前回、新しい部屋がみつかったことを書いたけれど、もう本当に大変だった。パリの住宅事情がよくないということは聞いてはいたものの、想像以上。まさかこんなに時間がかかるとは。今住んでいる部屋は日本で留学業者が契約してくれたから、何の苦労もなかったのに。
そもそも、なんとなく探し始めたのは約1年前の去年9月。最初は要領が分からず様子見だったけれど、年末辺りから本気になり、今年に入ってからは毎月内覧に行って9件目でようやく決まった。長かった。でも、探しているうちにパリの部屋事情や相場がだんだん分かってきて、最終的にかなりいい条件で契約できたと思う。部屋の写真はまだ撮っていないので、今回は外観のみ。その昔にはホテルだったそう。
パリで部屋を探す場合、ざっくりと次のような方法がある。
①日系不動産屋に相談する
②日本人向けのサイトやフリーペーパーで探す
③フランス人向けのサイトで探す
このうち一番簡単なのは①。パリの物件を扱っている日系不動産屋はいくつかあって、サイトも充実しているし、それなりにいい部屋がみつかる。日本人のニーズに合わせて、パリでは少ないエレベーター付きやバスタブ付きの物件を紹介してくれることも多いよう。日本からも契約できるので、渡仏前にとりあえず住む場所を決めておきたいという場合にも便利。ただ、もちろんそれなりの手数料を取られるし、家賃も若干高めの設定。
②は大家さんが直接広告を出しているから手数料がいらないし、その大家さんも日本人の場合が多く日本語でやり取りできるので楽。また、日本人はきれいに使ってくれるからと、わざわざ日本人限定で貸しているフランス人の大家さんもいて、そういう部屋の広告もここでみつけることができる。
③になるとぐっと数が増える。当然フランス語だけど、日本人向けのものよりも広くて安い物件が多く、条件に合う部屋もみつかりやすい。
私は最初、主に②で探していたのだけど、やっぱり数が少ない。そもそも少ない中から希望や条件に合うものとなるとさらに絞られて、内覧したいと思う物件さえなかなかみつからない状態だった。そこでしばらく経ってから③も取り入れたのだけど、途中で気がついた。日本人学生がフランスでフランス人から部屋を借りるには、保証人が必要なのだ。この話はだいぶ前からなんとなく知ってはいたのだけど、いざ自分で探すことになって初めて理解。考えてみたら当たり前だった。日本でも仕事をしていたって部屋を借りるのは大変なのに、働いていない外国人がここでそう簡単に借りられるわけがない。
この保証人についてはややこしいのでまた次回にするとして、最終的に普通のフランス人から借りるのは難しそうだと判断し③の方法はあきらめた。いくつかメールも送ってみたのだけど、まったく返信なし。どうも電話の方が好まれるようで、メールもできればフランス人に添削してもらった方がいいとのこと。というのも、パリでの物件探しは常にライバルとの戦いなのだ。
古い街並みが残り、築100年以上という建物も珍しくないパリ。この歴史ある建物がパリの魅力の一つなのだけど、同時に部屋探しを難しくしている要因でもある。景観条例があって簡単に建物を壊したり建てたりできないので、需要は多いのに供給は追いつかず、慢性的に部屋不足。どの物件も取り合いで、ある日本人の大家さんは、フランス人向けに広告を出したら30人は並ぶと言っていた。広告が出たら即電話しないと、必ず誰かに取られている。応募が殺到するのに、外国人からのつたないメールなんかに応えてくれるわけがない。
実際、日本人向けのサイトに絞って本気で探し始めてからその厳しさを痛感した。内覧した部屋のほとんどは自分から断ったのだけど、気に入ったものは必ず自分より早い時期に入居したいという人がいて、大家さんに選んでもらえなかった。私の場合は、今住んでいるところと家賃を二重に払いたくないから、内覧後すぐには入居できないと伝えていたのだけど、なぜかいつも、すぐにでも入りたいという人がいるのだ。普通は退去の1カ月前に通知しないといけないはずなのに、そういう人ってどういうところに住んでいるんだろうと思うのだけど、大家さんにしたらやっぱり少しでも早く入ってほしいだろうから、そういう人がいるともうどうしようもない。無駄に家賃を払ってでも押さえておかないと、パリでは永遠に部屋はみつからない。
とはいえ、気に入る部屋ってなかなかないもの。日本、特に東京の部屋は高くて狭いというイメージがあるけれど、実はパリの方がはるかにひどい。今どき東京でも見ないような9平米なんて部屋が普通に存在するのだ。格安というわけでもなく、日本の感覚で5~6万円ぐらい出してもそのサイズ。今住んでいる郊外の部屋も18平米とぜんぜん広くはないのだけど、パリに比べればマシ。今と同じ家賃で探そうとすれば、13平米ぐらいが相場になる。ただ、いろいろな部屋を見てみて、やっぱり最低でも15平米はほしいなと思った。9平米なんて、本当に何もできない。日本で借りていた部屋は30平米以上あったから、どうしたって窮屈に感じてしまう。
また、古い建物だから必ずどこかに不備がある。これは部屋探しを始めるまで知らなかったのだけど、家賃7~8万円台でもなんとトイレがない部屋がものすごく多いのだ。廊下にあって、何人かと共同で使うシステム。昔は生活スタイルも違ったし、その造り自体は分かるのだけど、実際住んでみたら不便だろうなあ。やっぱり新しくトイレを取り付けるのって大変なんだろうか……。他には、クローゼットがなかったり、キッチンに流し(水道)がなかったり、部屋自体はいいのに隣の建物が工事中でうるさかったり。一番驚いたのは、窓がない部屋!どうも1階の端の方にむりやり作ったらしく、中は空気がこもってむわっとしていた。見に行ったときは日本人の大学生の女の子が住んでいたけれど、よくこんなところに住めるなと思って唖然。トイレもだけど、窓がないなんて絶対に耐えられない。
ちなみに、パリの建物の一番高い位置に並ぶ屋根裏部屋、これらの部屋には昔、女中さんが住んでいて女中部屋と呼ばれていたのだけど、今はこういう屋根裏部屋を学生用に貸していることが多く、ものすごく狭い部屋は大体これ。パリらしいといえばまあそうだし、眺めはいいと思うけど、中の写真を見ると暗いものが多く日当たりが悪そう……。
そんなこんなでいろいろ見ていろいろ考えて、もう何がいいのか分からなくなり、いったん探すのをやめた後にみつかったのが新しく入る部屋。日本語フリーペーパーのネット版でみつけたのだけど、連絡してから内覧までに1カ月ぐらい待たなければいけなかったことが幸いしたのかも。部屋を探している人のほとんどってすぐに決めたいようだし、実際その1カ月の間に別の部屋が決まって内覧をやめた人もいると思う。他にも希望者が何人かいたようだけど、なぜか選んでもらうことができた。今まで見た中で一番よかったし、ピンときた部屋だったのだ。ここに住むためにこれまでの苦労があったのかもと思えるほど。大家さんはフランス人の女性で、これまでにも日本人に貸しているらしく、保証人もいらないし、入居も1カ月後でいいとのこと。
場所は、なじみの映画館も多い学生街5区。日本人に人気の15区、16区もいいのだけど、ひねくれた性格だからそう聞くとなんとなく避けたくなるし、実際にいろいろ見てみて、やっぱり一番好きで一番しっくりくるのが5区だなと思っていたから、その感覚を大事にして探してよかった。5区の物件って日本人向けにはなかなかないのだ。周辺の雰囲気もよく、もし9月からソルボンヌ・ヌーヴェル大学に通えることになれば、なんと徒歩10分。場所に関してはパーフェクト。今は郊外でパリらしさがまったくないのだけど、今度は窓から見える景色もパリだし!

それと、中央暖房なのもうれしい。ヨーロッパでは一般的な暖房方法で、お湯を循環させて建物全体を暖める。これだと冬でも半袖でいいぐらい暖かいらしく、なおかつ暖房代が家賃に含まれているから安上がり。今は個別暖房で部屋にストーブがあるのだけど、ぜんぜん暖まらなくて冬が本当につらいので、中央暖房に憧れていた。どれぐらい暖かいのか、冬が楽しみでもある。
ところで、日本のワンルームはフランス語では「ステュディオ」といい、私が今住んでいるのも次に住むのもこのステュディオ。「アパルトマン」というのは2部屋以上の物件を指す。ややこしいのは、日本では建物自体をアパートとかマンションというのに対して、フランス語のアパルトマンは個々の物件を指すこと。3LDKの部屋ならその3LDKがアパルトマンで、「私のアパルトマン」といえば「私の部屋」という意味になる。じゃあ建物のことはなんと呼ぶかというと「建物」。日本とは逆なので、私もいまだに混乱して間違ってしまうことがある。
いよいよもうすぐ、新しいステュディオでの生活が始まる。ラッキーなことに、面積は今の部屋と同じで家賃もほぼ変わらない。洗面所は狭くなるけれど、代わりにキッチンが広くなる。もちろんトイレも付いている。ただ、痛いのはインターネットがないこと。今まではフリーwifi使い放題だったから、これはなかなか大変。この話は長くなるのでまた。