いよいよ新しい部屋での生活がスタートした。初めてこの部屋で迎えた朝は快晴。大きな窓から入る日差しの気持ちいいこと!フランスでは9月は新年度の始まり。日本人としてはピンとこないけれど、考えてみればこちらで暮らし始めてちょうど丸2年。フランス人とともに、新たな気持ちで3年目のスタートを切ることができた。
日本では引っ越しというと引っ越し業者に頼むのが一般的だけど、フランスでは業者を使うのは少数派。友だちに手伝ってもらいながら自分たちでやるのが主流なのだ。というのも、こちらでは家具付きの部屋が多く、私が前に住んでいた学生用のマンションにも、引っ越してきたこのアパートにも、ベッドや机など最低限の家具が付いている。さらには調理器具や食器が用意されていることも多く、ここにも鍋やフライパンなど、前の人が置いていったものも含めて最初からあった。大きいものがないと引っ越しも楽だし、こちらの業者はおそらく日本みたいに何から何まで丁寧にやってくれるわけじゃなさそうだから、それなら自分たちでやってしまった方がいいやんってことなんだと思う。日本も家具付きならいいのに。
私も、初めは頼もうかどうか悩んだものの、業者を調べるのも面倒だし、1週間ぐらい早めに鍵をもらうことができたので、自分でやることにした。本当は、車を出してくれると言っていた人がいたのだけど、その人は夏前に完全帰国してしまい、もはや頼る人はいない。前に住んでいた学生用のマンションは家具以外何もなく、調理器具や布団なんかも全部自分で買ったから、それらを運ぶとなるとけっこうな量になる。それにしてもこの時期はやっぱり帰国ラッシュで、その学生用マンションのゴミ捨て場にもまだ使える棚やラックなんかがいっぱい置いてあった。なんで残していったらダメなんだろう。もったいない。
でも、荷物を運ぶ前にまずは新しい部屋の掃除。前にここに住んでいたのは日本人の女の子で、パティシエか何かのための勉強に来ていたらしく、食器棚にたくさんの料理グッズが残っている。ただ、作るのは好きでも掃除は苦手だったらしく、お皿やコップがあまりきれいに洗えていないし、キッチン周りの壁や棚の扉に油汚れがいっぱい!ここが一番大変で時間がかかった。使いかけの掃除用の洗剤も10種類ぐらいあり、用途がよく分からないものもあるのだけど、その割にはちょっとした隙間にほこりがたまっていたりしてイライラ。ま、私もずぼらで掃除なんて大嫌いだし、一人暮らしの部屋に両親が来るといつも笑われるぐらい汚かったのだけど、年齢や経験を重ねるにつれて掃除しなければならないポイントやコツが分かってくる。
すみずみまできれいにしたら、ようやく荷物運び。大きくて扱いにくいスーツケースにしたことを後悔していたけれど、今回は役に立った。前の部屋からこっちの部屋に来るまでにはメトロかトラムを2回乗り換えなければならず、階段も多いから、背負ったまま動けるバックパックになるべく重いものを入れて、スーツケースは持ち抱えられるようにしながら少しずつ荷物を移動。まずは今必要のない冬物や本などから運んだのだけど、やっぱり直前まで使うものも多く、なかなか終わらない。ほぼ毎日運んで、最終日は2往復して、合計8往復でようやく終了。疲れた。
こっちに必要なものがそろっているから、調理器具なんかはどうしようか悩んだのだけど、やっぱり捨てていくのももったいない。ただ、電子レンジは売ろうと思い、日本人向けのサイトに広告を出したものの、1件も連絡なし。大家さんが新しいレンジを持ってきてくれると言っていたのだけど、入居からちょっと後になるということだったので、結局これも持ってきた。1日目から使えないと困るし、まだきれいなのに手放したくない。スーツケースにちょうど入るぐらいの大きさだし、抱えても何とか大丈夫だった。でも布団だけはあきらめて、カバーを外して置いてきた。そんなに高いものじゃなかったとはいえ、まだ新品同様だったから心残りだけど、まあここにもたくさんあるし。
最後に、これまで住んでいた学生用の部屋をまあまあきれいに掃除して、管理人さんに確認してもらい完了。この人にはいろいろお世話になったのだけど、私がそんなに若くなく勉強だけしに来たんじゃないことをちゃんと見抜いていて、「日本で働いてお金ためて来たんでしょ?いいじゃない!何の仕事してたの?」とか「私もフランス映画好きなのよ。人間を描いているから。どんな映画が好きなの?」と、少しプライベートな話ができたのはうれしかった。真面目で親切できちんと仕事をする人だし、人間的にも信頼していたから、「パリでの新しい生活、楽しんでね」と送り出してくれたときは、うれしいと同時にちょっと寂しかった。
ところで、引っ越しにあたっては日本と同じようにいろいろと手続きが必要になる。今回したことは以下の通り。
●郵便物の転送手続き
日本では無料だけど、フランスでは有料。国内転送の場合、半年で28.5ユーロ。これも前のマンションの管理人さんが、郵便物が来たら連絡すると言ってくれたのだけど、まあそれも申し訳ないし、お金を払って転送してもらうことにした。ネットでできるので簡単。申し込んだ後、すぐに郵便局から手紙が届き、そこに書かれてあるパスコードを入力すると手続き完了。
●電気の契約
フランスでは水道は家賃に含まれている場合が多く、個別に契約する必要はない。そして前の部屋にも新しい部屋にもガスはないので、電気のみ。すでに自分の名前で契約済みだから、ネット上で「引っ越し」の手続き。これには新しい部屋の顧客番号が必要で、なんと大家さんも知らないということだったから手こずったのだけど、鍵をもらって部屋の中にあるメーター番号を確認し、住所とともに入力すると、無事に手続きすることができた。ただ、1週間後ぐらいに「新しい契約のためにできるだけ早く電話しろ」とメールがきたので、まだまだ苦手な電話を仕方なくかけたら「何のご用ですか?」とそっけない対応。でも、こちらが外国人と理解しながらちゃんと状況を調べてくれて、何かの予約を取ってくれた。たぶんメーターを確認するんだと思うけど、やってみたらできるもんだなとひと安心。この勢いのまま今度は、ネットで前の部屋の契約を解除しようとしたところ、問題発生。解約日の後に立会いの予約が必要と出てくる。いや、もうその日はいないし。よく分からないので、この解約は管理人さんにお願いすることにした。
あと、インターネットの契約があるのだけど、これは長くなりそうなのでまた別の記事で。とりあえず今は、スマホのテザリングでPCをつないでいる。
さて、新しい部屋に来て変わったこと。
まずは景色。しつこいけど、やっぱり景色が違うと気分がぜんぜん違う。窓は個人的にかなり重要な要素だし、外が広く見えると部屋も広く感じる。大阪の実家には窓がたくさんあるのだけど、うちの家族はどうも窓にとらわれていて、母親に写真を見せたときの反応も「窓が大きくていいね」だった。ちなみに、こちらでは日本のようにカーテンを二重に付ける習慣はないらしく、この部屋に付いているのもレースのカーテンのみ。前にあるアパートにもカーテンのない部屋が多く、中が丸見えのところもある。よくフランス映画で、外から見えているのに若い女性が着替えている場面があり、なんでカーテンを付けないんだろうと思っていたけれど、本当にないのだ。こちらの様子も見えているはずだから、着替えるときは気を付けないと。

それから、裸足での生活に戻った。前の部屋は床がタイルだったのでずっとスリッパを履いていたけれど、ここはフローリング。最初はむしろ裸足に違和感があったけれど、考えてみればこれが日本人にとっては普通のスタイルだった。部屋の中でも土足のままなんていう文化は、やっぱり受け入れられない。
料理も楽になった。前はキッチンが本当に狭かったから何をするにも大変だったし、食器を入れるための棚も小さく、お皿も立てておかなければいけなかったほど。だから、日本から持ってきた100均のプラスチックのお皿を2年間使い続けていた!人によっては信じられないだろうけど、買っても置くところがないし、どうしようもなかったのだ。でもそれはようやく捨てて、ここにあるちゃんとした食器を使っている。同じものを食べていても、豊かな気持ちになる。
一方で、浴室は狭くなったから、洗濯がなかなか大変。前の部屋にも今の部屋にも洗濯機はないのでずっと手洗いなのだけど、とはいえ今まで住んでいた人も苦労していたのは同じ。ちゃんと折りたたみ式の洗濯物干しがあり、これを便利に使わせてもらっている。実はパリは景観保護のため、ベランダに洗濯物を干すことが禁止されているので、部屋の中で干すしかない。私も、こっちに来るまであまり考えたことがなかったけれど、そういえばパリで洗濯物がはためいている景色って見たことがない。ここまでして美観を守るっていうその心意気、賛否両論あるだろうけど、だからこそパリはパリらしさを保っている。
そして一番大きく変わったことは、ここが自分の部屋、ここで暮らしているっていう感じがすること。自分でも意識していなかったけど、やっぱり前の部屋は便利だった反面、スリッパで生活していたことや景色を楽しめなかったこと、プラスチックの食器で食事していたことなんかがあって、何となく仮の部屋というか、ここは一時的にいるだけの場所だという気持ちがどこかにあったんだと思う。この部屋に来て初めて、住んでいるという感覚が得られた気がする。自分でみつけたということもあるかもしれない。まあここも仮の部屋であることは間違いないし、不便なこともあるのだけど、それでも本当に気に入っている。いるだけで気分がいい。遅くなったけれど、これで名実ともにパリ暮らしの始まり。ここにいる間に精一杯楽しまなければ!