残念。

授業は毎日、朝8時から夕方4時までの2時間×4コマで設定されていて、その中で必修科目と選択科目を組み合わせ、週8コマ(16時間)になるよう時間割を作る。それにしても、8時からって。さらに、12~14時っていうまさにお昼時の授業もあるし、面白そうな科目を選択しながらいい時間帯でうまく時間割を組むのは至難の業。前年度のDULF(通常の語学コース)は午前クラスと午後クラスにきっちり分かれていて、私は午後クラスだったので午前中は丸々空いていた。だから、昼までは仕事、昼からは授業とメリハリのついた時間の使い方ができたのだけど、こんな風に授業がバラバラしてくると、どうしても中途半端な空き時間ができてしまう。2時間空くのは嫌なのでなるべく固めようと思っても、10~14時で2コマ、12~16時で2コマだと、お昼を食べる時間がないし。結局は、朝がつらくてもなるべく8~12時で取るのがベスト。

そんな風に悩んで仮の時間割を組んだものの、人生は思い通りにはいかない。各クラスには人数制限があるから早い者勝ちで、その登録はインターネット。1分1秒の遅れが痛恨のダメージにつながる争奪戦が予想される中、なんとその登録日がよりによって滞在許可証更新の予約日にあたってしまった。この日は何が何でも警察署に行かなければいけない。本当はその前日の月曜が登録日だったのだけど、前の週の金曜にストでパリ中のメトロやバスが一日止まってしまい、おそらくその影響で登録日が延期されることになってしまったのだ。警察署に行けば時間がかかることは分かっていたから当日はPCを持参し、待合室でいつ呼ばれるかとドキドキしながら登録開始時間少し前にネットに接続。座れただけよかったものの、机もなく不安定な場所で、しかも8月終わりに突然起こっためまいの後遺症でかなり体調が悪い中、何とか無事に登録自体は完了した。でも、実際には指定時間より少し前からアクセスできたらしく、いくつかの授業はすでに定員いっぱいのため登録不可。結果、アンバランスで不本意な時間割に。
 

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しかし、そんなことにはお構いなく登録日の翌日から早速授業が始まったので、実際に出席してみた感想を少し。

まず、先生たちは悪くない。経験豊かな人が多く、準備も進行もきっちりしている。ただ、選択授業になると微妙で、そもそも内容自体が難しいからついていくのが大変な上に、外国人クラスであることを分かっていないのではないかと疑ってしまうくらい、多彩な語彙を織り交ぜながら早口で話す先生もいる。DUEFの授業とは別に、大教室でやっている映画学部の講義(生徒はほぼフランス人)にもこっそり出てみたのだけど、やっぱりまだまだフランス人と同じレベルで理解できる域には達していないなと実感。そして選択授業の場合、上でも書いたようにテーマ自体に興味がないものが多い。この選択授業はソルボンヌ・ヌーヴェルの設置学部に合わせて人文科学系や芸術系の分野が多いのだけど、個人的にはいまいち興味を引かれない。例えば「小説を読む」という講義は少し期待していたのだけど、何せヴォルテールだ。これも去年書いたけれど、映画学科は充実しているのにDUEFでは映画の選択授業が後期にしかないというのが本当に残念。

1クラスの人数は平均30~40人で、DULF(通常の語学コース)よりもさらに多い。生徒それぞれが独自の時間割を組んでいるから授業ごとにメンバーが替わり、友だちもできにくい。ただ、前年度に同じクラスだった子がちらほらいるので、それだけでもちょっと安心。全体的に生徒のレベルはさすがに高いけれど、この学校ではしゃべり好きな南米出身の生徒が大多数なのは相変わらずで、どの授業でもスペイン語やポルトガル語のなまりのあるフランス語に悩まされている。珍しくアメリカやヨーロッパの生徒も数人、そして日本人も何人か見かけたけれど、圧倒的に少数派。国籍別の割合は学校によってぜんぜん違う。

正直、こういう環境にはもううんざり。特にこの学校に通いだしてから、大人数での授業がますます苦手になってしまった。それに、人数が多いということは、必然的に私の大嫌いなグループワークが発生する確率も高くなる。グループワークって個人的には本当に意味がないと思うし、話してみると同じように感じている生徒もけっこういるのに、なぜ先生たちは分かってくれないんだろうか。もちろんテーマにもよるのだけど、生徒が40人いてもちゃんとみんなの注意を引きつけながら分かりやすく授業を進めてくれる先生もいるのに。要は、やり方の問題。勉強なんて個人レベルで進めないと時間の無駄になるだけということに気づいてほしい。
 

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今年度はまだ始まったばかりだけど、経験者として2つのコースを比べてみると……

DULF(通常の語学コース)
フランス語の文法があやふやな人、フランス語そのものを学びたい人、DELF・DALFなどの資格を目指している人向き。時間とクラスがきっちり決まっているため通いやすく、勉強しやすい一方で、授業にあまりバリエーションがないデメリットも。レベルによってはプロフェッショナルでない先生が混じっている。

DUEF(大学準備コース)
その名の通り(といっても、分かりやすいように勝手にそう訳しているだけだけど)、いずれ大学に進学するつもりの人や、文法の勉強に飽きた人、そして特に選択授業の分野に興味がある人にはぴったり。自由度が高い反面、毎日リズムがバラバラになるのが玉に瑕。各授業が完全に独立しているので必然的に宿題やプレゼンも多くなり、本気で勉強する意志と時間的余裕がなければ続けるのは難しいかも。

まあこの辺りは、それぞれの目的や環境、好みによって変わってくると思うけれど、総合的に考えて現時点ではどちらもそんなに悪くないと思う。
 

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それにしても、朝8時から授業なんて正気じゃないと思っていたけれど、行ってみれば当たり前というか、みんなちゃんと来ている。私の場合、毎朝8時スタートではないし、ラッキーなことに急げば徒歩5分だからそこまで早起きしなくても大丈夫なのだけど、もうすぐ日の出も遅くなる。冬のパリの朝8時なんてまだ真っ暗だ。そうなると、今はほとんどがきちんと出席している生徒たちも、だんだん減っていくんだろうな。

ちなみに、5区にあることが大きな魅力のこのソルボンヌ・ヌーヴェル大学、ここにあるのは今年度までで、来年9月からはちょっと離れた12区のNationに移転するそう。確かに、この校舎はものすごく古いし、新しいキャンパスに通えるのもそれはそれでメリットだけど、私も含め学生街カルチエ・ラタンにあるからこそ選んだ人も多いはず。それに、歩いて行けないのであれば来年は登録しないかなあ。

 

秋のパリ
深まりつつあるパリの秋