パリの映画館めぐり⑥

観光客の多いセーヌ川沿いからほんの少し離れた静かな場所に佇む昔ながらの映画館。6区のクリスティーナ通りにあるその名も「クリスティーナ21」は、お気に入りの名画座の一つ。ミニシアターが集まる5区の学生街カルチエ・ラタンからはちょっと距離があり、普段は年配の人が圧倒的に多いのだけど、休みの日には若い人も割と来ている。写真は冬に撮ったものなので、だいぶ寂れたかんじが出ているけれど。

 外観

 
例によってチケットは上映直前にしか売ってくれないので、年末に早く着きすぎたときは0度以下の気温の中、その辺を歩いて時間をつぶさなければいけなかった。今の季節なら、壁にたくさん貼ってある上映作品のフライヤーを見ながら待つのも楽しい。
 

 
上映室は1階に一つと地下に一つ。特に地下の方はかなり広くて、スクリーンも大きい。この上映室にあるトイレはすごく小さいのだけど、清潔でおしゃれ。ちゃんと男女に分かれているし。そしてプログラムはといえば、ここも本当にバラエティー豊かなラインアップ。特に、誰もが知る名作をかけていることが多く『イージー・ライダー』『フレンチ・コネクション』『第三の男』『女の都』『女は女である』『カサブランカ』『自転車泥棒』などなど、映画史に残る数々の作品を初めて、またはあらためて見ることができた。映画館めぐり③の「ル・デスペラード(現在は「エコール21」に改称)と姉妹館のようなのだけど、上映作品はぜんぜん違う。

映画に大きな関心を持ち続けているフランスだけれど、この背景には独自のシステムがある。以前にも少し書いた通り、国が映画産業のために一定の予算を出しているのだ。この仕組みについては春学期の映画の授業で詳しく学ぶことができて、大きな収穫の一つになった。

資金助成を行っているのは、1946年に設立されたフランス国立映画センターCNCという文化省管轄の組織。助成の原資は映画の入場料やテレビ局の売り上げなどで、映画入場料には、CNCに拠出される付加価値税TSAが含まれている。つまり、映画館へ行けば自動的にフランス映画界に資金面で貢献することになるのだけど、私のように毎月一定額を払うと見放題になるカードを持っている人も多いから、この辺りがどういう仕組みになっているのかはよく分からない。支援は映画製作者に対してだけでなく、興行や映画普及といった取り組みに対しても行われるので、常に商業的でない映画が生まれ続け、多様な作品が上映され続け、観客が興味を持ち続けられる環境が整っているといえる。こういうシステムは日本にはもちろん、他の国にもなかなかない。

それにしても、戦後間もない時期に映画を文化として保護しようとする意識があったのはさすが。日本もこの時期には映画大国だったはずなのに、今は何とも残念な状況になってしまっている。とはいえ、最近は若い人が映画館に行かなくなっているのはフランスも同じ。パリにいて映画館に通わないなんてもったいなすぎる。外国人であることは気にせずどんどんフランス映画界に貢献して、この文化を絶やさないようにしなければ。

 
参考:FIPA JAPAN「フランス国立映画センターCNC『振興政策の核となる自動助成』映画産業の基盤を支える」

 

通り
近くの通りにはパリらしい風情が

 

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