パリ解放

5月11日、待ちに待った外出制限の解除日。3月17日から8週間、それなりにやることはあったし、後になって振り返ればあっという間だったと感じるんだろうけれど、やっぱり長かった。閉じ込められている間、部屋の窓からあんなに毎日見えていた青空は消えてしまい、制限解除直後の数日は肌寒い日が戻ってきたものの、すぐにまた少し早めの夏の陽気がやってきた。それから3週間近く、つい2、3日前までずっと25度以上の好天続き。こうなると外に出ずにはいられない。狭い部屋を飛び出し、まさに熱に浮かされたように毎日パリのあちこちを歩き回っていた。
 

空と建物

 
まぶしい太陽に照らされたパリの街は、約2カ月ぶりに自由になった喜びと解放感でいっぱい。青空の下を思うままに歩けるってなんて素晴らしいことなんだろうか!明るい光があふれる美しい街並みを眺めながら、どこにでも行ける幸せに思わずスキップしたくなるぐらい、胸が躍り足取りも軽やか。外出許可証がいらなくなった今、きっと誰もが同じことを感じているはず。その弾む心を表すように、こちらでは真夏といえる気温の高さも手伝って、街ですれ違うパリジェンヌたちもすっかり涼しげな装いに。
 

 
久しぶりにセーヌ川沿いに行ってみると、平日にもかかわらずものすごい人。外出制限が解除された当初はカフェやレストラン、公園も閉まっていたから、自然とみんなここに集まっていたのだけど、驚いたことには9割の人がマスクをしていない!こんなに密集しているのに。確かに、暑いときにマスクをすると危険だといわれているけれど、それにしてももう?パリがマスクをした人であふれるっていう珍しい光景は、せいぜい禁足令が解除された最初の1週間ぐらい。パリより気温が高い日本ではきっとマスクをしている人の方が圧倒的に多いと思うけれど、この辺りの意識がやっぱりぜんぜん違うなと実感。しかも、通りにポイ捨てされているマスクがけっこうあり、ニュースにもなっている。日本人として、というより人として信じられない。
 

 
バスや地下鉄などの公共交通機関は通勤時間帯の朝と夕方、会社の証明書がないと乗れないので、5区の自宅から徒歩圏内かつ普段あまり行かない4区や12区、13区を中心に、たまにはちょっと足を延ばして15区辺りを散策していたのだけど、毎日、新たな場所を発見し、まだまだ知らないところがたくさんあるなあと複雑な気持ち。未知の場所にたどり着くのはすごくうれしいのだけど、一度も行ったことがないところがあるのは悔しい。でも、さすがに点で知っている場所が増えたおかげでそれらが線でつながるのも早く、地図なしで歩ける通りがまたいくつか頭の中に加わって、より深くパリに溶け込めた気がする。
 

5区位置

 
以下、散歩中に見つけた素敵な景色をランダムに。久しぶりに写真をたくさん撮った。
 

 
3週間近く毎日うろうろしていた中でも特に惹かれたのが4区で、1日おきに足を運んでいた。20区すべてを最低1回は歩いたから、もちろん4区にも何度か行ったことはあったのだけど、本当に何度かだけ。観光客も多いけれど、こぢんまりとしていて洒落たブティックが集まる感じのいい区という印象は変わらず、散策が楽しい。そして、すぐ隣の区なのにぜんぜん知らない。セーヌ川を越えるだけで何となく離れた場所というイメージがあり、いつも映画館がある5区内で満足していたから、考えてみたら郊外からパリに引っ越してきて以来、ほとんど足を踏み入れたことがなかったのだ。なぜもっと行っておかなかったのだろう。最近まで足繁く通ったおかげで、やっと区内の方向感覚がつかめてきたところ。コロナ騒ぎがなければ、この小粋で心地よいエリアをもっと知らないまま残しておくところだった。
 

 
6月2日の火曜日からは公園とレストラン、カフェも再開。ただし、人の多いパリ首都圏はまだ感染への強い警戒が必要な「オレンジゾーン」なので、飲食店はテラス席のみ。オープンテラスが当たり前の国ならではの発想だけど、小さな店舗では1、2席しか外に用意できないから、まだ閉まったままの店もけっこう見かける。そして残念なことには、せっかく再開となった翌日の夜に激しい雷雨があり、それから一気に10度以上も気温が下がってしまった。しばらくはこのどんよりした空が続きそうで、飲食業界にとっても、食事やお茶をしながらおしゃべりするのが大好きなパリっ子にとっても、厳しい状況が続く。
 

久しぶりに入れるようになったリュクサンブール公園は相変わらず気持ちがいい

見慣れたはずのこんなオープンテラスの光景も約2か月半ぶり

 
そして、個人的に一番気になっている映画館はというと、6月22日からの再開が発表された!3カ月も映画館に行かないって、フランスに来て最長だ。外出期間中からネットでもたくさんの無料プログラムが配信されているようなのだけど、PCで映画を見るのはどうも苦手。本来なら5月にやっていたはずのカンヌ映画祭も今年は通常の開催がなくなり、短期間とはいえ日常の、いや人生の大きな楽しみを奪われてしまった気分。日本では文化や芸術が軽視されがちだけど、外に出られない間に気分を軽くしてくれたのは、やっぱり(テレビで見る)映画や小説や音楽だった。人は、食べて働いて寝るだけでは生きられない。22日からは毎日、映画館に通わなければ。
 

美容院前
美容院は外で順番待ち

 
それにしても、夏の光を浴びたパリの街ほどきれいなものない。整然と並んだオスマニアンの建物と緑の葉をいっぱいに広げた木々の調和、その葉が太陽を反射してきらめき、ファサードに影を落としている様子は、思わずはっと息をのんでしまうぐらい鮮やかで、美しく、うっとりする。何時間でも飽きずに眺めていられるほど、この街の何気ない景色に心を奪われる。それぐらい自分の感覚にぴったりと合う場所、だからパリが好きなのだ。
 

建物と並木

 
ところで、さすがはフランス人、外出制限期間中からバカンスの話題は尽きなかったのだけど、外国人向けの情報はなかなかニュースではやってくれない。フランス人がこの夏、外国や海辺で過ごせるのかどうかは個人的にどうでもいいから、外出できない間に滞在許可証の期限が切れる人はどうなるのかとか、帰国するため電車に乗って空港まで長距離を移動してもいいのかということを知りたいのに、その辺りの詳細はやっぱり自分で探さなければ見つからない。期限が5月15日までの滞在許可証は自動的に延長されたらしいのだけど、5月16日までの人はどうしたんだろう。まだ本当に外出制限が解除されるかどうか分からなかった5月11日以前に航空券を予約し、解除直後、まだおそるおそる人が街に出始めていたころに電車に乗って空港まで行き、帰国したのだろうか。これはずっと疑問に思っていることなのだけど、実際のところは不明。自分がその立場だったらと考えると恐い。まあこういう部分は外国にいる以上、仕方のないところではあるのかもしれないけれど。
 

1mの間隔イラスト
1mの間隔が示された学校前のイラスト

 
さて、いよいよこの夏の終わりには帰国しなければいけないことになった。今は少し歩けば楽しめるこんなパリらしい景色が、飛行機で長い時間をかけなければ見られないほど遠く離れてしまうことが信じられないし、正直ぜんぜん帰りたくはないのだけど、そういうわけにもいかない。残された時間、思う存分この街を味わいつくそう。
 

セーヌ岸

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