7月の思い出

始まったと思ったら、あっという間に終わってしまった。パリカト(パリ・カトリック学院)での夏期講習はすごく充実していたけれど、やっぱり1カ月というのは速い。前の学校をしばらく前に辞めて勉強から離れていたこともあり、かなりモチベーションも高かったし、何より天気がいいから気分もいい。朝起きるのもつらくないし、やっぱり学校があると生活のリズムができて、毎日時間を無駄にすることなく過ごすことができた。お金があれば8月の講習も受けたかったのだけど、2カ月となるとしんどいだろうし、9月からまた長期の学期が続くことを考えれば、まあ物足りないぐらいがちょうどいいのかも。校舎内の廊下から見えるこんな景色ともお別れだ。
 

廊下から見える景色

 
終わってみると、このクラスは楽しかった。前に通っていた少人数制の学校とは違い、生徒は大学生中心だからフレッシュだし、みんな感じがよくて居心地もすごくよかった。先生も、最初は普通だなと思っていたけれど、結果的には当たり。パリカトとはいえ、夏期講習には別の学校の先生や新米の若い先生が応援で来たりしているから、運が悪ければ残念な先生になったりするのだけど、ちゃんとこの学校でよく見かける先生だったし、人柄も信頼できた。パリカトに戻ってきてあらためて分かったけれど、先生の質は私立の小さな学校と比べものにならない。だからこそ評判も高いのだろうし、結局いい先生が少ないことが前の学校を予定より早く終了する原因にもなってしまったから、やっぱり名前の通った学校というのはそれだけの理由がある。

でも、講習が始まったときにも感じたように、話すことに関しては去年に比べるとだいぶ自信を持てるようになった。最後の方は悩みながら通っていた少人数制の学校でも、ちゃんと身についたことはあったんだなと実感。今回の講習では、日本人の女性が1人同じクラスにいたのだけど、彼女は私に輪をかけて話すのが苦手なようで、自分からはもちろん、当てられても発言するのが本当にしんどそうだった。言葉を探すのに時間がかかる症状は私も含めて多くの日本人に当てはまるものだから、見ていてこちらもつらかったのだけど、ここで同情していてはいけない。どの学校でも授業では、いろいろなテーマについて「みんなの国ではどう?」と聞かれる。こういうとき、日本人が複数いると自分の発言のチャンスが減ることになり、私もこれまではずっと“負け組”だったけれど、今回はクラスメートの彼女に遠慮せずにしゃべるようにした。前に進むためには、日本にいるときのように気を使っていてはダメなのだ。
 

罫線1

 
今回も1人ずつプレゼンをしたのだけど、なかなか興味深い話題があった。アメリカ人の男の子が「外国語を勉強すること」について発表し、その中で「ヨーロッパの言語を母語とする人にとって、フランス語を学ぶのはアジア人より簡単」と言っていたのだ。これって私自身、こっちに来ていろいろな国籍の生徒たちと勉強する中で強く感じていたことだし、客観的に見て当たり前のことなのだけど、やっぱりアメリカ人やヨーロッパ人もそれを自覚しているんだなと分かったのは大きな発見だった。その前にも、個人的にブラジル人(母語はポルトガル語)の女の子と話していて「私たちの方がフランス語を学ぶのは簡単なのに、すごいね」と言われたことがあって、当人たちから直接そんな発言を聞いたことはなかったからちょっと驚いたのだ。

彼のプレゼンの後、先生が「今まで私が教えてきた中で、一番フランス語の習得が難しそうだなと感じるのはどこの国の人だと思う?」という質問をし、みんな「韓国人」とか「中国人」とか「中東の人」と答えていたのだけど、正解は「ベトナム人」。そう、ベトナムの生徒とは去年パリカトに通っていたときに何人か一緒だったのだけど、外国人のフランス語が特に聞き取れない私が今までに聞いた中でも、一番分かりにくい発音なのだ。少人数制の学校にはベトナムの生徒なんていないから、ここで出会った日本人はみんな「英語なまりのフランス語が聞き取れない」と言っていたけれど、ベトナム人の発音に比べればどれだけ分かりやすいか!先生によると以前、読み書きはそれこそC1やC2ぐらいの高いレベルなのに、話している内容はまったく理解できないベトナムの生徒がいたそう。実は、今回のクラスにもベトナム人の女の子がいて、先生は「あなたのことじゃないわよ」と言っていたけれど、私にとってはその子のフランス語も十分聞き取りにくく、申し訳ないけれど何をしゃべっているのかほぼ理解することができなかった。

確かに、ベトナム人の発音ってみんな同じなのだ。リズムがフランス語とはぜんぜん違うらしく、一つの単語を発音するだけでもすごく大変そうに見える。この話は以前にも書いたけれど、日本人は割とフランス語の発音が上手な人が多くて、もしかしたら日本人には英語よりも発音しやすいのかもしれないと思っている。私も発音に関してはいろいろな先生に褒められるし、自分でも悪くないとは思うのだけど、発音の項目っていうのはどのテストにもないのが残念。フランス語の発音は英語より重要で、微妙な違いが大きな意味の違いになったりするから、きちんとできていないと実際のコミュニケーションに支障があると思うのに、テストしないのはなんでなんだろうか。この項目があれば、もう少し点数アップを狙えるのに。

でも面白かったのは、「Comment allez-vous?」というフレーズを自分の国の言葉で何と言うか、一人ひとりが順番に発表していったときに、日本語の「元気?」という発音が一番簡単だったこと。ベトナムやインド、中国の生徒が言ったことを繰り返すのは、3回ぐらい聞かないと不可能に近い。そう考えると、日本語を勉強する外国人にとって読み書きは難しいとしても、音は“やさしい”のかも。
 

罫線2

 
最後には大きなテストがあり、またこれも3時間いっぱい使ってようやく終わるぐらいのボリュームだったのだけど、初めて読解が簡単だと思えたのはうれしかった。きちんと読み取れていないところもあったし、完璧に理解できたわけじゃないとはいえ、これまではいつも、一度読んでもなんとなくぼんやりとしか分からなかったのに、今回は読みながらかなり具体的に状況をイメージできた。まあ問題文のレベル自体が低かったのかもしれないけれど。でも聞き取りは今までと同じく、3回音声を流してもらってもほぼ分からなかった。もうこれは仕方ない。

ところで、去年の講習で同じB2-1のクラスにいた韓国の女の子が、その後1年間、専門の勉強のためにこちらの大学に通ったにもかかわらず、今年もまた1つ上のB2-2で講習を受けていた。これを聞いて、語学というのはなかなか簡単に上達するものじゃないんだなとあらためて認識。実際にその子と少ししゃべったけれど、初歩的な文法も間違っていたし。

それにしても、20度にも達しなかった日が多かった去年の夏と違い、今年は本当に暑い。もちろん、日本に比べれば暑いなんてほどでもないけれど、それでもパリで37度を体験するとは思っていなかった。フランスには暖房は必ずあるけれど、冷房はないのが普通で、家も学校も常温。地下鉄やバスはむっとしていて不快そのもの。さすがに扇風機を買ったのだけど、まあ蒸し暑さに慣れている大阪人にはこの小さな卓上タイプで十分。
 

卓上扇風機

 
それでもフランス人は暑さに弱く、講習最終週の1日、先生がもう教室内にいるのは耐えられないというので、みんなで学校近くの小さな公園まで歩いて木陰で授業したのは楽しかった。こういうところが自由だなあ。
 

 
去年も7月は輝いていたけれど、今年もまぶしくきらめくような1カ月だった。合間に14日の革命記念日とまさかのワールドカップ優勝も挟み、テレビで見ていただけとはいえいつもとは違う雰囲気も楽しめたし、きっとこの先も強く印象に残っているであろう思い出の日々がまた増えたのはうれしい。
 

毎年、野外コンサートや花火などがある革命記念日
 

ワールドカップ決勝戦直後とフランス代表凱旋時の様子

 

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