行動するフランス人

先週、いつものように学校へ行くつもりでいると一斉メールがきて、学生デモによりキャンパスが封鎖されたため授業は中止とのこと。予定では今週で前期が終了するはずなのだけど、すでに2日中止、1日は他校の教室を借りての授業となり、残りも1日はもう中止になることが決まっている。学生たちの要求は、外国人学生に対する大学登録料の引き上げ方針を撤回すること。これは数週間前にフィリップ首相が表明したもので、まだ本当に実施されるかどうかも決まっていないのだけど、まさに外国人学生である私たちのクラスでも反応は早く、授業でも話題になった。とはいえ、実際に抗議の声を上げているのはたぶんフランス人学生なのだけど。

学生たちのデモというのはフランスでは珍しくもないけれど、テスト期間でもある学期末のこのタイミングで始まったのは、11月中旬からフランス全土で行われている「黄色いベスト」運動に刺激を受けてのこと。個人的にデモやストには興味があったものの、まさかこんな形で自分に直接関係することになるとは思っていなかった。普通の語学学校ならあり得なかっただろうけど、これも大学生と同じキャンパスを使うソルボンヌ・ヌーヴェル(パリ第3)大学の語学コースだからこそ経験できたことだと考えると、期待外れだったとしてもこの学校を選んだかいはあったかも。それに、たまたま11月の終わりに「フランスのデモとスト」というテーマでプレゼンをやったばかりなので、より深く考えさせられる出来事になった。
 

大学に集まる学生たち
ソルボンヌ・ヌーヴェル大学に集まる学生たち

 
日本でも報道されていると思うけれど、そもそも黄色いベストデモの目的は、軽油やガソリンにかかる税の引き上げに反対すること。黄色いベストは、工事や路上清掃などを行う人が着用するもので、実際にこれを着て仕事をしている人を街でもよく見かけるのだけど、今回のデモでは日常的に車を使う人たち、つまり地方に住んでいる裕福ではない人たちの象徴のような意味で使われているそう。軽油やガソリンに対する増税の影響を直接受けるのは、公共交通機関の発達した都会に住む富裕層ではなく、買い物に行くにも車を使わなければいけない郊外の低所得者層だから、デモに参加しているのもそういった人たち。シャンゼリゼ大通りで大々的にやっているけれど、実はいろいろな地方の人が集まって来ているのであって、むしろ大気汚染に苦しむパリっ子はあまり興味がないとのこと。
 

凱旋門前のデモ隊1
France2のニュース番組より

 
軽油・ガソリン税の引き上げは環境に悪い車を規制する意味もあるので、車に乗らない私なんかも逆にやればいいんじゃないの?って思っていたけれど、確かに車が日常生活に欠かせない人たちにとっては死活問題。それに、まもなく電気代やガス代などの引き上げも予定されているらしく、そういうことも合わせて政権への不満がここで一気に噴き出し、今はフランス全土でマクロン大統領の辞任を求める声が高まっている、ということらしい。
 

凱旋門前のデモ隊2
France2のニュース番組より

 
問題なのは、店を壊したり車に火を付けたりする蛮行だけど、これをしているのはcasseurと呼ばれる人たちで、ほとんどのデモ参加者は加わっていないとのこと。「casser」は「壊す」という意味の動詞で、語尾に「eur」が付くと「~する人」という名詞になる。今回の騒動で初めて知った単語だけど、先生によるとどんなデモの際にもこういう騒ぎたいだけの「壊し屋」たちはいるんだそう。まあそれもパリの一部だけで、5区のうちの近所はこれまでのところ、いつもとまったく変わりなく静かなのだけど。
 

車を燃やすデモ隊
画像引用元:LA CROIX

 
それにしても、デモを受けて実際に政府が増税を延期したのには感心した。本当に国民の行動によって国が動くのだ。各メディアの世論調査でも、国民の60%以上は今回のデモを支持しているらしいから、政府としてはこれを無視することはできない。フランスはもちろん、革命の歴史を持ち、その精神を受け継いでいる国なのだけど、これまでにもこうやって様々な権利を勝ち取ってきたんだなと思うと、どうしても日本との違いを感じてしまう。
 

罫線

 
フランスでは、デモと同様にストというものもよく起こる。見た目は似ているけれど、ストは被雇用者が条件や待遇の改善を求めるもので、この国でしょっちゅう電車や飛行機が止まるのはもはや名物。今年も3カ月にわたる国鉄のストがあり、日本人でも影響を受けた人はけっこういるんじゃないかと思う。デモと違い、ストについてはフランス人の間でも不満が多いようなのだけど、それでもこの権利自体をなくすという方向には絶対ならないはず。

日本でもストの権利はあるし、たまに飛行機が止まったりしているけれど、有効に行使されているとはとても言い難い状況。違法な長時間労働にも休日出勤にも黙って従うのが大多数の日本人なのだ。私は日本で何度か転職し、数社経験したけれど、会社なんてどこも利益第一で、社員を大切にしているところなんてめったにない。もちろん、サービス残業や有休未消化も当たり前。それでも、ストという手段を使ってではないけれど、個人的にはその横暴に対して闘ってきたという自負がある。その結果、ほぼすべての会社とけんかして辞めることになったけれど、後悔はしていない。ただ、理不尽な待遇に文句を言いながらも、いざとなると同僚の誰も一緒に闘おうとしてくれなかったのは本当に残念だった。結局、自分一人で頑張っても会社=社会を変えるのは難しいことが分かり、それなら逃げる方が早いという考えに至ったのだ。

日本では、デモやストをやるのは一部の意識が高い人たちで、自分には関係ないとなんとなく考えている人が多いと思うけれど、状況を変えるためには何かしなければいけない。若いころ、こんなに生きづらく希望がない世の中になったのは大人のせいだと思っていた。大人が何もしなかったからこんな風になってしまった、だから自分は行動しよう、自分が格好悪いと思う大人にはならないようにしようと考えて動いてきた。関わりたくないから、やっても変わらないからといって何もしないのは一見、冷静に見えるけれど、そんなのぜんぜん格好よくない。デモやストが有効かどうかは分からないし、日本にはなじまないかもしれないけれど、何か行動しなければ、今の不満がそのまま次の世代にも引き継がれていってしまう。働き方で言えば、政府(お上)が動き始めてやっとちょっと何かが変わるかもっていうのは、なんか情けない。
 

罫線

 
フランスでは黄色いベスト運動に合わせて、各地で大学生だけでなく高校生もデモをやっている。まあこれは、大家さんによればただ騒ぎたいだけらしいけれど、大人に触発されて若者が動き出すっていうこの流れがさすがフランスだなと、なんだか興奮する。自分たちがより気持ちよく生きていくために社会を変えようとする行動力とエネルギーがこの国にはあり、その文化が若い世代に自然に受け継がれていることを実感する。今回のデモがどういう形で収束するのかも大いに気になるところだけど、とりあえず個人的には、授業がいつ再開されていつ終わるのかが知りたい……。

 

休憩した建物
別の学校で授業をした日に途中休憩した建物

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