期待外れの授業

パリは9月になっていったんかなり気温が下がり、あわてて毛布まで出したのに、ここ最近また夏のような暑さが戻ってきた。10月に25度以上まで上がるとは、さすがに想定外。もちろん、これから始まる長い冬を思えば、少しでも気温が高い時期が続いてくれる方がうれしいのだけど。

さて、ソルボンヌ・ヌーヴェル大学フランス語コースDULFでの授業が始まって早くも1カ月。クラスの雰囲気にも生活のリズムにも慣れたけど、なんとなく悶々とした日々が続いている。期待していたほど面白くないのだ。
 

校舎内から見える景色
校舎内から見える景色

 
いろいろあって希望のB2レベルのクラスには入れず、とりあえずB1で登録し、結局そのまま今もB1にいる。最初の1週間の印象ではそこまで簡単すぎるなという感じではなかったからあえて申し出なかったのだけど、この学校はやっぱり人数制限が厳しく、今まで通っていた他の学校のようにあまり簡単にクラス替えができないようなのだ。特に、無条件で上のレベルにいくことは認められないらしく、先生も「このクラスが難しすぎる人は相談してね」と言っただけだった。そして初日からこの1カ月間、出ていった人も入ってきた人もゼロ。これは意外。

メンバーは定員いっぱいの25人で、バラエティー豊かだったパリカト(パリ・カトリック学院)よりもさらに多国籍。中国、韓国、ベトナムだけで3分の1を占めているのはまあ分かるのだけど、セネガルやルワンダ、モンテネグロといった、普段どういう生活を送っているのか想像もつかない国の生徒たちもいて、彼らがどんな価値観を持っているのか観察するのはなかなか興味深い。まあ、授業中の様子を見る限り特に自分たちと変わったところはないのだけど。授業料が安い分、より多国籍の生徒たちが集まるのだと思うけれど、彼らも母国ではそれなりに裕福な層なんだろうな。ちなみに、日本人は私一人。もちろん日本人はこの学校でも珍しくないみたいだけど、パリカトやソルボンヌ文明講座といった人気の語学学校に比べると少数派のよう。
 

図書館
キャンパス内にある大学図書館

 
ソルボンヌ・ヌーヴェル大学の授業が他の学校と違うところは、毎日いろいろな先生がやって来ること。今までは、基本的にずっと同じ先生が担当するっていうパターンだったけど、この学校では1つのクラスに先生が複数いて授業内容も様々。どんな先生がどんな授業をするかというと、

●担任の先生(週6時間)
大学や大学院でも教えている超ベテラン。文法や読解、グループワークなど授業内容は他の語学学校と同じだけど、平等に発言する機会をつくってくれて内容も面白い。この人の授業は好き。

●他の語学学校でも教えているフランス語専門の先生(週4時間)
きれいなお母さんという感じのやさしい先生なのだけど、授業は文法的な内容が多く退屈。すでに知っていることが多いのも原因かも。

●DELF・DALFのスペシャリスト(週2時間)
以前にも書いたことがあるDELF・DALFは、英語でいうTOEIC・TOEFLのようなフランス語の世界共通テスト。この先、大学に進学したりフランスで就職したりするためにこのテストを目指す生徒も多いから、元々対策授業が組み込まれている。先生は悪くないのだけど、何しろテストのための授業だから面白くないし、個人的には今のところ受験するつもりはないので微妙。

●現役の舞台役者(週2時間)
週末に何をしていたか「あ~」とか「え~」とかを挟まずに一息で言う練習をしたり、よくあるパリでのシチュエーションで即興芝居をやったりと、必ずしゃべる機会があるのでいい練習になる。ただ、これから実際に芝居を見に行ってプレゼンしなければいけないので、芝居に興味のない人間にとってはなかなか苦しい。

●現役の作家(週2時間)
最初は面白そうだなと期待したのだけど、始まってみるとかなり残念な内容だった。この人の人柄もいたって普通で、特に変わったことをしてくれるわけではなく、授業の進め方もマズイ。特に、小説の一部が書かれたプリントを渡して「各自で単語を調べて読んでみて」と言われたときは驚いた。単語も含めてみんなで一緒に読みながら解説するのがあなたの仕事じゃないの?生徒に勝手に読ませている間、自分はずっとスマホを見ていたのにも呆れた。

こんな感じで、期待外れだった理由はいろいろあるけれど、簡単に言えば「先生があまりよくない」ことと「全体的に内容が簡単すぎる」ことに集約される。

入学試験の後、最初に提案されたDUEFという別のコースではすべての授業がこの学校の先生だったから、それを考えると残念。やっぱり先生の質はパリカトの方が断然上だ。レベルについては、文法はもちろん、論文の書き方とか、プレゼンのときの言葉づかいとか、すでに知っていることがあまりにも多い。とはいえB2を目指すクラスだし、DELF対策の授業は確かに難しいのだけど、私のようにB2に近い生徒というのはむしろ少数派で、1つ下のA2に限りなく近く、私がフランスに来た当初よりもまだしゃべれないような人も何人かいる。
 

図書館の中
図書館の中

 
そして相変わらず、他の生徒たちが何を言っているのかぜんぜん分からない。このクラスは幸い、私も含めどちらかというと当てられるまで自分からは発言しない生徒の方が多いのだけど、それでもやっぱり話好きな人というのは何人かいて(主に南米人)、内容が分からないのにしゃべり続けられるとつらい。

最近、多くの日本人が他の生徒の話していることが分からないのは、発音の問題はもちろん、それ以上に外国人の生徒が文法を理解していないことが原因なんじゃないかと思うようになった。一緒に文法の練習問題をやるとよく分かるけれど、みんな本当に何も知らない。こんな基本的なことも?と相変わらず驚かされるのだけど、要するにその文法でしゃべっているから、フランス語の文章になっていないのだ。日本人はたいてい、きちんと文法を勉強していて、正しい文法で構成されたフランス語しか知らない。だから想定外の構造で話をされると、何が述語で何が目的語なのか分析できないのだ。そう考えると、他の国の生徒はみんながしゃべっていることを聞き取れるのも納得できる。自分たちも同じようにめちゃくちゃな文法で話しているから、きっと通じ合えているんだろう。ただ、私はもうだいぶ前から、他の生徒の話を理解することはあきらめている。グループワークを除けば、分かる必要はない。

でも、さすがに25人もいると、先生もいちいち一人ひとりの間違いを直してくれないので、本人も気づかないまま過ぎてしまうことになる。しばらく前から考えているのだけど、文法がデタラメでもとにかくしゃべる方がいいのか、それともゆっくりでも正しくしゃべる方がいいのか、どっちなんだろう。日本人の多くは圧倒的に後者で、よく前者の方がいいと言われるけれど、こちらでは正しくしゃべるように指導する先生の方が多い気がする。そもそも、文法をすでに知ってしまっているのに「とにかくしゃべる」ことはできない。ただ、正確さを気にしすぎるとなかなか言葉が出てこないし授業中に発言することは難しくなる。話す機会が少なければ話せるようにはならないけれど、頑張ってしゃべったところで直してもらえなければ上達しないことも事実。

また、これも最近思っているのは、このままここに住んで学校に通い続けたとしても、今の生活ではおそらくこれ以上しゃべりが上達することはなかなか難しいんじゃないかということ。上のレベルになればなるほどテーマも難しくなり、例えば日本でのサマータイム導入とヨーロッパでのサマータイム廃止についてどう思うかとか、フランスで来年から始まる予定の源泉徴収制度についてどう思うかとか、アメリカのパリ協定離脱についてどう思うかとかはそれなりに言えるようになっても、いつもきちんと授業開始前に席に着いている生徒が遅れてきたときに「どうしたの?」と聞いたり、「下腹だけはどんなに運動しても引き締まらんよね」と相談したり、「ジャガイモはひと口サイズに切る」とレシピを紹介したりというような、より日常生活に密着したことはいつまでたってもスラスラ出てくるようにならないし、場合によっては言い方さえ分からない。でも、学校の授業ではこういうフレーズはなかなか練習できないし、結局は日常的に使うしか方法はないのだ。
 

葉っぱ罫線

 
残念ながら、1カ月目にして早くも学校が退屈になり、毎日仕方なく通っている。宿題も一応あるとはいえ量は少ないし、あまりちゃんと勉強しているという気がしない。せっかくいろいろ大変な手続きを経て入学したのに、少なくともこの学期はもったいなかった。でもまあ、余裕があるのは悪くない。ここに住み続けるためには勉強以外にもいろいろとやらなければいけないことがあり、けっこう忙しくしている。おかげで、楽しみにしていた学部の映画の授業にも出られていない。最近は完全に勉強の比重が下がってきたし、フランス語を身につけられないまま、こうしてまただんだんと仕事中心の生活に戻っていくんだろうなあ。

 

学食
新しく通い始めた大学近くの学食

 

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2件のコメント

  1. はじめまして。CAF申請について調べていたところ、こちらのブログにたどり着きました。
    私も社会人を経て、現在パリの大学院で都市計画を勉強しています。
    語学の授業で、南米人がしゃべりまくることなど、すごい共感しました。笑
    私は、先月銀行口座を開設したのですが、未だにカードが届かないし、OFIIからももちろん連絡ありません。フランスは何度も来たことがありましたが、いざ住んでみると、この国の人たち頭大丈夫かな?と思うことに毎日ぶち当たります。一か月住んでみて思うことは、「とにかく疲れる国」です。笑
    まだ天気が良いだけ救われていますが・・・

    ブログの更新楽しみにしています!長文失礼しました。

    1. こんにちは。コメントありがとうございます。

      本当に、日本のようにはいかないですよね(笑)。
      ただ私の場合は逆で、何もかもがもっとひどいと想像していたので、意外とフランスもしっかりしてるなという印象です。今3年目ですが、これまで日本からの荷物も含め、郵便物も全部ちゃんと届いていますし。
      まあそれでも、役所の仕事の遅さだけはどうにかならないものかと思っていますが……。

      こちらに住んでいる知り合いの日本人は「イライラするけどこっちの方が人間らしい」と言っていました。
      ある程度あきらめて、おおらかな気持ちでいることがコツかもしれません。
      お互い、広い心で頑張りましょうね!

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