フランス語で診察を受ける①

前回、髪のことを書いたけれど、どこに住んでいても病院と美容院だけは日本語対応がいい。そう思っていたにも関わらず、予期せぬ形でフランス語での診察を受けることになってしまった。しかも、続けざまにまったく違った症状で複数の医者にかかるというドラマみたいな展開。

一時帰国から戻ってしばらく経った7月下旬、右膝に痛みを感じる。そういえば数カ月前から、ときどきここが何となく痛くなることはあったのだけど、すぐに治まっていたから気にしていなかった。それがある日、ちょっと遠出して散歩している途中にズキズキし始め、以来、痛みが継続的に。歩けないほどではないのだけどとりあえず診てもらうことにして、おなじみのアメリカン・ホスピタル、通称アメホスに予約。整形外科はすぐに空きがないということで、いったん日本人の先生の診察を受けることになった。この人は内科が専門とのことだけど、パリの日本人の診察を一手に引き受けているだけあって、たいていの症状は診てくれる。
 

アメホス外観

 
とはいえ、痛みの元は調べてみないと分からないため、約1週間後にMRI検査。去年も謎の頭痛でMRI検査をしたから、この病院ではすでに2度目。結果、小さな異常が見つかった。それをどう処置するかはやはり専門の先生に判断してもらう必要があり、後日、同じアメホスの整形外科を受診することに。ここまではすべて日本人の先生が手配してくれたので、指定された日時に指定された場所へ行くだけでよかったのだけど、ついにフランス人医師と一対一。でも、この病院には通訳サービスがあり、必要であれば診察時に頼めばいいとのことでとりあえず安心。

整形外科の待合は患者が多く、いつも静かな日本人セクションとは違いイメージ通りの総合病院といった雰囲気。先生は一人ではないようで、代わる代わる直接呼びに来てくれるシステム。予約時間から約30分、とても落ち着いたダンディーでやさしそうな先生に呼ばれて診察室へ。通訳を頼もうか迷っていたのだけど、たまたま先に同じ医者に呼ばれたのが日本人の男性で、「英語?フランス語?」と聞かれて「英語」と答えていたから、何となくでいいのかなと思い、自力で(もちろんフランス語で)頑張ることにした。

実際、それほど難しいことは聞かれず、すでに検査結果もあるし、簡単な説明のみでちゃんと通じた。面白かったのは、決まった診断書に記入するわけでもなく、PCに打ち込んでいくわけでもなく、小さなメモ用紙にこの人にしか読めない文字で私から聞き取った情報を書いていったこと。継続して受診しそうな人と1回限りになりそうな人を区別しているのかもしれないけれど、あのメモはその後、どうなるんだろう……。でも診察はとても丁寧で、こちらの言うことにきちんと耳を傾けながらゆっくり分かりやすく説明してくれ、すごく安心して受診することができた。前にも書いたけれど、このアメホスは診察費が高く金持ちが通うと言われているだけあって、全般的に対応が丁寧。MRI検査のときも場所が分からず迷っていると、通りがかりのスタッフが声をかけて案内してくれたし。
 

罫線4

 
ところで、パリにいる日本人にとってなぜこの病院がメジャーかというと、もちろん日本人医師が常駐しているから。大手の日本の海外旅行保険会社は大体この病院と提携していてキャッシュレスで診察を受けられるし(ただし整形外科はその場で支払いが必要だった)、総合病院だからどんな症状でもここに来ればまず大丈夫。でもその分、保険料は高い。

ちなみに、フランスも日本と同じ国民皆保険制度で、3カ月以上滞在する場合は外国人でもちゃんと公的保険に入れる。収入がなければなんと保険料無料。移民が多いだけあり、その辺の仕組みや考え方は日本に比べるとだいぶ柔軟なんだろうと思う。留学生の場合、28歳以下であれば基本的に加入が義務になっていて、大きな学校ならそこで申し込みもできるよう。私のように29歳以上だと任意になる。だから、フランス語がまったくできないというのでなければ、こちらの保険に加入して日本の高い保険を解約することも可能で、実際にそうしている日本人滞在者もいた。

ただ、ややこしいのは「かかりつけ医」制度。日本なら、脚が痛ければ整形外科、目に違和感があれば眼科に直接行くけれど、フランスではそうじゃない。まずはそれぞれ独自にかかりつけ医を決めて、どんな症状であれいったんその医者に診てもらう。そこから必要に応じて紹介状を書いてもらい、それを持って行って初めて専門医にかかれるシステム。かかりつけ医はその資格を持つ医者の中から自分で選ばなければならず、近所の医者を指定する人も多いそうだけど、これって外国人にはかなり難しい。保険に入っていれば自己負担は原則3割だけど、かかりつけ医を通さず直接専門医に行けばペナルティーとして7割になり、いずれにしろいったんは全額自己負担で後から請求しなければならないというのもハードルが高い。

だから、保険料負担を減らすためにフランスの保険に加入したとしても、それだけでは日本のようにどの病院でも受診できるわけではなく、結局、使わないだろうと思って入っていない。それに、アメホスの場合は公的保険で賄われる分が少ないといううわさもあり、どちらにせよ高くつくなら日本の保険に入っている方が安心だし、いざというときに日本語が通じるのはやっぱり心強い。そもそも今、日本の住民票は抜いていて国保には入っていないから、日本でちょっと高めの保険料を払っているのと変わりはないのだ。そう考えると、アメホスの日本人医師がパリの日本人にとっての「かかりつけ医」ということになる。

それにしても、風邪もめったに引かず、日本では病院なんてほぼ行かないのに、フランス滞在1年目の2017年、2年目の2018年となぜか2年連続でお世話になり、3年目は高い保険料が安心料で終わるなと思っていたら、期限切れぎりぎりのこのタイミングで最終的に使うことになってしまった。保険料が無駄にならなかったのを喜ぶべきかどうかは微妙だけど……。
 

罫線1

 
診断の結果、膝は今のところそんなに大したことはないとのことで、痛みを取るためにいったん別の病院へリハビリに通うよう指示された。ここで初めて保険会社に連絡し、指定の病院ではキャッシュレスサービスは使えないものの保険金自体は全額下りることを確認。ただ、これが8月中旬のことで、そのリハビリ先の病院はしっかりバカンス中。その後、電話では自信がないので予約を取りに8月の終わりに直接行ってみたところ、整形外科は9月までやっていないからまた来てとのこと……。このときすでに痛みはほぼなくなっていて、それでも行った方がいいかどうか迷っていたところ、突然まったく別の症状に襲われることになる。

 

別病院外観
リハビリ通いを指示された瀟洒な病院

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